「新聞のエモい記事」「スマホが学力を破壊?」「大学図書館とデジタルライブラリー」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #633(2024年8月25日~31日)

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 2024年8月25日~31日は「新聞のエモい記事」「スマホが学力を破壊?」「大学図書館とデジタルライブラリー」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

グーグルとカリフォルニア州、全米初のニュースルーム支援で合意・・・業界は賛否両論〈Media Innovation(2024年8月24日)〉

 先週、第一報をピックアップしましたが、業界側の反応が出てきました。賛否の否は要するに、ジャーナリズムの担い手として政府や特定企業の資本に依存してしまうことの危険性、ということのようです。日本でも、総務省会議の偽情報対策案に対し、表現の自由を侵害する恐れやファクトチェック機関と政府の関係性を危ぶむ声などが挙がっていますが、同種の話と言っていいでしょう。

 「スポンサーにとって都合の悪い情報が流せなくなるのでは?」と見られてしまうことは、どうしても避けがたい。私自身は、けっこう遠慮なく批判も称賛もしたうえで「関係性開示」をして、あとの判断は読者に委ねるようにしています。残念ながらそのことについての反応をもらったことがないので、どこまで意味があるかはわかりませんが、そういう姿勢を貫くことは重要だと考えています。

図書館と書店が連携、地域の「読者人口」増やす…文科省が支援へ〈読売新聞(2024年8月27日)〉

 昨年4月の書店議連の提言(PDF)で、書店と図書館の連携は文科省の役割と位置づけられていました。その方向性に沿って「書店・図書館等関係者における対話の場」が設けられたり「図書館・書店等連携実践事例集」が取りまとめられたりしてきました。その流れに沿った今後の動きなのですが、以下の箇所を読んで「は?」と声が出ました。

来年度予算の概算要求に関連経費4100万円を盛り込む。

 その金額でなにができるというのか。いや、もちろんなにもしないよりマシかもしれませんが。

偽情報対策、OPの国際標準化を支援…総務省が概算要求に20億円〈読売新聞(2024年8月28日)〉

 そのいっぽうで、総務省はオリジネーター・プロファイル(OP)の国際標準化に向け、20億円の予算を要求しているわけです。国が動くなら、最低でもこれくらいの予算は欲しいところですよね。

自治体HPで著作権侵害の指摘… イラスト使用料240万円余り請求される 市は争う方針 愛媛・西条市〈TBS NEWS DIG(2024年8月27日)〉

 これ、争ったところで勝てる要素ありますかね? 可能性としてあり得るとしたら、ダウンロードしたときの規約が、あとから変更されていたようなケースでしょうか。でも、それならそう主張するでしょうし、相手も情状酌量する可能性は高そう。

「フリー素材」の“落とし穴” 「学級新聞」で損害賠償が増加 著作権の専門家が背景を解説〈オトナンサー(2024年8月26日)〉

 ほぼ同タイミングで、関連する話題の解説記事が出ていたので、合わせてピックアップしておきます。市と違い、学校での利用には著作権法第35条の例外規定があります。しかし、これを曲解している人も多いんですよね。「なんでも自由に使える」わけではありません。

 だから私は、教える立場ではなるべく35条に依存しないようにしています。それに慣れちゃうと危ないんで。学生にも「授業の中なら例外的に許されるけど、社会に出たら通用しないよ」と、事例を教えるようにしています。西条市の記事も、事例フォルダに格納しておきます。

大学図書館が連携し「デジタルライブラリー」構築…文科省方針、いつでもどこでも閲覧可能に〈読売新聞(2024年8月28日)〉

 本件、ようやく全国紙でもニュースになりました。7月にはすでに文部科学省の検討会からロードマップが出ているんですよね。この記事の最後でも触れられていますが、2025年度の競争的研究費(科研費)から即時オープンアクセス化が義務づけられる予定です。「大学図書館が保有する書籍や資料などをデジタル化」というのは、今後についてはオープンアクセスにより実現していく方向性だと理解しています。それを受け、日本図書館情報学会が学会誌のエンバーゴを廃止なんて動きもありました。出版社側の反発って話もあったんですが、どう折り合いが付いたんだろう?(もしかして:まだ折り合いが付いていない?)

社会

Japan’s adult manga sellers fear global credit card companies’ wrath(日本の成人漫画販売業者、世界のカード会社の怒りを恐れる)〈Nikkei Asia(2024年8月26日)〉

 Nikkei Asia(日経の英語メディア)がこの問題についてけっこうがっつり取り上げてます。日本では合法コンテンツなのに、というあたりもきっちり押さえています。こういう意見の英語での発信、けっこう重要かもしれません。

スマホが学力を「破壊」する、成績不振は勉強不足や寝不足ではなかった新事実 中高生4人に1人が「ネット依存」の恐ろしさ〈東洋経済education×ICT(2024年8月27日)〉

ネット依存やスマホ依存は「病気」として認定されておらず

 冒頭にこう書いてあるだけマシですけど、危険性の煽り方が「ゲーム脳」が出てきたときと似ていて、私はなんか嫌な印象を受けました。そもそもスマホっていろんな用途があるわけですから、利用時間だけで比較すべきではなく「なにに使っているのか?」がポイントだと思うのですよ。

 そりゃ毎日3時間以上をなにかに費やしていたら、それがスマホじゃなくたって、他に悪影響が出るでしょう。「ゲームをやっていると馬鹿になる」「テレビを観ていると馬鹿になる」「マンガを読んでいると馬鹿になる」「小説を読んでいると馬鹿になる」「本を読むと馬鹿になる」の系譜だと思うんですよね。

人気漫画「デデデデ」、著名教授のXアイコンを無断使用 原因は「作業上の確認漏れ」、版元は今後「しかるべき対応」〈J-CAST ニュース(2024年8月27日)〉

 ダミーデータは事故のもと。パッと見てダミーだと分かるように「〓(ゲタ)」を入れておいても、スルーされることが多々あります。怖い、怖い。

なぜ新聞を取る人が少数派に転落したのか…生き残りをかけて「エモい記事」を氾濫させる新聞の根本問題 「新聞社って、こんなに否定されることが嫌だったのか」〈PRESIDENT Online(2024年8月30日)〉

 元記事のコメントプラスに書かれた朝日新聞の方の反論を読むと、さすがに「エモい記事を全否定された」とは捉えておらず、「要はバランス」ということは理解されているようです。「文系不要論のようにきこえる」というのは、さすがにちょっとうがち過ぎだろう、とも思いますが。

 ウェブに過剰適応していくと、タイトルで釣ったり、喜び・怒り・悲しみ・驚きといった情動に強く訴えかける方向へ走りがちです。でも、そういう記事って従来は、スポーツ紙や週刊誌、あるいは、まとめサイトなんかが得意としていたわけです。新聞が同じ土俵に立ってどうするの? と、私なんかは思うわけです。

 私はバリバリの文系ですが「エビデンスの提示やデータの分析」が大好物です。でも私みたいな人は少数派という自覚もあります。「エビデンスの提示やデータの分析」だけでは、マスには届かないかもしれません。エモい記事のほうがバズる確率は高いかもしれません。

 でも、もしかしたら、エモい記事がフックになって「エビデンスの提示やデータの分析」をしている別記事を読んでもらえるかも――そう主張するのであれば、その仮説を検証してみるべきでしょう。西田氏・大澤氏の二人が言うように、エビデンスベースで反論して欲しかったと私も思います。

 まあ、もしかしたら、紙面レイアウトに囚われてしまっているのかもしれない、とも思いました。1ページとか見開き2ページがまるごと特定のトピックスに関連する記事群で埋められているような「特集」の形態であれば、その中の記事のひとつがエモい切り口でも不自然ではありません。

 しかし、記事がウェブに配信されると、多くの場合、その記事単位でしか読まれません。仮に記事末尾で特集全体のページへ誘導していても、そのページを開く人のほうが少数派でしょう。Yahoo!ニュースやスマートニュースなどの外部配信だと、その傾向はより強くなります。バラバラに切り裂かれ「特集」という文脈は消失します。

 というのが、私のこれまでの経験と自分のところのデータを見てきた実感なのですが、他ではどうなんでしょう? 他のデータが見たい。データが。

本当に「エモい記事いりますか」 メディアコミュニケーションとビジネスの両面から考える〈松浦シゲキのメディア・コミュニケーション・インサイト(2024年8月26日)〉

 松浦シゲキ氏による分析も面白かったので、合わせて紹介しておきます。こういう論考が新聞社側から投げ返されるようになると、もっと新聞が面白くなると思うんですよね。

経済

紙の漫画を続けていたら、家賃6万8000円すら払えなかった…「パッとしない」漫画家が年収2000万円を稼げる理由 7人のアシスタントは全員リモート勤務〈PRESIDENT Online(2024年8月26日)〉

 サイバーエージェント系のCygamesが運営するマンガ配信サービス「サイコミ」で連載している漫画家の事例です。小学館「裏サンデー」「マンガワン」の創刊編集長だった(いまは独立)石橋和章氏がX(旧Twitter)に投稿している「ほぼ漫画業界コラム」で、最近の電子コミック事情について「(ユーザーデータを持っている)電子ストア配下の編集部は勢いづいています」と言及していますが、その話とも符合します。いやあ、ほんとうにマンガは別次元に到達していますね。だいぶ競争も激しくなっていて、後発参入組は厳しいようですが。

2024年7月期 紙書籍雑誌推定販売金額は前年同月比3.9%増 ~ 出版指標マンスリーレポートより〈HON.jp News Blog(2024年8月26日)〉

 毎月恒例にする予定が、上半期の数字だけ記事化して、6月期単月の記事化を忘れているというポカをやらかしました。申し訳ありません。今回のトピックスは、雑誌が1年ぶりに前年同月比プラスになったこと。喜ばしい。ただし、理由として真っ先に挙げられているのは「平日が2日多い」こと。それって、前後の月がそのぶんマイナスになるってことですよね? 喜んでいいのか、微妙な気持ちになりました。

全国紙が一部地域で発行休止に。坂口孝則が語る「メディア企業の生き残る術」 – 経済・ビジネス – ニュース〈週プレNEWS(2024年8月26日)〉

……といったことをメディア人に語るのだが、理解してもらった記憶がない。「まあそりゃ、メディアの社会的意義を理解していないってことでしょ」と笑われる。それなら上場を廃止しろよ。生き残るためにもっと稼げよ。

 新聞の話から続けてこの段落だったので、「あれ? 上場している新聞社ってあったっけ?」と疑問に思ってしまいました。タイトルにある「メディア企業」という括りで、テレビ系のホールディングスのことを言ってるのかもしれません。クロスオーナーシップですもんね。例えば、日本テレビホールディングス(上場企業)の筆頭株主は読売新聞グループ本社(非上場企業)です。

インディーズマンガおよびインディーズ Fliptoon への広告掲載に関するお知らせ〈KDP Community(2024年8月28日)〉

 作品を閲覧する側も無料、発行する側も無料どころか基金から分配金までもらえる状態がいつまで続くのだろう? と思っていました。9月末頃からついに、広告が掲載される形になるそうです。どういう広告が入るのか、また、どういう形で広告が入るか次第ですが、ユーザー体験への影響が心配です。エピソード単位配信なので、次のエピソードへ進む際に広告が挟まる形かな? とは思うのですが。著者側に「広告を非表示にする設定方法」が用意されるようですが、なにか条件はあるのかな?

関係性開示:アマゾンジャパンには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

“急がない”利用者向けの「待っトク便」、楽天ブックスが開始 背景にあった課題は?〈ITmedia ビジネスオンライン(2024年8月29日)〉

 hontoの通販が終わってしまってから、私は本の通販は楽天ブックスを使っています。送料無料なのに思いのほか早くて、昨今の宅配事情を考えるとなんだか逆に申し訳ないなと思っていました。その気持ちにすっぽりはまる施策が登場です。急ぎで欲しいときもありますが、そういう場合はむしろ電子で買えるほうがありがたい。とりあえずキープしておくけど、すぐには読まない(読めない)場合のほうが、私は多いです。ポイント還元までしてくれるなら、むしろ積極的に使っていきたい。

技術

AI Overview内のリンクの99.5%はウェブ検索の上位表示ページ、AIOはコアアップデートの影響を受ける〈海外SEO情報ブログ(2024年8月27日)〉

 一般公開前のSGE(Search Generative Experience)はGoogle検索とは別のアルゴリズムで動いていたようですが、一般公開後は共通度が高くなっているとの検証結果が出ているそうです。その結果どうなるか? を予想すると、AI Overviewの下に通常の検索結果が表示されるわけですから、単純に考えて、共通する上位3つくらいにいままでよりアクセスが集中することになりそうです。まあ、従来でも上位3つくらいのCTRが高いわけですし、大きく傾向は変わらなさそう。

NFT価格、2年で10分の1 バブルの跡からビジネスの芽 価格は語る〈日本経済新聞(2024年8月28日)〉

 NFTというか、OpenSeaをはじめとする「NFTマーケット」に投機マネーが雪崩れ込んで、バブルになったわけですよね。あの狂乱はなんだったのか。それ以前からマネーゲーム的ではない形で技術を適切に活用しようとマジメにコツコツやってたところに、いまようやく脚光が当たるようになってきた感があります。一緒にされてしまってたのが気の毒でした。

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日刊出版ニュースまとめ

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雑記

 まさか1週間経ってもまだ台風10号が日本の近くをウロウロしているとは。ずっと雨続きで嫌になります。東海道沖でほとんど停滞していたのが、9月1日の昼過ぎにはようやく熱帯低気圧に変わったとのこと。でも、いまも外はどしゃぶりです。雨雲レーダーを見たら、なんか巨大な線状降水帯が見えるような……(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 813 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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