一人のファンとして、著者の新たな一面と出会えた日

COMITIAでこんな本に出会いました

私の東京藝術大学物語
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 5月12日に東京ビッグサイト・青海展示棟で開催された、オリジナル作品展示即売会「COMITIA128」。COMITIAは「創作物の発表の場」として、頒布物をオリジナル作品に限定しているのが特徴だ。そこへ訪れた人はなにを求め、そして、どんな本と出会ったのだろうか? 小桜店子氏に寄稿いただいた。

あなたのことを、もっと知りたい

『私の東京藝術大学物語』
発行:polocco
著者:川崎昌平


 私はCOMITIAで偶然この本と出会った、というわけではない。はじめから『私の東京藝術大学物語』を入手することが目的で、COMITIAへ一般参加したのだ。それは、私が著者である川崎氏のファンだから。そして、この本を通じて川崎氏のことを、より深く知ることができればと、期待を寄せたためでもある。

 著者の川崎氏は作家であり編集者でもある。この本で取り扱っている東京藝術大学の大学院、美術研究科先端芸術表現専攻を修了。大学で講師も務めている。主な著作は、書名が流行語大賞を受賞した『ネットカフェ難民』(幻冬舎)や、弱小出版社に勤務する編集者を主人公に描く『重版未定』(河出書房新社)など、多彩だ。そのため、川崎氏が何者であるかを一言で説明するのは難しい。だからこそ、一人のファンとして川崎氏のことを、より知りたいと思うようになったのだ。

 川崎氏がエッセイのような同人誌を発行したのは今回がはじめてではなく、前回のCOMITIA127では『編集者の尋常な日常』を頒布している。その本では、作家兼編集者である現在の川崎氏の日常が描かれていた。それに対し『私の東京藝術大学物語』では、川崎氏の東京藝大受験時のエピソードが描かれている。作家兼編集者という現在の活動の源流には、学部と大学院あわせて6年間在籍した東京藝大の存在が強くあるのでは。そう仮定したところから、今回の本の制作は出発しているそうだ。

 川崎氏の著作『重版未定』や『編プロ☆ガール』に登場する編集者は、ハードボイルドな性格であることが多い。『私の東京藝術大学物語』で描かれる若かりし頃の川崎氏は、どこか冷めたところがあるように思えた。そういった点が、著作に登場する編集者の、達観して冷静な部分の源流なのだろう。しかし、その登場人物は冷静であると同時に、編集という仕事に対して「熱」を持っているようにも私は感じている。そういった熱量を持ち合わせることについて川崎氏は、もしかすると憧憬の念を抱いているのかもしれないと読めた。

 この本で描かれている川崎氏の姿勢は現在とあまり変化がなく、今後の指針を得るという点では虚しくなったと述べられている。しかし、そうだとしても外野からでは知ることができなかった著者の一面を覗くことができて、一人のファンとしては小さくない収穫だった。著者としては、うまくいかなかったと感じたかもしれないが、私にとっては、この本が出たことは無意味でなかった。この本はCOMITIA128で完売したそうだが、もし再販や通販、電子出版などをされた暁には、ぜひ読んでほしい。著者のファンでなくても特異な受験エピソードは必見だ。

 最後に、『私の東京藝術大学物語』では受験時のエピソードが描かれているが、一人のファンとして私は、東京藝大に進んだ川崎氏が何を体験し、感じたのかについて、とても興味がある。今後のCOMITIAで、また著者の新たな一面と出会えることを期待している。

参考リンク

Kawasaki Shouhei / HyouRyuSya

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著者について

About 小桜店子 52 Articles
1994年茨城県生まれ。栃木県出身。出版社でのムック編集を経て、現在はフリーランスに。学生時代『月刊群雛』に影響を受け電子雑誌を創刊、編集長を務めていた。
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