米アマゾン圧倒的優勢の陰で増える偽本問題

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 ニューヨーク・タイムズが6月23日付けで、アマゾンが書籍の市場で完全有利になってどうなったか? という長い記事を載せている。

 この記事ではアマゾンが紙の本、Eブック、オーディオブックなどのフォーマットを合わせて、アメリカ国内で買われる本の半分以上を取り扱っていること。今日では、アマゾンは出版社であり、セルフ・パブリッシングのプラットフォームであり、書評サイトであり、教科書販売店であり、流通の機能も果たし、さらにはリアル書店をも展開していることなどが指摘されている。

 偽本は、その安さで買い手にアピールするものの、劣悪な印刷状態だったり、内容が差し替えられているものが多く、本来の著者に印税が入らないなどの問題がある。これはアマゾン側の怠慢の結果ではなく、性善説に基づいたビジネスモデルで、そこは「無法地帯」になっているという。

 特に人文書の分野で、コピーをとって印刷したような劣悪な偽本が増えていることに関し、全米作家協会も警鐘を鳴らしている。サイト外には実態のなさそうな売り手から、小売希望価格10ドルの本が100ドル、1000ドルなどで売りに出ているのは、アルゴリズムを悪用しているのか、はたまたマネーロンダリングの匂いさえする。人気の出た本には、すぐ要約書がいくつも出回る。一方で、フェイク書評の問題には既に、公正取引委員会が調査に入っているという。

 アマゾンに限らず、一握りのIT企業が特定の市場で圧倒的有利になった場合、どこでそれが法的措置をとるべき独占企業と言えるのかを、米国議会が検討し始めている。

 アマゾンは最新の財務状況開示で初めて、偽本がリスクのひとつだと認めたが、止めることはできないとも認めた。2月にアマゾンは「プロジェクト・ゼロ」というプログラムで、アマゾンに申告せずに自社の偽物を削除できる企画を始めたが、偽本の被害者には「なんで自分たちが」という気持ちもある。

参考リンク

ニューヨーク・タイムズの記事 
https://www.nytimes.com/2019/06/23/technology/amazon-domination-bookstore-books.html
アマゾンの回答

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著者について

About 大原ケイ 289 Articles
NPO法人HON.jpファウンダー。日米で育ち、バイリンガルとして日本とアメリカで本に親しんできたバックグランドから、講談社のアメリカ法人やランダムハウスと講談社の提携事業に関わる。2008年に版権業務を代行するエージェントとして独立。主に日本の著作を欧米の編集者の元に持ち込む仕事をしていたところ、グーグルのブックスキャンプロジェクトやアマゾンのキンドル発売をきっかけに、アメリカの出版業界事情を日本に向けてレポートするようになった。著作に『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(2010年、アスキー新書)、それをアップデートしたEブックなどがある。
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