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5月7日に東京流通センターで開催された、文学作品展示即売会「第二十八回文学フリマ東京」。来場者数は合計5166人と、過去最高記録を更新する大賑わいだった。そこへ訪れた人はなにを求め、そして、どんな本と出会ったのだろうか? 納富廉邦氏に寄稿いただいた。
小冊子だからといって本でないなんてことはない
『かえるの校正入門 ~見落としをふせぐ10のルール~』
文:大西寿男 絵:大場綾 発行:かえるプレス
単行本の企画を出す場合、どうしても最低128ページくらいにはなるような台割を考えてしまう。市場に流通させることを考えると「本」という単位は、大体50枚以上の紙の束が必要だろうと思ってしまっているのだ。今年の文学フリマを見ていて、結局、読みたい人の手に届くのであれば、束なんてどうでもいいのではないかという気になった。
かつて、同人誌はコピー本が中心だった時代には、そういうことは考えもしなかったのだけど、今のように、誰もが書店に並んでいるような外見の本が作れて、高品位の印刷もできるようになると、「その本が欲しい」と思う気持ちと、ページ数は全然関係なくなるのだ。全てが「本」として並んでいるようにしか見えない。
だから、かえるプレス発行の『かえるの校正入門 ~見落としをふせぐ10のルール~』も当たり前に本として購入することに何の違和感も持たなかった。A4三つ折りと同じくらいの大きさの、表紙裏表紙込み12ページのホッチキス中綴じの小冊子でオールカラーの絵本だ。価格は500円。著者は群雛文庫の『セルフパブリッシングのための校正術』でお馴染み、かえるの学校の校正の先生、大西寿男氏。絵は大場綾氏。この小さな本に、校正の基本の基本が全て詰まっていて、それが絵本として気軽に読めて、しかも、多分、これを読めば、とりあえず校正するにあたっての見落としは確実に減るという超実用書。校正を知らない人が読めば、校正がどういうものかという、その肝の部分を理解することができる。そういう「本」なのである。それはもう「本」だろう。内容だけをテキストで書き出せば、3000字程度だけれど、絵本としてデザインされていて、レイアウトされていて、もちろん校正されていて、紙の束として良い紙が使われていて、持っていたいと思わせて、折りに触れ読み返したいと思う。
これを「本」として流通させられないのなら、それはもう、流通が「本」という商品の変化についていけていないというだけのことだし、それを「本」として買える場所があるなら、それは行くわ、ということで、文学フリマには、あんなに沢山の人が集まったのだろう。そして、「かえるの校正入門」は、そこに集まった人たちのためにあるような本なのだ。
それにしても、ほんとに何度でも読み返しては、うーん、と感じ入る本なのだ。そしていちいち沁みる。これ実用書なのだけど、ハウトゥ本でもあるけれど、言葉を流通させるための技術書であり、言葉を扱うための基礎知識でもあるから、そこらの「名言集」みたいなのより、よほど心に直接響く。例えば、
「自分の記憶や感覚をあてにしない」
言葉を扱う人全てが胸に抱くべき、勲章のような言葉ではないか。
参考リンク
かえるの学校