中国「メディア規制」について考える――求められるのは出版人の「匠人精神」

馬場公彦の中文圏出版事情解説

中国共産党歴史展覧館
中国共産党歴史展覧館(Photo by 馬場公彦)

《この記事は約 8 分で読めます》

 最近、インターネット報道など新興メディアに対する中国当局からの規制が話題になっています。実際のところはどうなのか? 出版業界はどうなのか? 北京大学・馬場公彦氏が解説してくれました。

公開された「インターネットニュース情報源機関のリスト」

 さる10月20日、中国共産党当局は、新版の「インターネットニュース情報源機関のリスト」を公布、インターネットを通して独自のニュースを配信できる1358の機関名を明らかにした[1]。この機関以外から発信されたニュースを転載すると法により処罰されるというもので、これ以外のニュース報道機関はこれらの機関からのニュースを転載するしかなく、独自ニュースを発信できなくなるため、経営が立ちいかなくなってしまう。結果的には国内の民間系メディア事業者の息の根を止めることになることから、日本のメディアは報道規制強化となるという文脈でこの通達を報じていた[2]

 通達の概要は、2016年版の同リストを更新したもので、当局は今回公表した機関の数が4倍に増えたこと、専門や職業分野の間口を広げたこと、県レベルの地方にまで幅を広げたことなどを成果に挙げている。ただ、党・政府系の関連機関を網羅していけば当然数は増えるだろうから、増量自体は特に評価すべきことではないだろう。

 むしろ今回のホワイトリストに載らなかったサイトのなかに、これまで独自のニュースソースによる周辺情報、独自のアングルによる論評によりユーザーの定評を博してきた機関があるはずで、消されたいわばブラックリストの分析が求められるだろう。報道ではこれまで省レベルでの報道機関であった「財経網」や「経済観察網」などがリストに入っていないことが注目されている[3]。その委細については中国当局発表のニュースとは違う幅と切り口の報道を手がけてきた中国駐在の海外メディアの論評に委ねたい。かりにそのような骨太のインディペンデント色の強いメディアがリストからはずれたとすれば、今後の中国報道や中国論評の多層性多様性が削がれていく。また個人発信メディア(「自媒体」)もまた規制をうけることになる。一つの声だけしか許されなくなるメディア状況により傾斜していく、という懸念はある。
 

国家インターネット情報事務室とは?

 今回のリストを公布したのは国家インターネット情報事務室で、2011年5月に設立され、2018年3月に中央ネットの安全と情報化委員会事務室と共に中国共産党中央直属の機関となった。職務はインターネットでの情報伝達の法制・指導・監督・情報管理などで、関連事業者の審査・批准・監督などに携わる[4]。同機関はネットゲーム・ビデオ・出版などの分野にも関わっているから、同様の通達が、比較的自由な投稿と流通で若者の間で人気を博しているネットノベルやネットアニメなどのサイトにも出され、ビジネスへの影響が生じるようになるかもしれない。

 いずれにせよ、同機関の職責からすれば、日進月歩の技術開発と、急速な普及を遂げているインターネットのニュースサイトについて、2016年からのリストを整理し認可するのは、管理監督機関の通常業務の一環とみるのが順当だと思う。中国国内での関連情報は当局の公表しか手元にはなく、裏事情を知りうるようなその中身以上の周辺情報は持ち合わせていない。当日の中央電視台(CCTV)でもメインニュースの枠ではなく国内速報として短く取り上げただけである[5]。だからといってニュースバリューが小さいというわけではない。ただし、ネットニュース事業関係者に直接確かめたわけではないものの、国内の生活感覚からすれば、今回の公布にはさほどの驚きはない。ただなぜこの時期にという疑問はあるが、揣摩臆測以外に有力な論評の根拠となるような情報は持ち合わせていない。

メディア事業者と規制当局

中国共産党早期北京革命活動紀念館
中国共産党早期北京革命活動紀念館(Photo by 馬場公彦)
 今回はインターネットでの電子情報をめぐる規制である。同様の問題を紙媒体の出版業界において思索をめぐらせてみたい。

 出版業においては、従来は国家新聞出版放送総局の管理監督下にあったが、2018年3月から中央宣伝部(部は日本の省に相当)の直属となった。中国国内で出版事業が許可されているのは583社ある国営出版社のみであり、起業と経営だけでなく出版物1点ごとに監督機関の管理下にある。

 ただし、すべての出版物について、その選書から原稿と3回の校正にいたるまで、監督機関の検閲や承認を必要とするわけではない。いわゆる「敏感」な著者・タイトル・内容の書籍について、当該出版社が所属する地方の新聞出版局出版処に報告し、そこから当該部局が内部で査読するか中央宣伝部出版局に上げられるかを判断し、内容に応じた関連部局の検閲に付されるのである。このように、上記のネットニュースメディアが受ける規制については、出版業界では常態化・制度化されており、より厳格に施行されている

 第三者からの表現や出版の規制を受けるのは、編集者や出版社からのものであってすら耐え難いという著者も少なくない日本社会において、このようなメディア規制は到底許容しがたいという受け止め方は理解できる。だが、そもそも中国と日本ではメディアのあり方自体が違う。中華人民共和国憲法に言論や出版の自由は明記されてはいる(35条)。だが、それ以外の条項に盛られた、社会秩序の維持(28条)とか、国家・社会・集団の利益を損なってはならない(51条)などと兼ね合わせて解釈されるべきものである。
 

中国出版人の気骨と匠の精神

 最近、李昕の『今天我们怎样做书-编辑感悟和理念五讲(今日、我々はいかにして本を作るのか)』(上海三聯書店、2021年)という本を読んだ。著者は人民文学出版社の編集者、香港三聯書店の編集局長、北京三聯書店の編集局長、商務印書館の特約編集顧問などを歴任した編集業39年の立志伝中の人。

 中国における近代出版は、商務印書館(1897年成立)・中華書局(1912年)・三聯書店(1932年)の御三家を初めてとして、歴史は古く、豊富多彩な実績を擁している。三聯書店の1979年創刊の月刊誌『読書』などは、編集長が実質的な編集裁量権を握り、自由度の高いクオリティマガジンとして知識界の定評は高い。

 出版が許認可されるのは国営出版社に限られるが、編集・発行にはその数数千とも万単位ともいわれる民営の文化公司や出版公司が参画し、国営出版社が保有する全国統一書号を買ったり(1点あたり数千元から1~2万元だというから意外と安い)、国営出版社が民営出版社にコンテンツを提供したり、株の持ち合いや共同経営など、さまざまな方式で事業のタイアップをしている。

 日本の著者や出版社のなかには、中国との版権交易において、検閲制度があることから、業務提携を控えたり、ひとたび原文の削除や変更要求が出されると、契約を破棄してまで出版の停止に踏み切らなければ潔しとしないというケースが多いようだ。だが、そもそも言論と出版の自由をめぐる社会通念の違い、制度化された規制という条件下で許認可される出版業務という実情には、いかな抗っても、打開できない国情の違いがある。

 ましてや言論の自由がどれほ尊いものか身を以て教えてやるとばかりに、パートナーの中国の出版社に不満を吐露したり、担当社員の業務不履行に憤懣をぶつけたりするのは筋違いというものである。100分の1の記述が消されるばかりに残りの99に封印をするか、99を活かすために1を保留するか、という発想に立つのが賢明だと思う。「求同存異(小異を残して大同につく)」は日中国交正常化での日中双方で確認しあった知恵ではないか。

 李昕は著書の中でこう吐露している。[編注:翻訳は馬場氏]

 われわれが今日の輿論環境の中で出版をするうえで、決して政治規律に違反することは望まない。政治的にゆゆしき誤りのある本を出版すると、管理部門の干渉を受け、出版社の名誉に傷がつき、経済的な損失を招く。よくよく選別と鑑識が必要だ。同様に「敏感」な原稿については、政治規律に違反したものは出せないが、正しい思想を探求しようとするものならば、後押しすればよい。(19頁)

 編集に必要なのは自信であり、政治的な知恵であり、胆力と眼識である。胆力は必要だが、眼識はもっと大切だ。どのような条件ならば良書をスムーズに出版できるのかをわきまえ、良書を出版するための条件を創り出せ。内容が敏感だからと出版を安易に投げ出すようでは話にならない。敏感な問題をうまく処理する能力があるという自信を持て。(302頁)

 同じ出版人ならば、中国の出版人の職人(「匠人」)気質に共鳴し、出版社の気骨に共感するところがあるはずだ。言論空間のフロンティアを開拓するために共闘する同志として、日中の出版ビジネスを共に築き上げていく気概がほしいものである。

脚注

[1] URL
[2] たとえば日本経済新聞(URL)
[3] URL
[4] URL
[5] URL

広告

著者について

About 馬場公彦 27 Articles
北京大学外国語学院外籍専家。出版社で35年働き、定年退職の後、第2の人生を中国で送る。出版社では雑誌と書籍の編集に携わり、最後の5年間は電子出版や翻訳出版を初めとするライツビジネスの部局を立ち上げ部長を務めた。勤務の傍ら、大学院に入り、国際関係学を修め、戦後の日中関係について研究した。北京大学では学部生・大学院生を対象に日本語や日本学の講義をしている。『人民中国』で「第2の人生は北京で」、『朝日新聞 GLOBE』で「世界の書店から」連載中。単著に『『ビルマの竪琴』をめぐる戦後史』法政大学出版局、『戦後日本人の中国像』新曜社、『現代日本人の中国像』新曜社、『世界史のなかの文化大革命』平凡社新書があり、中国では『戦後日本人的中国観』社会科学文献出版社、『播種人:平成時代編輯実録』上海交通大学出版社が出版されている。
タグ: / / /

guest
0 Comments
Inline Feedbacks
View all comments