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アメリカ巨大IT企業の労使問題や独占禁止法問題は、パンデミックが収まった後、どうなっていくのでしょうか? 大原ケイさんによる解説です。
米アマゾンでの労組結成は阻まれた、が
COVID-19ワクチン接種率が急上昇中のアメリカでは、既にパンデミック終息後に向けた経済復興策が進められようとしている。その中でも大きく変わりそうなのがアメリカの労使問題や、IT企業の独禁法違反だ。
中でも注目を集めていたのが、アラバマ州にあるアマゾンの流通センターの従業員6000人が米国初の労働組合を結成しようとしたニュースだ。国内で130カ所の流通センターを持ち、80万人という、私企業では第2位の数の従業員を抱えるアマゾンだが、ノルマがきついことで知られ、パンデミックで職場の対策が不十分だと訴えた従業員を脅したり解雇したりしたことが判明している。
ちなみにフランス、ドイツ、スペインやイタリアでは既に、アマゾンの従業員による労働組合が組織されている。昨年春、ロックダウンの影響でオーダーが急増したフランスでは、流通倉庫内で従業員同士の間隔が十分に取られていないことを理由に就業拒否し、労組が訴訟を起こし、アマゾンは一時期生活必需品以外の商品を発送できなくなった。
従業員投票の結果、今回はアラバマでのユニオン結成は阻まれたようだが、今後も他の流通倉庫でも同じような運動が起こるだろう。そしてこれからもアマゾンの経営陣は必死に妨害をしていくだろう。既に十分な時給と厚生福利が与えられているだろうと訴え、労組に毎年数百ドルもの会員費を払って何がしたいのか? などと従業員を説得しにかかる。その一方で、ノルマ達成のためにトイレに行く時間もとれず、配送車内で排泄をするドライバーがいることも報道されてきた。
こういった動きに対し、ジョー・バイデン大統領は「アメリカは中産階級が豊かになることで支えられてきた。その中産階級を生んだのが労組だ」とスピーチで言及した。大統領府と米議会の間では、3兆円規模のインフラ再建策の検討が進んでいる。道路や橋といったわかりやすいインフラだけでなく、高速ネット回線や学校施設の整備も含まれる。当然、アメリカの教育出版も今後、この体制に対応すべく変化していくだろう。
企業の巨大化に対する揺り戻しが起きる
その一方でアメリカでは、独禁法違反の取り締まり強化、法人税値上げといった締め付け以外に、BLM運動などの社会問題に対する姿勢を打ち出すことが私企業に対しても求められてくる。
例えば、パンデミックによりさらに収益をあげ、ジェフ・ベゾスCEOは世界一の富豪となって、引退を発表したが、アマゾンに対する風当たりは厳しくなっている。私は2020年初頭に「アメリカの書籍産業2020」と題した一連のコラムの中で、アマゾンがさらに巨大化し、それに対抗するために出版社もM&Aを繰り返してさらに大きくなる大手が出てくるだろう、と書いたが、今後は巨大化に対する揺り戻しが起こる。
全米書店協会(ABA)は先月、アマゾンが独占企業として違反行為に手を染め、出版業の発展に害となる行動に出ている、と厳しく告発した報告書を提出した。アマゾンが「排他的で」「反競合的」な値付けにより、競合社を締め出し、Eコマースのプラットフォームとして市場を独占しているとしている。対応措置として、アマゾンをリテール(商品販売)、Eコマース市場プラットフォーム、Webサービス、ロジスティックの4つに分けるなど、具体策も盛り込まれている。さらには(ダンピングできないように)書籍のオンライン販売とEブック販売を他の商品から分けるよう、要請している。
巨大化を阻む動きは、大手出版社も対象となっている。ビッグ5の一つで売りに出されていたサイモン&シュスターを最大手ペンギン・ランダムハウスが買収する話については、アメリカだけでなく、イギリスでも反対の声が挙がっている。バイデン大統領の民主党政権下ではアマゾンだけでなく、グーグルやフェイスブックといったIT企業も独禁法違反で裁かれ、解体か改善を迫られることになる。