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2021年7月25日~31日は「出版関係者の舌禍相次ぐ」「上半期出版市場8632億円、前年同期比8.6%増」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
社会
SNSでプラモ転売容認のホビー雑誌編集者、退職処分に 上司3人も降格 ホビージャパンが発表〈ITmedia NEWS(2021年7月26日)〉
テニス敗退の大坂なおみに差別的ツイート 徳間書店、投稿した編集者との契約を解除〈J-CAST ニュース(2021年7月28日)〉
KADOKAWA夏野剛社長、役員報酬の一部返上 ABEMA番組での発言めぐり〈弁護士ドットコム(2021年7月28日)〉
出版関係者による舌禍が3連発。同じようなタイミングで、五輪開会式直前に関係者の過去発言や行動などが問題視され辞任・解任という事件も連発しており、なんなのだこれはと暗澹たる気分になりました。とくに夏野剛氏のAbemaTVでの発言は、GoogleやAppleの審査に通らないことを理由に表現規制を強化したいという趣旨のものであり、出版社社長の発言として考えるとちょっと許容しがたいものがあります。「僕がいる出版業界は(表現の)自由派ばっかりなんだけど」と、立場も自覚した上で発言してますし。まあ、iモードでは実際にやっていた規制かもしれませんが。
図書、雑誌、博士論文等約27,700点を「国立国会図書館デジタルコレクション」に追加しました〈国立国会図書館―National Diet Library(2021年7月27日)〉
国立国会図書館デジタルコレクションへの資料追加のリリースは随時行われており珍しいことではありませんが、リリースに書かれた「これらの資料については、本文はインターネット公開していません」に引っかかっている方がいたのでこの機会に改めて。昨年来、何度か書いてきた「図書館の本がスマホで閲覧可能に」関連の話です(↓)。
図書館資料をせっかくデジタル化したのに、なぜ本文をインターネット公開しないのか? というと、端的に言えば著作権があるから。無断で勝手に公開すると、既存のビジネスを阻害する恐れがある(と思われている)からです。
ただし著作権法の例外規定により、「一般に入手することが困難な図書館資料」の多くは国立国会図書館が提供している「図書館向けデジタル化資料送信サービス(図書館送信)」に参加している館内限定で、現時点でも閲覧可能になっています(↓)。約151万点。
これが改正著作権法により来年のいまごろには、事前登録者(ID・パスで制御)向けに開放されることが決まっています(↓)。もう市場には流通していない資料なので既存のビジネスに影響する恐れが低いことから、ユーザーの利便性をより高める方向へ進むことになったというわけです。いやあ、楽しみだ。
たちかわ電子図書館に「コトブキヤ・プレゼンツコーナー」 クリエーターらが選書〈立川経済新聞(2021年7月30日)〉
立川市の電子図書館に対し、地元の複数の民間団体から、ライセンス費用を負担するという形での寄贈の申し出があったとのこと。すばらしい。電子図書館サービスも、自治体によって予算にかなり格差があるようなので、こういう形で少しでもギャップが埋められると良いなと思います。
経済
2021年上半期出版市場(紙+電子)は8632億円で前年同期比8.6%増、電子は2187億円で24.1%増 ~ 出版科学研究所調べ〈HON.jp News Blog(2021年7月26日)〉
昨年、『鬼滅の刃』がスマッシュヒットした反動で、今年は落ち込むのではといった観測も事前に散見されましたが、上半期は紙も伸長という結果に。電子コミックは25.9%増と急成長が続いていますが、コミックス(紙)も約16%増とすごい伸びです。電子書籍(文字ものなど)も20.9%増。
なお、出版月報7月号の上半期電子出版市場動向では、コロナ禍以降、電子図書館サービス導入館が急増していることに触れられています。ただ、出版科学研究所推計の電子出版市場は、「小売り額としての販売金額(読者が支払った金額、税抜)」という定義なのですよね。
電子図書館(電子書籍貸出サービス)は読者が直接対価を支払うわけではなく、地方自治体や学校・企業などが対価を支払うBtoBの市場です。つまり出版科学研究所が推計する電子出版市場に、電子図書館市場は含まれないのです(出版科学研究所に確認済み)。話題としては触れられているけど、現時点の数字には含まれていない点には注意が必要です。これから市場が大きくなると、定義が変わるかも?
A+ コンテンツで本の商品詳細ページを魅力的にしましょう〈Kindle ダイレクト・パブリッシング コミュニティ(2021年7月27日)〉
KDPに新機能。管理画面の「マーケティング」に「A+ コンテンツ」という、商品紹介ページへのモジュール追加メニューが登場しています。シリーズ・著者の経歴・表紙アート・本のサンプルなどのメタデータが追加できる。これは良い。ぜひ他店も見習って欲しい。
Amazonの商品詳細ページには以前から、下部に「出版社より」という項目でメタデータがやたらと多く記載されている本が存在していました。恐らくこれは、従来はベンダーセントラルだけに提供されてた機能だと思われます。それがKDPにも解放された、と。
もちろんなんでも書けるわけではなく、公開前審査が必要となります。ガイドラインには「一般的な拒否理由」として、価格設定またはキャンペーンの詳細、カスタマーレビュー、時間依存の情報、出版物の引用などが挙げられています。ではどういう情報を出せばいいのか? というのは、すでに出版社が先行しているわけですから、手法を真似てみるのが良いのではないかと。
技術
ビットコイン急落、4万ドル突破後に-アマゾンが支払い巡る臆測否定〈Bloomberg(2021年7月26日)〉
この記事、ちょっとびっくりしたのでピックアップ。初報(7月26日 23:10 JST)は、Amazonが「デジタル通貨とブロックチェーンの戦略」を策定する幹部を募る求人情報を掲載したことで、ビットコイン決済がAmazonに採用されるのでは? という観測によりビットコイン相場が急伸した、というニュースでした。Internet Archiveに証拠が残っています(↓)。
ところが、Amazonはすぐにその憶測を否定、ビットコイン相場は急落します。それをうけBloombergはなんと、同じ記事をアップデート。初報は「急伸」なのに、更新日時7月27日 6:41 JSTの時点で「急落」と、真反対に書き替えたのです。わお。
通信社など速報主体のメディアで、初報をとにかく早く出し、あとから情報をアップデートしていくやり方はよく見かけます。が、同じ記事を真反対の内容に書き替えたうえ、それを明記していない(更新日時だけ)というのは、さすがにちょっと酷い。
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