出版月報の数字は「出版」の統計ではなく、「取次ルート」の統計である

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出版月報より
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 2019年3月期の書籍雑誌推定販売金額は1521億円で、前年比6.4%減 ―― この数字は、公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所から毎月発行されている「出版月報」の、本稿執筆時点で最新号である2019年4月号に掲載されている。本稿では、この数字がなにを示しているのかを、再確認しよう。

 出版月報の表2には「注釈事項」として、次のようなことが明記されている。

この統計は、取次ルート(弘済会・即売卸売業者を含む)を経由した出版物を対象にその流通動態を推計したもので、日本の全出版物を対象にしたものではない。したがって、直販ルート(一部の雑誌を除く)の出版物は含まない。

(※太字強調は筆者による)

 たとえば、日経BP社「日経ビジネス」はABC部数で約18万部のビジネス誌だが、その多くが定期購読であり、取次ルートは経由していない。出版社のディスカヴァー・トゥエンティワンは、書店と直接取引を行っていることで有名だ。「トランスビュー方式」というやり方もある。この辺りの事例は『まっ直ぐに本を売る』(石橋毅史/苦楽堂・2016年)が詳しい。

 もっと言えば、アマゾンと直接取引をする出版社も急増しており、新文化通信社による2019年2月1日の報道によると、直接取引している出版社は2942社にも及ぶという。しかし、出版月報の注釈事項の続きにはいまだに、以下のようなことが書かれている。

95年7月に公正取引委員会が発表した「事業者アンケート調査」による流通経路別の販売比率によると、取次ルート(弘済会・即売卸売業者を含む)は書籍の7割近く、雑誌の9割強を占めている。

(※太字強調は筆者による)

 つまり、出版月報では1995年7月の調査結果が、2019年になっても参照され続けているのだ。アマゾンが日本語版サイトをオープンしたのは、2000年11月。その後、「書籍の7割近く、雑誌の9割強」という数字がどのように変化したのか、出版科学研究所はアップデートを図っていないことになる。

 また、出版科学研究所が毎月発表する数字には、電子出版物の販売額が含まれていない。2015年から推計値を発表するようになったが、年2回に留まっている。なお、出版月報2019年1月号によると、2018年の電子出版市場は2479億円と推計されている。

 なお、日本出版販売株式会社の『出版物販売額の実態2018』によると、出版社直販は構成比8.0%、電子出版物は構成比11.6%とのことだ。

 こういった前提は、出版業界の方々はもちろんご存じだろう。しかし残念ながら冒頭に書いたような、出版月報から「前年比何%減」という数字だけをピックアップした記事を目にすることも多い。

 出版月報には確かに「日本の全出版物を対象にしたものではない」と明記されているのだが、数字を二次利用した記事には記されていないことが多いのだ。その記事の読者には、このような前提が共有されていない可能性が高いのではないか。

 発表された数字というのは、えてして一人歩きする。出版月報の数字には、出版社直販や電子出版物の数字が含まれていないことを念頭に置く必要がある。これはあくまで「取次ルート」の数字であって、「出版」全体の統計ではないのだ。

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著者について

About 鷹野凌 831 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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