「2023年回顧」「能登半島地震とデマ投稿」「2024年の出版トレンド予測(アメリカ)」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #601(2023年12月24日~2024年1月6日)

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 2023年12月24日~2024年1月6日は「2023年回顧」「能登半島地震とデマ投稿」「2024年の出版トレンド予測(アメリカ)」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

総合

2023年出版関連動向回顧と年初予想の検証〈HON.jp News Blog(2023年12月31日)〉

 年末恒例の1年回顧コラムです。Googleドキュメントで確認したら4万4000字超、CMSで確認したら3万3000字超と、ちょっと異様な文字数になっていますが、URLや脚注の多さが主要因です。本文だけカウントすると8500字くらい。なお、2024年予想はまだ絶賛執筆中であります。もう少々お待ちください。

政治

Apple・Googleの独占制限へ新法 アプリや決済で〈日本経済新聞(2023年12月26日)〉

 欧米ではなく、日本政府の方針というニュースです。これまでは基本的に自主的な取り組みを促す方向性だったと思うのですが、新法って話、いままでありましたっけ? 独占禁止法と同様、公正取引委員会の所管が想定されているようです。主な規制対象は「①アプリストア・決済②検索③ブラウザー④OS――の4つ」だそうですが、ネット通販は含めなくていいのかな……?

 なお、前回の本欄でもピックアップしたように、Googleはアメリカでの集団訴訟が和解になり、簡単にサイドロードできるようにしたり、Google以外の決済システムをユーザーが選択できるようにする方向性がすでに示されています。

 Googleのその方針は恐らく日本にも波及するでしょうから、新法の主な対象はAppleに絞られる……あ、ブラウザ(Chrome)があるか。でもブラウザは乗り替えるの容易いから、規制で縛るのは難しそうです。

米 ニューヨーク・タイムズ オープンAIとマイクロソフト提訴 著作権侵害で | 生成AI・人工知能〈NHK(2023年12月28日)〉

 アメリカの大手メディアがAIの開発企業を訴えるのは初めてとのこと。さあどうなるか。たまたまX(旧Twitter)で訴状についての解説投稿(英語)を見かけたのですが、NYTの記事がほとんどそのままGPT-4で出力される例示が100個くらいあって「it’s impossible to argue with this.(これに反論することは不可能)」とまで言われてます。

 逆に、どういうプロンプトだとここまで一致するんだろう? むしろ不思議。

【内部資料入手】NHKが来年度から「テキストニュース」の縮小を検討 「NHK NEWS WEB」は「謎の新サイト」へ移行か〈デイリー新潮(2023年12月29日)〉

 NHKがテキストニュースの縮小を検討している件について、内部資料が流出しているそうです。真偽のほどはわかりませんが、デジタルアーカイブ学会員として「NHKアーカイブス」まで「更新は最低限に」とされているのが気になりました。テキストニュースだけじゃないじゃん。ぎゃーっ。

政治資金の不正を公開情報から解き明かしてみませんか?あなたもできる調査報道マニュアル〈NHK取材ノート(2023年12月28日)〉

 この記事内では「縮小検討」について一切言及がありませんが、なんだかタイミング的に「みんなのためになるノウハウをいまのうちに開示しておこう」という意図があるように感じたので、併せてピックアップしておきます。

能登地震の偽投稿、総務省がXなどプラットフォーマー4社に対応要請〈朝日新聞デジタル(2024年1月6日)〉

 能登半島地震に便乗したデマ投稿が氾濫していて、とうとう政府から対応要請が出されることに。記事にもあるように「不適切な投稿を政府が判断して、事業者に直接削除を求めること」は表現の自由を侵害する可能性があるので、プラットフォームに自主的な対応をお願いするしかないんですよね。いまのところは。

 ただ、これでもしプラットフォーム側がまったく動こうとしなかったりすると、本格的な表現規制に向けた議論が始まりそうで怖い。そういう意味での警戒レベルを上げておくことにします。

ほんとに災害時のデマは勘弁してほしい:ロマン優光連載273〈実話BUNKAオンライン(2024年1月5日)〉

 ほんと、勘弁してほしい……。

社会

森田崇の描く漫画『アルセーヌ・ルパン』に本家フランスが熱狂 | 2023年に世界が注目した日本人100〈クーリエ・ジャポン(2024年1月5日)〉

 森田崇氏は、講談社やヒーローズなど出版社の媒体での連載を経て、2018年からは個人出版で活動し続けているマンガ家です。私はFacebookで繋がっているので、フランスで2023年にブレイクしたことは把握していたのですが、それがなかなか日本までは波及しなかったんですよね。

 だから、このクーリエ・ジャポンの記事には、森田氏が「やっと日本のメディアにも見つけてもらえた〜!(笑)」と喜びを爆発させていました。おめでとうございます。敬意を表し、本欄でもピックアップいたします。

経済

「オタク」市場に関する調査を実施(2023年) | ニュース・トピックス〈矢野経済研究所(2023年12月27日)〉

 毎年年末に発表される、矢野経済研究所の「オタク」市場に関する調査結果。2023年度の予測で、同人誌市場がついに1000億円を超えました。また、同人誌について「ダウンロード販売が紙媒体のデジタル販売を補完」との記述に目が留まりました。2017年度からのプレスリリースをひと通り確認してみたのですが、同人誌市場にダウンロード販売が含まれることについて明言したのは、今回が初めてのようです(レポート本文は未確認)。

「小説はつまらなくて、マンガはおもしろい」から売れないのか…文芸市場が抱える課題(飯田 一史)〈マネー現代 | 講談社(2023年12月30日)〉

 飯田一史氏がライトノベルの電子市場規模について、複数の出版社の方へのヒアリングをベースに「多めに見積もっても20億円台」と推計しています。私の試算では2022年に65.1億円なので、2~3倍の開きがあります。なかなか興味深い見解です。実際のところどうなのか、第三者が検証して欲しい。

 なお、飯田氏はライトノベル単行本(紙)の推定販売額を「70億円台」と推定していますが、「出版月報」2021年9月号(p5)で2020年101億円、「出版指標年報」2022年版(p123)で2021年100.5億円、同2023年版(p105)で2022年103.5億円という「市場規模」が発表されていることを指摘しておきます。

 出版科学研究所に以前、この「市場規模」という言葉の定義を確認しましたが、これは「推定販売金額」を指す(新刊・既刊を含めた数字)そうです。また、別途発表されている「推定発行金額」は、新刊のみ(重版を含まない)の推定発行部数×本体価格なんですよね。じつにややこしい。

The Top 10 Publishing Trends for 2024(2024年の出版トレンド トップ10)〈Written Word Media(2024年1月3日)〉

 “About Us”の“Who We Serve(我々は誰に奉仕するか)”で真っ先にセルフパブリッシングの著者が挙げられているメディアですが、大手出版社、小規模出版社、広報担当者を含むコミュニティともあり、この記事も幅広い出版関係者にとって参考になると思いピックアップしました。以下のような予測です(括弧内はGoogle翻訳)。

1. Quality Becomes More Important Than Ever(品質がこれまで以上に重要になる)
2. Authors Build Their Brands and Communities(著者がブランドとコミュニティを構築する)
3. Promo Stacking Becomes The Standard(プロモーションのスタッキングが標準になる)
4. Artificial Intelligence Is Embraced for Book Marketing(人工知能が書籍マーケティングに採用される)
5. The TikTok Ad Market Matures(TikTok 広告市場が成熟する)
6. Copyright and Fraud Protection Become More Important(著作権と不正行為防止がより重要になる)
7. Authors Refocus On the Long Game(著者らは長期戦に再び焦点を当てる)
8. Subscription Models Gain Popularity(サブスクリプションモデルが人気を集める)
9. Controversy Continues on Social Media(ソーシャルメディアで論争が続く)
10. Publishing Continues to See Consolidation(出版業界の統合が続く)

 1番目は、AI生成コンテンツの流入により、これまで以上に品質が重視されるようになるという予想です。粗製濫造だと埋もれるだけですし、本のメディア特性を考えると軽薄短小も違う、ということになるでしょう。そうあって欲しいという願望も含まれている気もしますが、私も同意。

 3番目の「プロモスタッキング」という言葉は知らなかったのですが、3~5日間にわたり複数のプロモーションを積み重ねることを言うそうです。小売事業者(要するにAmazonのことでしょう)のランキングアルゴリズムに影響を与える方法とのこと。やり方そのものは既知でした。

 なお、実はこちらの記事、故・塩﨑泰三氏が購読していたRSSフィードの一覧を落合早苗氏経由で継承いただいたおかげで、私のアンテナにも引っかかりました。あらためておふたりに御礼申し上げます。ありがとうございます。

技術

「消費者の50%がソーシャルメディア利用を削減」「あえてAI非導入ブランドの出現」他、Gartner5つの予測:今日のリサーチ〈ITmedia マーケティング(2023年12月23日)〉

 Gartnerによる「2024年以降のマーケティング」に関する予測ですが、5つすべてに「生成AI」の影響が言及されていて、「そこまでか」と思わずうなりました。タイトルの2つ以外では、生成AI活用検索(SGE)の影響で2028年までに検索トラフィックが50%以上減少する、という予測がなかなか衝撃的です。

 要は、ソーシャルメディアの利用減予想と併せると、メディアへの主要な流入経路2つがあと数年で半減すると言っているのに等しいわけです。この予測が当たるとは限りませんが、あり得る未来だなとも思います。さて、どうしましょう?

お知らせ

HON.jp News Casting

 年末恒例の特番は、ニュースまとめ配信人の大西隆幸氏と菊池健氏と古幡瑞穂氏と鷹野凌が、司会の西田宗千佳氏とともに2023年の主な出版ニュースを振り返りました。アーカイブ視聴チケットは1月31日まで販売します。

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日刊出版ニュースまとめ

 伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary

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雑記

 新年早々、地震、津波、事故と、厄災が続きました。被災者のみなさまに心よりお見舞い申し上げます。そして、今年はもうこれ以上、悪いことが起きませんように(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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