文化庁、遠隔授業を早期に実現するためのパブリックコメントを実施 ~ 新型コロナウイルス感染拡大を受け通常より短期間の意見募集に

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 文化庁著作権課は4月1日、授業目的公衆送信補償金制度を早期に施行するため「著作権法施行規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集(パブリックコメント)の実施を開始した。新型コロナウイルス感染拡大にともなう遠隔教育などのニーズに緊急対応するため、実施期間は4月10日までと通常より短縮されている。

 この省令案は、2018年に改正された著作権法で創設された授業目的公衆送信補償金制度において、補償金の徴収・分配を担当する指定管理団体が、「共通目的事業(著作権および著作隣接権の保護に関する事業や、著作物の創作の振興および普及に資する事業)」に支出すべき額の割合を、2割と定めるというもの。指定管理団体は2019年2月に、一般社団法人授業目的公衆送信補償金等管理協会(SARTRAS:サートラス)が指定されている。

 授業目的公衆送信補償金制度は、2021年5月までの施行を目指して準備が進められていた。著作権法第35条は、学校など教育機関の「授業の過程」で著作物が権利者に無断で利用できる権利制限だが、「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」は除く規定になっている。もしフリーハンドで複製や公衆送信ができてしまうと、教育機関向けに著作物を販売する事業が成り立たなくなり、結果、教育機関向けに良質な著作物を届けるインセンティブが働かなくなってしまうためだ。そのため、一般社団法人日本書籍出版協会は、どういった利用が「不当に害する」のかを示したガイドラインを公開している。

 たとえば、対面授業の予習・復習用の資料をメールで送信したり、オンデマンド授業で講義映像や資料を送信したり、スタジオ型のリアルタイム配信する授業などは、従来「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」とされてきた。これを、文化庁長官が指定する補償金徴収分配団体に一定の補償金を支払えば、著作物を適法に利用できるというのが授業目的公衆送信補償金制度だ。

 改正著作権法第35条は、補償金の徴収手続きや分配方法・利用実態調査の方法などを検討し、補償金額を決定、認可されたのち施行されることになっている。分配を受けられない権利者が生じる可能性を踏まえ、指定管理団体には権利者全体の利益となるような事業の実施も義務付けられている。そのための支出額の割合を定めるのが、今回の省令案だ。改正著作権法第35条の施行は、公布の日(2018年5月25日)から3年を超えない範囲で、政令で定める日とされており、それまでの施行を目指して準備が進められていた。

 今回の新型コロナウイルス感染拡大を受け、政府は2月27日に小中高校などへ臨時休校の要請を行った。これにともない文化庁は、著作権等管理事業者や関係団体に、遠隔授業での「格別の御配慮」を依頼した。緊急事態なので、補償金なしでの著作物利用を認めて欲しい、という依頼だ。これに対しSARTRASを含めた著作権等管理事業者や関係団体は、次々と協力を表明している。

 ただ、その「格別の御配慮」が長期におよぶとなると、イベントなどの「補填無き自粛要請」と同様、作家の生活や出版社の事業活動に支障が出る可能性がある。「補填無き格別の御配慮」によって、教育機関向けに著作物を販売する事業が成り立たなくなるのは、本末転倒だ。しかし、政府が助成金もしくは補助金を出すというのも、財政上、難しいらしい。そのため、授業目的公衆送信補償金制度を、急遽この4月から施行するために動いている、というのが今回のパブリックコメントの経緯となる。

 なお、授業の過程での複製や遠隔合同授業(教師と生徒が対面して授業をしているのを、遠隔地へ配信)のための公衆送信は、著作権者の利益を不当に害しない範囲の用途・範囲・部数等であれば、改正法施行前でもこれまで通り無許諾・無償で行える。また、たとえば引用や非営利無償の上演・演奏・口述など、他の権利制限に該当する場合の利用も問題はない。権利者が利用を許諾している場合はもちろん、保護期間が満了している著作物(パブリックドメイン)の利用や、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスのようにあらかじめ意思表示している著作物なども、もちろん問題なく利用できる。こういった「どこまでなら問題ないのか?」という権利関係の制限を、利用する側の教育関係者がきちんと把握しておくことも必要だろう。

参考リンク

「著作権法施行規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の実施について(電子政府の総合窓口e-Gov)
https://search.e-gov.go.jp/servlet/Public?CLASSNAME=PCMMSTDETAIL&id=185001097&Mode=0
「著作権法施行規則の一部を改正する省令案」に関する意見募集の実施について(文化庁)
https://www.bunka.go.jp/shinsei_boshu/public_comment/92134901.html
教育の情報化に対応した著作権法改正で、なにがどう変わる? 〜 日本著作権教育研究会シンポジウムレポート〈HON.jp News Blog(2018年10月26日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/14150
著作権等管理事業者や関係団体、文化庁著作権課からの”格別なご配慮”の依頼に次々と協力を表明 ~ 新型コロナウイルス感染拡大を受け〈HON.jp News Blog(2020年3月9日)〉
https://hon.jp/news/1.0/0/28429

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著者について

鷹野凌
About 鷹野凌 505 Articles
HON.jp News Blog 編集長。NPO法人HON.jp 理事長。明星大学/二松學舍大学/実践女子短期大学の非常勤講師で、デジタル編集論/表象メディア演習/デジタル出版論/デジタル出版演習を担当。出版学会員/デジタルアーカイブ学会員。主な著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)。アイコンは©鈴木みそ氏
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