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株式会社インプレスR&Dは3月22日、Amazon POD(プリント・オンデマンド)で2018年1月以降に個人が出版した書籍を対象とした「ネクパブPODアワード2019」の受賞作品を発表した。最優秀賞は亀山永子氏による切り絵絵本『よこいしょういちさん』。3月29日には授賞式が行われる。
インプレスR&Dの著者向けPOD出版サービスは、サービス開始から約2年半でAmazonでの累計販売額が1億円を超え、直近3カ月の月平均販売額は1000万円に達している。つまり、個人のPOD出版が、中堅出版社に迫る規模にまで急成長している。
ネクパブPODアワード2019は「進化する”著者になる夢”」をキャッチコピーに、出版内容、革新性、販売実績などが優れた書籍に贈られる。アワード対象期間に発売された書籍は、前年度の292点に対し811点まで増えている。エントリーは著者自身が行い、作品が生まれた背景、作品に込めたメッセージ、読者の反応、出版で得られた体験などをアピール、審査時の評価対象とした。
エントリー作品の一覧はネクパブPODアワード2019のページで公開されており、「販売数(累計)」「販売週(1冊以上売れた週数)」「レビュー数」をもとにした4段階のメダルが表示されている。
受賞作品は以下のとおり(タイトル・書影のリンク先はアマゾンアソシエイト)。
最優秀賞(賞金50万円)
亀山永子『よこいしょういちさん』
作品紹介
太平洋戦争中グアム島に渡り、終戦後も帰国できずに28年間ジャングルで生き抜いた元日本兵、横井庄一さんの生涯を描いた切り絵の絵本です。
横井庄一さんの生涯は、戦争の恐ろしさ、理不尽さだけでなく、命を大切にすることの尊さも教えてくれています。過酷な運命に屈することなく、与えられた命を精一杯生き抜いた横井庄一さんの生き様から、毎日学校へ行くこと、仕事に行くこと、家族で一緒に食事をすること、布団の中で眠ること、こんな当たり前のことが、実はとても有り難いことだと気づかされます。
横井庄一さんの生い立ちから戦中戦後の出来事、帰国後82歳で亡くなるまでの生涯を、小学生でも読めるよう、できるだけ易しい言葉で表現しました。大人も子供も一緒に読める絵本です。
寸評
著者が手づくりの絵本をPOD出版した書籍です。ボランティアで読み聞かせをしている著者が手づくりした本は1年で800冊。これ以上の製作は負担と感じていたところに注文ごとに製造するPODの存在を知り、制作費用や在庫の負担がないことから、出版にチャレンジしました。横井庄一さんの生涯がモノクロの切り絵とやさしい文章でまとめられており、A4サイズの判型は読み聞かせにもぴったりです。
子どもたちに平和の尊さを語り継いでいくための絵本を出版し、より多くの人に届けたいという著者の想いは、社会的にも出版的にも高い意義があると評価されました。
優秀賞(賞金20万円)
中山茂『Python クラウド量子計算 QISKITバイブル』
寸評
既存出版社でも出版実績のある著者がPOD出版した書籍です。頻繁にバージョンアップがあるIT関連をテーマにした書籍は、著者が改訂版を出したくても、在庫を理由に出版社から出版を断られるケースもめずらしくありません。自分の著作なのに、出版時期や表紙なども自由に決められない点に不満を感じた著者が、POD出版のメリットを生かし、最先端のIT技術を解説した書籍を出版したことを評価しました。著者は、このほかにも多くの著作をPOD出版しています。
また、地方在住で現在70歳の著者が、自宅で出版活動に取り組んでいることは、出版意欲のある方々にとって大変励みになる事例であることも高く評価されました。
マジェリン&かっと『似顔絵って難しいよね 似せるための観察方法と考え方』
寸評
似顔絵師の夫婦2人で制作した似顔絵の技術書です。A5判とコンパクトな判型ですが、似顔絵サンプルは150点以上が掲載され、似せるために必要な観察方法と考え方が解説されています。似顔絵教室で使う教科書ですが、アマゾンで販売すれば、より多くの方に読んでもらえるチャンスがあると思いPOD出版したそうです。
また、販売面から見ても、2018年1月の発売以降、日々コンスタントに売れているロングセラーであることが評価されました。対象期間内に700冊以上、約170万円の売上実績がありました。
小西伸也『超簡単メガビタミン入門1』
寸評
分子栄養学という、一般の方には難解な内容を中学生でも理解できるようにと、手技治療院を経営する著者が解説した書籍です。難しい理論をわかりやすくするため、本文は対話形式で構成。例えを使って、気軽に読み進められるように工夫されている入門書です。また、本書以外にも次々に書籍を出版し続ける著者の旺盛な執筆力も評価しました。
販売面でも対象期間内に3200冊以上、約390万円もの売上実績、アマゾンでのカスタマーレビューの多さも評価ポイントとなりました。
藤川徳美『分子栄養学による治療、症例集』
寸評
著者は広島県で心療内科クリニックを経営、出版社から書籍を出版した経験もあります。約15000人のフォロワーを抱えるFacebookで情報発信をしてきましたが、もっと多くの人に分子栄養学理論や治療症例を知ってもらいたいと考え、まとめたのがこの書籍です。総論と疾患ごとの治療例の2つに分けて構成されています。
販売面でも、2000円と健康関連書籍ではやや高価ですが、約2200冊、450万円以上の売上実績があった点が高く評価されました。
伊藤潤『アレルギー検査のミ・カ・タ』
寸評
アレルギーを専門とする現役医師が、アレルギー患者への説明用に作った書籍。親しみやすいイラストも著者の手によるもので、すべての漢字にふりがな付き、オールカラーとていねいに作られています。POD出版サービスでは、執筆はもちろんのこと、表紙デザインやイラストなど、製作面のすべてを自分で手がける著者が多く、完成した書籍への満足度も高いのが特長です。この書籍も、著者自身が読者のためを思い、工夫しながら楽しんで製作した様子が紙面から伝わり、好評価を得ました。
パット・ギャレット(著)/西川秀和(訳)『ビリー・ザ・キッド、真実の生涯』
寸評
飜訳者がSNSで購入者を募り、POD出版した書籍です。紙の書籍を出版するにあたり、自費出版は費用もかかるため、注文後に製造できるPOD出版を選んだとのこと。SNSとPOD出版という、新しい時代の宣伝方式と出版方式の組み合わせで効果を出した点を評価しました。あるゲームに登場するキャラクター「ビリー・ザ・キッド」から、史実にも興味を持つファンに、この本を読んでもらいたいと思ったのが翻訳のきっかけだそうです。
SNSの宣伝告知により、24時間で100冊以上が売れるという快挙を達成しました。
審査員特別賞(賞金5万円)
Amazon賞
岩﨑千治『「やればできる」が身に着く 小学生 新体力テストの攻略本』
イースト賞
chica『ふたごべん おべんとうづくりから気付いた、生きるということ』
近代科学社賞
Nikolai Rimsky-Korsakov(著)/平沢奏汰(訳)『管弦楽法の基本』
インプレスホールディングス賞
池田青谿『一刻一生』
インプレス賞
川上悠季『消費税法 無敵の一問一答 課否判定一覧集』
NextPublishing賞
山本義徳『ウェイトトレーニング -実践編-』
参考リンク
ネクパブPODアワード2019