《この記事は約 14 分で読めます(1分で600字計算)》
2024年3月31日~4月6日は「2022年出版輸出額は3200億円」「はやくAIに仕事を奪われたいライター」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
物流「2024年問題」 秋田の書店で書籍入荷が一日遅れる影響|秋田県〈NHK(2024年4月5日)〉
時間外労働の上限規制が適用される、物流「2024年問題」の影響がさっそく……というニュース。「書籍入荷が」の見出しに「ん?」と思ったのですが、雑誌の入荷は以前から発売日より1日遅れだったそうです。4月1日以降、文庫本や文芸書も遅れるようになったとのこと。
しかし、雑誌はともかく、書籍の発売日ってそんなに厳密でしたっけ? 出版科学研究所のコラムにも「書籍や一部の雑誌(不定期誌)には明確な[発売日]というのがない」とあるんですけど。「いままでならこの日に届いていたはず」から1日遅れるようになった、ということかしら?
(社説)AIのリスク 疑念にこたえる議論を〈朝日新聞デジタル(2024年4月6日)〉
企業に自主的な取り組みを促すだけで実効性が得られるのか? という批判です。「著作権法を改正せよ」とばかり主張している他紙の社説に比べたら、かなりまともな、耳を傾けるに値する意見だと感じました。EUのAI規制法みたいな、事業者に透明性確保を義務付ける規制はもうそろそろ検討していいと思うのですよね。
社会
書店・図書館等関係者における対話の場のまとめについて | トピックス〈一般財団法人 出版文化産業振興財団(2024年4月1日)〉
先週、まとめ(案)段階のものを取り上げましたが、週明けすぐに確定版が公開されました。少し内容が変わっていることに気づいたので、日本図書館協会のサイトで公開された第4回会合の議事要旨を確認してみました。
すると、大場博幸氏(座長)の研究成果である「①平均すれば、全体として図書館による新刊書籍市場の売上へのマイナスの影響は大きくないこと」と「②同時にそれは一部のベストセラーに限ればマイナスの影響が小さくないこと」を共通認識とした点を、この対話の場だけでなく「広く図書館界や出版界に受け入れるよう促したい」といった意見が反映されたものであることがわかりました。
【構成員】(略)我々は、この点について決着しましたと。図書館界も出版界も認めましたとしないと、スタートはここですから。ここを曖昧にしたまま手を組みましょうというと、また蒸し返されてしまうようなことになります。はっきりと終えて、業界全体で共通認識にしましょうという提言をしたほうがいいと思うんです。
【構成員】と匿名化されていますが、誰の発言かはなんとなく想像がつきます。こういう釘を刺しておくのは大事ですよね。根拠レスで蒸し返すなよ! と。
なぜウェブライターの仕事は減ってしまったのか…人気ライターが「AIにはやく仕事を奪われたい」という理由 じっくりと取材するサイトはどんどん更新停止になっている〈PRESIDENT Online(2024年4月2日)〉
ライターのpato氏が、「AIにはやく仕事を奪われたい」と言いつつ、それでも「生成AIは人間が書く文章に到達できない」と看過しています。生成AIに足らないのは「苦悩」「葛藤」「自問自答」だ、と。「僕は絶望から文章を書きだし、最後に妥協を持ってそれを世に送り出す」とも。それほど苦悩し葛藤しながら文章を紡いでいるのですね。それに比べたら、私は軽いなあ。
ただ、生成AIの出力する文章が人間の文章に到達できないとしても、問題はpato氏の言うとおり「じっくりと取材をしたり、書き手がじっくりと苦悩したり、じっくりと調べて書くような記事は採算が合わない」ところなのですよね。生産速度が段違い。確かに、文章の質では負けなくても、採算がとれないから負ける可能性は高そうです。広告収益のためページビューしか見てないような領域ではとくに。
まあ、そういう領域で勝負しちゃダメだということですよね。
「この絵、生成AI使ってますよね?」──“生成AIキャンセルカルチャー”は現代の魔女狩りなのか 企業が採るべき対策を考える〈ITmedia AI+(2024年4月3日)〉
HON-CF2023「生成AIと著作権」セッションにご登壇いただいた小林啓倫氏の「(生成AIに対する)キャンセルカルチャーは、結果的に人間のクリエイターすら不幸にしてしまうのではないだろうか」という問いかけです。その懸念、私も共感します。
この記事でも取り上げられているプリキュアの商品イラストに対する非難に続いて、この記事公開の直前には、海上保安庁が生成AIイラストを利用したパンフの配布を取りやめる事件も起きています。読売新聞がさっそく自らの主張に引き寄せる形で記事化していて、苦笑いしてしまいました。
しかし……前掲のpato氏のような文章や、翻訳、写真、音楽、音声、動画、プログラミングなど、イラスト以外の領域でも生成AIは活用されているわけですが、イラスト以外でここまで激烈な反応は、少なくとも私は観測できていません。同じように無断で学習されているにも関わらず、なぜここまで反応に違いが出るんだろう? 分野によって脅威の度合いが違う?
当てはめるだけで小学生でもロジカルな文章が書ける…ハーバード大で教えられている「オレオ公式」のすごさ 1日10分書く習慣が頭脳を鍛える〈PRESIDENT Online(2024年4月4日)〉
以前、在米ジャーナリストの菅谷明子氏がイベント「ニューヨーク公共図書館から考える、パブリックな情報社会とは」で、アメリカでは小学校2~3年の時点で「OREO」という言葉を習うとおっしゃっていたのを思い出しました。ハーバード大学で教えられていたことを源流として、低年齢の教育にも広がっていったということなのでしょうかね?
今、警察の〝訟務〟が熱い!『県警の守護神』水村 舟 ×『守護者の傷』堂場瞬一 特別対談〈小説丸(2024年4月6日)〉
警察小説は今 “訟務課”が熱い! 『守護者の傷』『県警の守護神』刊行記念対談 堂場瞬一×水村 舟〈カドブン(2024年4月6日)〉
期せずしてほぼ同じタイミングに、別々の作家・別々の出版社から、同じ「訟務課」をテーマとした警察小説が出版されたことから、コラボ対談企画が実現しています。水村舟『県警の守護神』は1月に小学館から、堂場瞬一『守護者の傷』は2月にKADOKAWAからの刊行です。
対談そのものは1回だと思いますが、小学館「小説丸」の記事は『県警の守護神』メインの構成、KADOKAW「カドブン」の記事は『守護者の傷』メインの構成で、違う内容になっています。うまいなあ。
そしてタイミングを合わせ、それぞれの自社媒体から同時に記事を配信したのでしょう。RSSリーダーをチェックしていたら、この2本の記事が上下に並んでいて、思わず「ん?」となりました。面白い試みですね。
国立国会図書館ウェブサービス全体のウェブアクセシビリティ試験結果(令和5年度)〈国立国会図書館-National Diet Library(公開日不明)〉
こういう試験を定期的に実施し、結果を公表し続けているのは非常に良いことだと思います。ただ、これは完全に私の都合なのでが、公開日をどこかに記しておいて欲しいです。本欄ではこうしてピックアップする際に、可能な限り公開日を併記する方針です。ところが、記事内、一覧、HTMLのソースまで調べましたが、どこにも公開日がありません。調査日はわかりますし、これが「令和5年度」の結果であることもわかるのですが、公開日は「不明」とするしかありませんでした。ぐぬぬ。
経済
DLSiteでVisa、Mastercardが利用停止に 過激表現の言い換え予告から一週間〈KAI-YOU.net(2024年4月3日)〉
ここ最近、ネットサービス系でクレジットカード会社から特定商品(アダルト)の取り扱い停止要求が来て、対応を強いられる事例が急激に増えています。どうやらこれは2022年に、アメリカでの児童性虐待記録物についての裁判で、決済に使われたVisaにも責任があると判断されたことが強く影響しているようです。
もっとも、クレジットカード会社による検閲が起き始めているという話を私が初めて耳にした(というかタレコミがあった)のは2018年のことでした。私も当時いろいろ調べてみたのですが、アダルトゲーム関連では少なくとも2015年くらいから発生(Internet Archive)していたようです。
また、2016年には虎の穴通販で同人誌が取扱停止という事件も起きています。当時、カード会社から委託を受けた調査会社が、定期的にサイトを巡回して商品をチェックしているらしい、という情報も耳にしました。
思い起こせば2013年には、Appleが電子書店「iBookstore(現Apple Books)」を日本で開始した直後に『To LOVEる ダークネス』などの配信を止めるような事件も起きています。クレジットカード会社に限らず、プラットフォーム化した企業による検閲というのは、昔から珍しい話ではありません。
まあ、AppleもGoogleもAmazonもVISAもMasterもAMEXもアメリカの企業ですから、アメリカの法律、アメリカの価値観で判断しやがるのですよね。いかんともし難い。日本企業のJCBも国際カードですから、先々どうなるかはわかりません。私企業による表現規制は対処が難しい……どうすればいいんだろう。
日本のコンテンツ産業の輸出額「半導体」と同程度でも残る課題 漫画にはウェブトゥーンというライバルも〈AERA dot.(2024年4月5日)〉
年始に「コンテンツの輸出がさらに拡大する」と予想しているので、とても気になる話題です。ただ、記事には「2021年度時点」での出版コンテンツの海外売上が2792億円とありました。少し古いデータですね。2ページ目の図に、出典は内閣官房新しい資本主義実現本部事務局「基礎資料令和5年10月25日」とありました。
内閣官房の資料を確認したところ、ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース2023」(2023年3月27日)を基に作成とありました。なんだ、AERA編集部は孫引きですか。速報版・確定版のセットが税込8万8000円と、ちょっと高いけど欲しい……Maruzen eBook Libraryにあったら買おうと思ったんですが、残念ながら未配信です。
なお、プレスリリースを読む限り、「2021年度時点」での出版コンテンの海外売上2792億円というのは、印刷版だけでなく、広告・電子出版も含む数字のようですね。国内の電子出版市場もほんの数年で急増したわけですから、輸出も「2021年度時点」からどれだけ伸びているか気になります。
……と思ったら、すでに昨年末、2022年の数字がリリースされていました。年末が確定版、3月が速報版なのですね。2022年の「出版」輸出額は3200億円とのことです。つまり、対前年度比で14.6%増ということに。アニメ人気と電子コミックの普及が要因だそうです。輸出もすでに急成長してました!
ところで、記事内でコメントしているジャーナリスト・久保雅暖氏の名前に見覚えが。以前は出版科学研究所の主任研究員の肩書きだったはず。私もむかし名刺交換しています。メールでプレスリリースを送っていただき、記事化する過程で何度かやり取りもさせていただいてました。肩書きが変わられたということは、お辞めになられたのですね……出版科学研究所の組織体制が心配。
技術
Google検索でファクトチェックに使える「このページの詳細」機能が日本語対応〈PC Watch(2024年4月3日)〉
Googleの検索結果で、ドメイン名の右にある縦に点3つ(︙)のメニューボタンをクリックすると、そのサイトの詳細情報のパネルが開く機能が日本語対応しました。次の図のような見た目になります。同じ画面内で確認できるのは便利ですね。捗ります。
ただ、たまたまこの検索結果を表示してみて、本筋とは違う点が気になってしまいました。「ニュース提供元」に表示されている内容は、ソースがWikipediaです。つまり、Wikipediaの情報が株式会社時代の「hon.jp」のままアップデートされていないのです。これは困る。
ただ、Wikipediaの「自分自身の記事」によると、私が編集しちゃダメなんですよね。「記事のノートページで出典となりうる情報や、編集の提案をし、あなたとは利害関係にない第三者が記事を編集するのを待ちましょう」とのことです。
そこで、ノートページにソース付きで編集提案しておきました。どなたかよろしくお願いいたします!
お知らせ
HON.jp「Readers」について
HONꓸjp News Blog をもっと楽しく便利に活用するための登録ユーザー制度「Readers」を開始しました。ユーザー登録すると、週に1回届くHONꓸjpメールマガジンのほか、HONꓸjp News Blogの記事にコメントできるようになったり、更新通知が届いたり、広告が非表示になったりします。詳しくは、こちらの案内ページをご確認ください。
日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary
メルマガについて
本稿は、HON.jpメールマガジン(ISSN 2436-8245)に掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガを購読してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。
雑記
新年度が始まり、桜もようやく満開になりました。SNSを見ていると、私の周囲でもこの週末は花見を楽しんでいる方々が多いようです。春ですね。春爛漫ですね(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。