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2021年1月31日~2月6日は「Kindle本も並べられるBOOK☆WALKER新本棚」「インターネット白書2020年版無料公開」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
政治
デジタル教科書 紙と活字が人間形成の基本だ : 社説〈読売新聞オンライン(2021年1月31日)〉★
文部科学省がデジタル教科書本格導入に関する中間まとめの骨子案を有識者会議に示したのに対し、読売新聞の「デジタルは補助教材に留めるべき」というご主張です。なんというか、この読売新聞の紙への「妄執」と言っていいほどのこだわりって、なんなんだろう? と思ってしまいます。「紙の方が記憶が定着しやすい」という意見には、そりゃ使い方次第だろとも思うのです。
そもそも、記録を検索ですぐ掘り出せる状態なら、それほど記憶力にこだわる必要もないわけで。「調べる」ことがこれほど容易くなった時代に、暗記力を試すテストに昔ほど意味があるとは思えないのです。記憶は脳の基礎体力になるので、無意味とまでは言いませんが。
社説:図書館のサービス拡大 出版文化守る配慮が必要〈毎日新聞(2021年2月1日)〉
こちらは図書館サービスの公衆送信対応についての毎日新聞社説。「データの送信」が「著作権の侵害につながる恐れ」というのは、正直、なにを今更感が。スマートフォンが1人1台レベルに普及して、誰もがすぐカメラで撮ってネットへアップできる時代に、図書館だけ妙な制約を残す意味があるのか?(いや無い)という話だと思うのです。
「電子出版市場と競合」というのも、少し恐れすぎでは。むしろ売ってないから困るのであって、売ってりゃ買いますよ。もちろん、結論の「市民の利便性向上と権利保護のバランスを取る」に異論はありませんが。むしろ「権利保護」がいまは強すぎるから、バランスをとって利便性向上を図るべきだと思うのです。
それにしても、私は入手困難資料の家庭配信のほうが社会的インパクトは大きいと思っているのですけど、報道では複写サービスの公衆送信対応だけしか触れていない場合が多い。なぜだろう?
書物にとって税とはなにか、そして奥付とは ――だから消費税の総額表示義務化には反対なのだ〈版元ドットコム(2021年2月3日)〉★
出版社「共和国」下平尾 直(しもひらお・なおし)さんによる、奥付の歴史を媒介とした本と消費税についての論考です。戦前は奥付が義務だったんですね。恥ずかしながら、知りませんでした。奥付には、国家権力による出版統制の爪痕が残されている、と。非常に興味深い。
社会
出版版権マッチングプラットフォーム「JBB」、3月運用開始へ〈新文化(2021年2月1日)〉
昨年11月26日から日本書籍出版協会の公式サイトに「出版コンテンツ情報ご提供のお願い」という募集のお知らせが出ていた「Japan Book Bank」について。第二次締め切りは1月25日だったので、もう募集は終わっています。なぜいまになって記事化されたんだろう? とちょっと不思議に思いあえてピックアップ。
なお、記事にある「Japan Content Catalog」のURLはこちら(↓)。クリエイター、映画、脚本、テレビ番組、ロケーション、アニメ&キャラクター、音楽、ゲームまで揃っているけど、出版物はまだありません。というか、JBBがここに入る、ということですね。
書籍『パブリッシング・スタディーズ入門(仮)』執筆者募集のお知らせ (2月14日締切)〈日本出版学会(2021年2月1日)〉
日本出版学会の「会長プロジェクト」で、執筆者が募集されています。目次案によると、「出版史」「制度」「産業」「書籍」「雑誌」「コミック」「デジタル・コンテンツ」「読書と読者」という8章立てになる予定のようです。原稿料は出ないので、名誉と社会貢献のため、ということになるでしょう。いちおう私も学会員なので、ここでもお知らせしておきます。
小中学校へのデジタル教科書本格導入に賛成が38.3% =日本トレンドリサーチ調べ=〈ICT教育ニュース(2021年2月3日)〉
読売新聞の猛烈な紙推しにも関わらず、世間は比較的冷静です。賛成38.3%、反対17.7%、どちらとも言えない44.0%という結果になっています。なお、日本トレンドリサーチの調査詳細を見ると、「現在、中学生以下の子供がいる」と回答した193名に限定して集計したら、賛成が46.6%と最多になったそうです。
電子雑誌の利用者調査、PVは平日が土日より多い〈AdverTimes(2021年2月4日)〉
日本雑誌広告協会による「dマガジン」を対象とした調査です。平日のほうが読まれているというのは、直感的には「えっ?」と思いますが、恐らく新着配信が平日に偏っているからではないかと。紙の発売日カレンダー(↓2021年度)に準拠している(あるいは紙より遅らせている)はずなので。
時間帯では、週刊誌は7時・12時・22時が多いけど、女性誌は10時・14時・22時が多いというのが興味深い。また、出版社由来デジタル広告に対する意識を調べているのが、調査主体の思いを感じます。紙の雑誌広告市場は減る一方になっちゃってますもんね。
インターネット白書ARCHIVESで2020年版が無料公開に ~ 最新版『インターネット白書2021』発行に合わせ〈HON.jp News Blog(2021年2月5日)〉
毎年恒例、今回で過去24冊分が無料公開となりました。社会的意義の高い活動なので、ぜひ今後も続けて欲しいし、応援したいところです。今回公開された2020年版はコロナ禍前の刊行なので、東京オリンピック・パラリンピックが2020年に開催される前提の近未来予想になっています。とほほ。まあ、まさかこんな事態になるとは、誰も予想できなかったはず。私も、2020年年始の予想は、オリ・パラ開催を前提に書いてますし(↓)。
経済
Appleの個人情報保護強化にGoogleは賛同、Facebookは…〈マイナビニュース(2021年1月30日)〉
フェイスブック、アップルを独禁法提訴へ〈日本経済新聞(2021年1月30日)〉
Googleは「賛同」というか、Appleの提供するIDFAを「使わない」という選択肢を選んでいます。それに対しFacebookはAppleへの反発を強め、独占禁止法での提訴準備を進めている、と。つい「巨大IT企業」とか「GAFA」などと括ってしまいますけど、ある分野ではライバルだけど、別分野ではパートナーで、さらに別分野では最大の顧客だったりするわけで。なかなか複雑な関係です。
アイドックとコギトが「bookend(ブックエンド)」を使ってShopifyベースの電子書籍ECサイト構築サービスを提供開始〈アイドック株式会社のプレスリリース(2021年2月1日)〉
Shopify(ショピファイ)連携で紙の本だけでなく、電子書籍の販売もできちゃうって、なにげに凄い。中小出版社の直販サイト用システムとして使えそう。利用料or手数料が気になるところです。
デジタルでも本棚を眺めてニヤニヤしたい! BOOK☆WALKERの本棚リニューアルについて開発担当者に話を伺った〈HON.jp News Blog(2021年2月1日)〉★
リニューアル直前に取材しました。これまで何度も話を伺ってきましたが、良い意味でスタンスが変わっていないな、と思います。「Kindle」へのリンクが並べられるようにするアイデアはお見事。違うストアで本棚が共通化できない問題の、一つの解決策となり得るでしょう。
表紙画像が大きく表示できるのは良いけど解像度が低い、「本棚順」の並び替えができなくなった、読み放題の新着が反映されなくなった――など、若干の不満点はありますが、きっとすぐ修正してくれるだろうと期待しています。
丸善ジュンク堂書店、本を宅配 注文から最短45分で〈日本経済新聞(2021年2月2日)〉
宅配代行サービスとの提携。いままでも「honto」で注文を受け付け、店頭在庫の「取り置き」まではやっていましたが、こんどはそれを「すぐ配達」する、と。実店舗の周辺だけが対象ですが、最短45分というのはすごい。締め切りに追われている中でどうしてもすぐに参照したい資料がある場合、などに特急対応してくれるオプションが付いたという感じ。本の「Uber Eats」といったところでしょうか。
楽天、「楽天Kobo電子書籍ストア」において、書籍を1話単位で無料で読める「楽天Kobo 話読み」を本格提供開始〈楽天株式会社のプレスリリース(2021年2月2日)〉
無料マンガアプリ系のやり方を逆輸入。ピッコマは「待てば無料」ですが、こちらは「待つと無料」です。まあ、良いところは真似るのが定石。毎日使う習慣を付けてもらうという意味でも、良い施策と思います。というか、楽天Koboのこういうサービスアップデートのお知らせって、なんだか久しぶりな気が。もうちょっと力を入れてくれてもいいのよ?
「コタツ記事」を重宝するWebメディアの大迷走「取材なき記事」や「ネタの盗用」が許される理由〈東洋経済オンライン(2021年2月2日)〉
ネットニュース編集者・中川淳一郎さんによる解説。個人的には最近とくに「スポーツ紙系Webメディア」のコタツ記事量産体制が気になっています。いや、まあ、一定のニーズがあることはわかるし、一時期跋扈していた「まとめサイト」系よりマシかもしれないですけど。紙媒体と、扱っているネタは大差ないかもしれないですけど。
米巨大IT5社、コロナ禍も成長 巣ごもり需要で最高益〈共同通信(2021年2月3日)〉
記事にはAppleの名前しか出ていませんが、Google(の持株会社)、Facebook、Amazon、Microsoftの5社です。揃いも揃って過去最高益更新というのが凄い。巣ごもり需要とITサービスは相性抜群ですもんね。
Amazon、ベゾス氏がCEO退任へ ジャシー氏が昇格〈日本経済新聞(2021年2月3日)〉
そんな中、Amazon創業者のジェフ・ベゾスが7-9月期でついに取締役会長へ退くという発表。こういう大企業は、代替わりが難しいのですよね。まあ、大株主のままですし、重要な意思決定には今後も関与するでしょうけど。ロケット開発ではイーロン・マスクに先を越されているように見えますし、ブルー・オリジン社にもっと集中したいのかな?
スクエニHD、出版事業は過去最高業績、高成長続く 「マンガUP!」好調、「地縛少年花子くん」「薬屋のひとりごと」「わたしの幸せな結婚」が人気〈Social Game Info(2021年2月3日)〉★
デジタル販売が大幅に増加したうえ、紙の販売も好調とのこと。大手に限らず、マンガに力を入れている出版社はいずれも好業績と言っていいでしょう。あやかりたい。
Twitter、ニュースレターを発行できる新機能を追加。クリエイター発の情報発信が加速か【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2021年2月4日)〉★
昨年あたりから「Substack(サブスタック)」が最近注目されている、日本では「theLetter(ザレター)」というのが出てきた、など、いろいろ動きが激しくなってきた有料ニュースレターのサービス。いずれも、「note」のような洗練されたブログサービスと、同じレイアウトのHTMLメールが送れるサービスがワンセットになっていて、有料配信する場合の手数料も安い、という感じになっています。
Twitterの新機能は、買収したばかりの「Revue」というサービスとの連携。ちょっと試してみましたが、Twitterのフォロワーへ配信されるというわけではなく、それとは別にSubscribers(購読者)を集める必要があるようです。CSVでのインポートなどにも対応しているので、他からの乗り換えは簡単そう。エディタでは、Togetterまとめを作るみたいに、Twitterの自分の投稿を簡単に埋め込むことができます。私のアカウントはこちら(↓)。作っただけで、まだ中身がありませんが。
KADOKAWA、第3四半期の営業益は56%増の132億円と過去最高益 出版とゲーム好調 21年3月通期予想を105億円→140億円に上方修正〈Social Game Info(2021年2月4日)〉
KADOKAWAも引き続き好決算。電子書籍はもちろん、紙も「返本率が大幅に改善」しているそうです。決算資料に目を通してみましたが、返本率は30%から25%にまで低下しているそうです。要因として挙げられているのは「書店在庫と連動した自動追送システム導入増」「EC経由販売拡大」「業界取次各社の返品率低減の取り組み強化」の3点。
これ、「ところざわサクラタウン」のデジタル印刷設備のフル稼働は2025年3月期予定なので、さらに改善できる可能性がある、ということになるのでしょうか。5年前の報道では、デジタル印刷機の導入で返本率を20%台に削減(↓)としていたのが、現時点ですでに25%なのですから。
KADOKAWAがIP投資100億円、ソニーとサイバーが第三者割当引受け〈アニメーションビジネス・ジャーナル(2021年2月4日)〉
というKADOKAWAが、ソニーとサイバーエージェントの第三者割当引き受けで100億円を調達。新規IP投資に50億、既存IP投資に50億。「国内外の出版社やアニメーション制作会社、ゲーム会社自体の買収も想定」しているそうです。さらに攻め。
昨年、ビーグリーがぶんか社グループを買収した際、菊池健さんが「今後ますます出版業界周辺の事業再編は進んでいく」という見通しを語ってくれましたが(↓)、これもそういう動きの1つと言えるでしょう。
ソニー(アニプレックス)は爆発的にヒットした劇場版『鬼滅の刃』でも相当儲かっているはずですし、アニメ配信のクランチロールを買収するなど、アグレッシブな動きが続いています。小並感ですが、すごいなあ。
米グーグル、豪で「ニュース・ショーケース」開始 記事に対価〈ロイター(2021年2月5日)〉
オーストラリア政府が報道機関への対価支払いを義務付ける法制化を目指し、Googleがオーストラリアからの撤退を示唆するなど、すったもんだありましたが、結局フランスと同様、無難なところへ着地することになりそうです。スペインの二の舞は避けられた、か。
ブロードキャスティング
毎週ライブ配信している映像番組、2月7日のゲストは嵯峨景子さん(ライター・書評家)でした。上記のタイトル後ろに★が付いている記事について掘り下げています。番組のアーカイブはこちら。
次回のゲストは飯田一史さん(ライター・批評家)です。配信終了後はZoom交流会もあります。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。
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