出版業界関連の気になるニュースまとめ #313(2018年3月5日~11日)

まとめ
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先週は「表現規制の青少年健全育成基本法案が国会請願」「取次大手が出版社に追加負担要請」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年3月5日~11日分です。

WEB新書サービス終了のお知らせ〈WEB新書(2018年2月5日)〉

2月5日に告知が出ていたのにしばらく気づいていなかったのですが、3月30日で販売終了、1年後にサイト閉鎖・サービス終了とのことです(Internet Archive)。昨年の12月1日ごろにソーシャルDRMへ対応というお知らせが出ていて当ブログでもピックアップしているのですが、閉鎖へ向けた動きだったのですね……寂しいことですが、正しいサービスの畳み方ではあると思います。お疲れさまでした。

青少年健全育成基本法の制定に関する請願:請願の要旨〈参議院(2018年3月4日?)〉

政府が堂々と表現を規制できる法律の制定請願が出ていました。通称「青健法」。座間の連続殺人事件を取り上げ、なんの因果関係も示さずいきなり「背景としてあったインターネット・スマートフォン等のネット社会がもたらす新しい有害情報・有害環境の出現に対し、厳しく対応が求められなければならない」です。さらに「露骨な性描写や残虐シーンを売り物にする雑誌、ビデオ、コミック誌等を始めとする性産業の氾濫、テレビの有害番組の問題等も言うに及ばない」と、二次元の規制にまで踏み込んでいます。これは危うい。新法ではなく改正案なので、ほとんど審議されずに通ってしまう可能性もあります。本気で危ない。財務省による文書書き換え問題で炎上しているいまの国会情勢だと、どうなるかわかりませんが……。

Kobo Plus Considered a Massive Success〈Good e-Reader(2018年3月5日)〉

いまのところオランダとベルギーだけで展開されている、Rakuten Koboの読み放題サービス「Kobo Plus」が非常に好調とのこと。内部関係者のコメントとして、2018年には新しい市場に拡大する予定と Good e-Reader に明かしたそうです。まあまず英語圏からとは思いますが、いずれ日本にも来るかも?

【高論卓説】ウェブメディアPVに新ガイドライン〈SankeiBiz(2018年3月6日)〉

日本ABC協会の新しいガイドラインで、ウェブメディアのPVを「自社」のものと「外部配信」のものを明確に切り分けて公表するように求めるようになったとのこと。こういう数字の定義ブレって外部からはわからないので、媒体力を見誤ることになるから勘弁して欲しいですよね。今後はPVだけでなく、滞在時間やID数、有料会員数などにも開示ガイドラインを設けるべきと、良いこと言うなーと思ったら産経の記者による記事ではなく、東洋経済オンラインの山田編集長でした。納得。

当社に関する虚偽情報の発信に関して|ニュースリリース〈株式会社大阪屋栗田(2018年3月6日)〉

3月1日に配信された小田光雄氏の「出版状況クロニクルInternet Archive)」に「6. 大阪屋栗田が大手出版社に対し、支払手形をジャンプ。」という項目があり、それに対する大阪屋栗田の反論リリースです。

小田氏はこれに対し「付記」として「次回のクロニクルにおいて、正面から反論していくことを約束しておこう(Internet Archive)」と発言していました。ところが大阪屋栗田の親会社である楽天からも「そのような事実は一切ございません」というリリースが出て、最終的に小田氏はこの項目をまるごと削除、「付記2」として「本クロニクルの継続の優先を選択(Internet Archive)」という記事を公開するに至りました。なんというか、コメント難しいので事実の列記に留めます。

「漫画村」はなぜ閉鎖しない? 弁護士と漫画編集者の見解を聞く〈Real Sound(2018年3月8日)〉

小杉弁護士の発言は特に問題ないのですが、「大手漫画誌編集者」の発言がなかなか酷い。「出版社は作家さんと出版契約は交わしていますが、著作隣接権を持たず、また公衆送信権(編注:有線無線問わず、著作物を送信することをコントロールできる権利)も、契約上の特記がない限り著作権者自身が行使しなければなりません」って、なんのために電子出版権が設定できるようになったのですか(2015年1月より施行)。

慣例的に、マンガ誌掲載時には契約を取り交わさないケースが多いのは知ってます。単行本を出すときに初めて出版契約(紙と電子の一体型)を結ぶことになるから、マンガ誌の海賊版に出版社が対抗しづらい……という事情も、理解はできます。でもそれって、マンガ誌掲載時にもちゃんと契約結んでおけよ、って話ですよね。実際、マンガアプリやウェブマガジンへ配信する場合は、契約書を結ぶケースもあるという話を聞いたことがあります。自分たちがちゃんとやれていないことを、あたかも法の不備かのように言うのはよくないと思います。

そもそも、著作隣接権を持っているレコード会社や映画配給会社など音楽・映像系は、ちゃんと海賊版に対抗できていたんですか? って話でもあります。ちなみに、Googleなどに対するDMCA侵害申告のログを残している「Lumen」を検索すると、大手出版社自身がしっかりDMCA侵害申告していることがわかります。この漫画編集者氏はもしかして、社内でそういう動きがあることを知らないのかも?

なお、この「Real Sound」は、もともとサイゾーとbluepointの共同で運営・編集を行っていたのが、いまはbluepoint単独で運営しているそうです。サイゾー系はスルーすることにしていたのですが、ここは知らなかったなあ。

「大復活」:Twitter動画で勢いづくパブリッシャー〈DIGIDAY[日本版](2018年3月9日)〉

基本はアメリカの話。日本での Twitter 利用率はとくに若年層中心にかなり高い(総務省「情報通信白書2017」を参照)ですが、アメリカではそれほどでもないんですよね。「一部のパブリッシャーはFacebookのニュースフィード改変で失ったリーチを埋め合わせられている」とのことなので、大きく見直されるきっかけになるかも?

出版社に追加負担依頼 取次大手、物流費高騰が直撃〈日本経済新聞(2018年3月9日)〉

アマゾンが取引先に協力金を要求しているニュースは3月5日のまとめでピックアップしていますが、取次も出版社に追加負担を依頼しているとのこと。定期刊行される雑誌の販売が激減し、雑誌流通に最適化されている出版物流の仕組みは破綻しつつあります。雑誌流通に乗っかっていた書籍の多くは、否応なしに物流コストの価格転嫁(つまり値上げ)や、通販もしくは電子へ移行せざるを得なくなっていくことでしょう。

「Re:ゼロ」レムが日本に迷い込んだら…? アニメと伝統芸術”浮世絵”が融合〈アニメ!アニメ!(2018年3月9日)〉

文化庁の無形文化財選定保存技術協会に所属する彫師と摺師によるガチアート。リリースによると、63回摺り重ねてようやく1枚の木版浮世絵が完成するそうです。すごい! と思ったら、昨年は「初音ミク」で制作されていたんですね。絵に見覚えがあるんですが、すっかり忘れていた……。なお、1枚5万円×100枚とのことで、ここまでガチなのに500万円の事業ってちょっと安くないか? という気も。クールジャパン的な補助金でも出ているのかな?

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著者について

About 鷹野凌 829 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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