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先週は「夢枕獏氏が自費で新聞広告出稿」「アマゾン協力金要請に公取委立ち入り検査」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年3月12日~18日分です。
ツイッター限界説 広告収入が伸びない「致命的な弱点」とは 連載:米国経済から読み解くビジネス羅針盤〈ビジネス+IT(2018年3月12日)〉
先週ピックアップしたDIGIDAYの“「大復活」:Twitter動画で勢いづくパブリッシャー”と真逆の論調になっていて面白い。動画の話が中心なのに、Twitterが2015年に買収したライブ配信アプリ「Periscope」の話が出てこないのはなぜだろう?
夢枕獏氏、自費で新聞1ページ広告出稿へ〈新文化(2018年3月12日)〉
「これを受けて、小学館、双葉社、文藝春秋は230書店でフェアを開催する」という末尾の一文が、かなり周囲で物議を醸していました。ビジネス書や自費出版の世界で、作家が自ら費用をかけて宣伝するのはわりと普通の話。ただ、夢枕獏氏のような著名作家がこういうことをしなければならないとしたら、出版社の存在意義は? と疑問に思ってしまいます。もちろん、書店でのフェアをやるためには営業部隊が稼働する必要がありますし、もしかしたら協力金などの支払いがあるかもしれないので、出版社がまるっきりタダ乗りしているとは思いませんが。
電通「日本の広告費」は、信頼できるのか!? 2020年9月からの日本を考えよう。〈Unyoo.jp(2018年3月12日)〉
「ラジオ広告費とは、ラジオ局という企業が稼いだ広告費であって、放送なのかインターネットなのかは別の話ということになっているようだ」という記述が出てきてびっくり。たまたま例として radiko.jp の話が最初に挙げられていますが、後半にはテレビ×デジタルや、雑誌×デジタルの話も出てきます。つまり、4マスやインターネットなどの「媒体」単位で広告費を推計していると思っていたら、どうやらそうではなく、ラジオ局、テレビ局、出版社といった「企業」単位で集計されているようだ、という話。
要するに、インターネット経由で配信されている広告が4マスとして集計されているため、インターネットの広告効果が過小評価されている、かもしれないのです。こういう数字ってクライアントが「どの媒体へどれだけ広告費を投下すべきか?」という判断をするための材料にもなっているわけなので、「ネット広告費が少なく算出されているのか?」というのは決して「些細なこと」ではないはずなのですが。うーん。
ブロックチェーン技術で出版ビジネスにもさらなる変革が?〈窓の杜(2018年3月12日)〉
自分で書いたレポートですが。出版ビジネスとブロックチェーン技術は相性がよさそう。なのですが、堀氏の言う「カンブリア大爆発」のように多種多様なネットサービスが生まれている現状は、投機目的の山師を群がらせてしまっているため、ちょっと近寄りがたい感じがします。「ICO詐欺」なんてのもゴロゴロしているようですし。また、いずれ Facebook や Google などの巨大プラットフォームが参入して、バサッと淘汰されてしまうのでは、というような気もします。
グーグル、仮想通貨の広告禁止 6月から〈日本経済新聞(2018年3月14日)〉
Facebookに続き、Googleも仮想通貨の広告を禁止。ジャンルでまとめてシャットアウトするというのは、「ICO詐欺」が相当酷い状況になっているのだと思われます。日本でも金融庁が、仮想通貨交換業者7社に対して業務停止命令などの行政処分をくだしていますが、ちょっと山師が群がりすぎている感があります。怖い怖い。
紙の「雑誌ブランド」はまだ死んでいない、米国で雑誌購読者が増える異変が〈メディア・パブ(2018年3月14日)〉
アメリカの話。雑誌協会は2014年後半から、プリント版(デジタルレプリカを含む)、ウェブ、モバイルウェブ、ビデオの利用者数と、その総計を「Magazine Media 360°」として、雑誌ごとに発表しています。その2017年のトレンドで、プリント版の総数がプラスに転じているとのこと。フェイクニュース氾濫の反動で、伝統的メディアの信頼性が相対的に高くなっている、ということのようです。日本も同時期に「Welq」問題などフェイクニュースが問題視されていましたが、伝統的メディアが見直されているかというと……?
ホームページ・図書館システム・千代田Web図書館が新しくなりました。〈千代田区立図書館(2018年3月14日)〉
不正アクセスによって改ざんが行われ、昨年11月8日からずっと公開停止されていた千代田区立図書館公式サイトが、リニューアルと同時に再開されました。というお知らせとほぼ同時に、千代田区公式サイトから「千代田区立図書館ホームページの公開停止に関するお知らせ(Internet Archive)」や「不正アクセスに関するご報告とお詫び」が消えています。なんなの。
ちなみに電子図書館「千代田Web図書館」は、システムを「TRC-DL」に変更しています。以前のURLは http://weblibrary-chiyoda.com/ だったのですが、ドメインごと消滅させてリダイレクト処理すら行っていません。あのねぇ。
サービス名変更のお知らせ〈BookLive!コミック(2018年3月15日)〉
とくにニュースにはなっていないようなので、公式サイトのお知らせをピックアップ。株式会社ビットウェイが運営していたケータイコミックサイト「Handyコミック」は、2013年に株式会社BookLiveが事業承継しています。そのサービス名が「BookLive!コミック」に変更されました。名前が変わっただけでドメインは変わらないし、現時点では「BookLive!」のアカウントと統合されるわけでもありませんが、恐らくそのうち……?
曲がるスマホももう可能? フレキシブルディスプレー最新情報|山根博士の海外モバイル通信〈ASCII.jp(2018年3月15日)〉
アイキャッチ画像の、本のようにぐにゃりと曲がった端末が、なかなかインパクトあります。曲げられるディスプレイ。ただ、本の場合、のどのところが歪んでしまうのがデメリットだったわけで、こんなところまで紙の本を模す必要ないんじゃないかな? horizontal なら切れ目のない見開きがどーんと表示されるデジタルマンガ、増えてきてますよ!
公取委、アマゾンに立ち入り 不当な「協力金」要求容疑〈朝日新聞デジタル(2018年3月15日)〉
2月27日の日経 “取引先に「協力金」要求” 記事を読んだ直後に「これ、公取委案件では」と Facebook に投稿し、3月5日のまとめでもピックアップしてコメントしていますが、予想どおりの展開でした。日経はその後 “アマゾンに切り込む公取委” という社説を書いていますが、どうもアマゾンに対し腰が引けているような。
なお、この一連の報道に触れた出版関係者から「取次の歩戻しは不当じゃないの?」という趣旨のコメントが複数。なんでだろ? 昔からあるから「正常な商慣習」とみなされているのでしょうか?
投稿マンガのレベルが高くてびっくり! “講談社7誌100人超の編集者と出逢える”マンガ投稿サイト「DAYS NEO」β版の踏み込み具合がいろいろスゴい!〈ネタとぴ(2018年3月16日)〉
3月1日にオープンした「コミックDAYS」は株式会社はてなとのタッグですが、こちらの「DAYS NEO」は「トークメーカー」の未来創造株式会社との共同。出版社自身がマンガ投稿サイトを運営し登竜門にする形は珍しくありませんが、作家側が編集担当者を逆指名できるシステムというのは新しい。プレスリリースのリードに書かれた「これからは、漫画家が編集者を選ぶ時代」という一文が、非常に目を惹きました。
「編集者一覧」は壮観で、編集者のコメントに対する「いいね」数合計★が表示されているのは、編集者が評価されるシステムとしても面白い。ただ単にアカウントがあるだけで★がゼロの編集者がゴロゴロしているいっぽう、すでに★が200を超えている「ヤングマガジンのスズキ」氏のようなケースも。★が少ない編集者から「担当希望」されても、この人あんまやる気ないんだな、ってなりますよね。以前、似たようなシステムを考えていたのでちょっと悔しいけど、うまく機能するとほんと面白いと思います。
デジタル時代における出版社・編集者の真価 | 事後レポ〈東洋経済オンライン(2018年3月16日?)〉
記事広告で正確な配信日も不明ですが、面白いのでピックアップ。東京経済新報社自身の主催イベントレポートです。2ページ目に、講談社社長・野間省伸氏が「紙を捨てたわけではないが、データをパブリックにすることがパブリッシング(出版)と考えれば、いろんな出発点、出口があっていいのではないか」とコメントしたとあります。
日本語の「出版」という言葉と、英語の publishing では、言葉の示す範囲にちょっとズレがあるのです。「版」という漢字の原義は木の片割れから造った薄い「いた」で、もっぱら印刷に用いる木の板、印刷して作品を出すこと、という意味になります(ウィクショナリー)。一般的に日本で「出版」と言うと、取次・書店という伝統的な出版ルートで販売される「紙」の本だけが該当するという、さらに狭い意味になっているように思います。
それに対し英語の publishing は public(公共)からの派生語なので、音楽でも映像でも、ブログでもツイートでも、一般公開することは publish と表現されます。恐らく野間社長は、こういった言葉の示す範囲の違いを充分わかった上で、こう発言しているはず。「出版社」の社長がそういう発言をする時代になった、ということの意味をかみしめたい。
「活字離れ」は本当か? 出版業界が縮小の一方で、読書イベントは活況の背景〈週刊女性PRIME [シュージョプライム](2018年3月18日)〉
永江朗氏、猪谷千香氏などがコメントしている、とてもまっとうな記事。とくに永江氏の「デジタルに慣れた世代が高齢化すると、スマホなどでの読書率は高くなるかも」という見解は、希望的観測ではあるけど強く賛同します。