《この記事は約 13 分で読めます(1分で600字計算)》
2021年3月28日~4月3日は「法案ミス、原因は一太郎じゃない」「オリンピック組織委が文春砲を著作権侵害と批判」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。
【目次】
政治
法案ミスで”一太郎禁止”報道に農水省「ミスが原因ではない」 現在はWordが多数派〈キャリコネニュース(2021年3月31日)〉
相次ぐ法案ミスに「一太郎禁止令」が出たという報道があり、とんだとばっちりと騒ぎになっていました。なにせそのミスというのが、どう考えてもワープロソフトの問題ではないものばかり。「若ししくは」という余字だったり、地縁を誤入力したらしい「地緑」だったり。
とくに「地縁(ちえん)」が「地緑(ちみどり)」って、IMEやワープロソフトの問題ではなく、教養の問題でしょう。Wordの日本語校正は弱いし、余計にミスが出るかも? 実際に試してみたところ、Wordの校正機能は「地緑」をスルーしましたが、一太郎ではバッチリ検出できました。
ところが今回報道されたこの「一太郎禁止令」は、今回の一連の法案ミスが原因ではないという釈明が。2017年の通知以降、すでに省内ではWordの使用者が多数派になっているそうです。なんだそりゃ! なんだそりゃ! まあ、根本的なところでは、官僚への過大な業務負荷というのが問題なのでしょう。
それゆえたとえば、法律の一部改正時の「改め文」を簡素化すべきという議論もあるようです。作成に手間がかかるわりに、元の法文に精通している人じゃないと理解できない、という。改め文って、ファイル比較(diff)をわざわざ文章にしている感じですもんね。少し調べてみたら、参議院法制局の若手・中堅職員の有志が2020年4月に編集・執筆したという文章を見つけました(↓)。
“ネタバレサイト” セリフ無断掲載は著作権侵害 東京地裁〈NHKニュース(2021年3月31日)〉
小学館マンガワン編集部による訴え。発信者情報開示なので本番はこれからですが、まあ、当然の判決でしょう。作品の画像をそのまま転載するのではなく、セリフをテキストに起こして転載し、状況は文章で説明。最後にちょっとだけ感想という構成で、「ネタバレ」をウリにしてアクセスを集めるようなやり方。これは訴えられたら負けるだろうな、と思っていました。
AIでの価格操作 独禁法で問題となるおそれ 公正取引委員会〈NHKニュース(2021年3月31日)〉
アマゾンのプライスマッチングが封じられる――というわけではなさそうです。たとえば同一事業者が、競合する複数の事業者に同一の価格調査アルゴリズムを提供したような場合に、カルテルが容易になる「可能性がある」といった指摘を含む報告書が公正取引委員会から出た、という話。その報告書「アルゴリズム/AIと競争政策」についてはこちら(↓)。ざっと目を通したところ、かなり広範にさまざまな「可能性」を検討しているように思いました。
社会
1誌年間5万円が35万円、高価な学術誌を大学は「買えない」…「知のサイクル」崩壊の危機〈読売新聞オンライン(2021年3月27日)〉
電子ジャーナルの価格高騰問題が、とうとう読売新聞で報じられました。サイト内検索をしてみましたが、どうやら読売新聞では初めて? 大学図書館コンソーシアム連合「JUSTICE」による、論文公表実態調査報告2020年度版が発表されたのを受けての報道と思われます。オープンアクセス論文の件数や、APC(Article Processing Charges:論文出版加工料)支払推定額の推移などがレポートされています(↓)。
デジタル教科書市場2025年に800億円規模に〈株式会社 日本能率協会総合研究所のプレスリリース(2021年3月29日)〉
GIGAスクール構想で1人1台環境が実現するのを受け、デジタル教科書市場への追い風になるだろうという推定です。現状、義務教育では国家予算によって教科書が無償給付されていますが、デジタル教科書は対象外になっています。あと4年で800億円というのは猛烈な急拡大ですが、本当にそんなうまくいくかしら? いくといいなあ。
文部科学省は2021年度に「学習者用デジタル教科書普及促進事業」を行いますが、この予算が概算要求でたったの50億円(#441)。日本能率協会総合研究所のプレスリリースでは「今後公的な支援制度を整備する足掛かりになることが期待」とありますが、本当にそんなうまくいくかしら? いくといいなあ(2回目)
「個人ではじめるための書店開業テキスト」PDF無償公開のお知らせ〈特定非営利活動法人 本の学校(2021年3月31日)〉
NPO法人本の学校による、テキスト無償公開。個人を対象に「1000万円の資金で30坪程度の新刊書店を開業する」ために必要な情報、ノウハウ、経験者インタビューなどを掲載しているそうです。そしてなんと、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0国際ライセンス。太っ腹!
「国立国会図書館ビジョン2021-2025―国立国会図書館のデジタルシフトー」を公表しました(付・プレスリリース)〈国立国会図書館―National Diet Library(2021年4月1日)〉
https://www.ndl.go.jp/jp/news/fy2021/210401_01.html
今後5年間を「国立国会図書館のデジタルシフト」推進期間と位置づけ、情報資源と知的活動をつなぐ以下の7つの重点事業に取り組む計画とのことです。期待。
ユニバーサルアクセスの実現:
1. 国会サービスの充実(デジタル情報を駆使した高度な立法補佐)
2. インターネット提供資料の拡充(自宅で使える資料をより多く)
3. 読書バリアフリーの推進(だれでも資料が使えるように)
4. 「知りたい」を支援する情報発信(調べるを、より深く広く)
国のデジタル情報基盤の拡充:
5. 資料デジタル化の加速(デジタルで全ての本が読める未来へ)
6. デジタル資料の収集と長期保存(デジタルで生まれた新しいかたちの資料を残す)
7. デジタルアーカイブの推進と利活用(多様な文化資源をつなぎ、活かす)
「税込み額表示」1日から義務化…「値上げ」の誤解懸念 : ニュース : 関西発 : 地域〈読売新聞オンライン(2021年4月1日)〉
4月1日から施行された総額表示再義務化について。書店では今後も、税別表示と総額表示の商品が混在することについて触れられています。罰則規定が無いこともあり、理解を求めるポスター掲示などでお茶を濁す感じになっているようです。
定価が直接印刷されている商品って、出版物以外だといまはもう音楽CDくらいでしょうか。財務省は再度の消費税率アップを狙っているでしょうし、恐らく10年以内くらいにはまた問題になりそう。
週刊文春、五輪組織委の発売中止要求を批判「税金が投入されている組織として異常」〈BuzzFeed Japan(2021年4月2日)〉
「文春砲は著作権侵害だ」五輪組織委の主張は通る? 雑誌の回収など要求〈弁護士ドットコムニュース(2021年4月3日)〉
演出家のMIKIKO氏が開会式責任者から排除されていく過程を週刊文春がスクープしたのに対し、東京オリンピック組織委員会が「著作権侵害」であるとして雑誌の回収やウェブ記事の削除を求めています。ただ、著作権法第41条に「時事の事件の報道のための利用」という例外規定がありますし、公益性も高いので、さすがに無理筋でしょう。これが通るなら、内部告発なんてできなくなってしまうわけで。もちろん週刊文春が応じるはずもなく。反響を見る限り、世間も文春の味方に付いているように思えます。はっきり言って、これは悪手でしょう。
経済
オレンジ文庫編集長が語る、電子書籍と紙書籍それぞれの可能性 「紙が一軍、電子が二軍というわけではない」〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2021年3月28日)〉
集英社オレンジ文庫編集長へのインタビュー。少女小説市場の縮小により書店での棚確保が難しくなり、コバルト文庫では「限られた一部の人にしか届かなく」なっていたことが、ライト文芸レーベル創刊の経緯だったとのこと。同じ編集部なのですね。
コバルト文庫は2019年以降、紙の発行を停止し、電子だけの「eコバルト文庫」になっているそうです。気付いてなかった……。ただ、電子は1巻でストーリーをまとめる必要がないため、自由度の高い物語作りができる、というのは興味深い。打ち切りリスクが低いと、物語の構成も変わってくるのですね。
「TikTok」で本を売りまくるティーン姉妹の正体 | The New York Times〈東洋経済オンライン(2021年3月28日)〉
Instagramには #bookstagram という人気ハッシュタグがありますが、TikTokでは #BookTok なのですね。映像と音声のメディア特性を活かし、本を読んで号泣する様子など、とにかく「エモい」動画で本の紹介をしているとのこと。日本でも『あの花が咲く丘で君とまた出会えたら』(スターツ出版)がTikTokで急にバズって増刷、なんて事例がありました。とくにエンタメ系作品の紹介は、ショートムービーと相性が良さそうです。
【重要】comicoノベル サービス終了のお知らせ〈comico(コミコ)(2021年3月30日)〉
アプリ系のノベルサービスとしては2015年と比較的早期から展開していた「comicoノベル」が、10月27日で終了に。HON.jpが「日本独立作家同盟」の名称だったころ、講習会を開いていただいたり、NovelJamのスポンサーになっていただいたりと、お世話になりました。担当者の変更や退社などもあり、最近は接点が無くなってしまってましたが。残念。
稼ぎ頭「漫画シフト」鮮明に 変わる出版社のビジネスモデル〈産経ニュース(2021年3月31日)〉
デジタルマンガ市場の拡大を受け、文藝春秋が再びマンガ市場へ参入するなどの動きがある、という報道。デジタルは複製コストがかからないぶん、損益分岐点を超えると急に儲かるようになりますから、これだけ市場が拡大してきたら、そういうシフトが起きるのも当然のことと言えるでしょう。
それに対し、文字モノ電子市場はまだ401億円(出版科学研究所)と、伸びているとはいえ10年前のデジタルマンガより小さな市場です。デジタルマンガは、バックリストの電子化が進んだことで市場が拡大していった経緯があります。2017年には「LINEマンガ」で新刊が12%、既刊が88%という情報もありました(↓)。
つまり事実上無限の棚が存在するデジタルでは、スペースの制約がある物理本より「既刊が売れる」はずなのです。しかし、文字モノは電子化が難しい……というジレンマが続いているのが現状。デジタルマンガのような状況になるまで、このままだとあと10年以上かかるかも?
『さよなら朝日』広告掲載を断念、柏書房がツイート 「通常の3.3倍の出稿料を提示された」〈弁護士ドットコムニュース(2021年3月31日)〉
現役の朝日新聞記者が、朝日新聞「論座」で連載していた論考をまとめた本で、著作権も朝日新聞にあり、契約書にも「宣伝に出来る限り協力する」とあるにも関わらず、朝日新聞への広告出稿が「社内外において掲載リスクが高い」とされてしまった事例。「断った」わけではなく、吹っかけて諦めさせるという、実にかっこ悪いやりかたです。ダサい。とはいえ、これだけ話題になると、逆に良い宣伝になったかも? あ、「宣伝に出来る限り協力する」って、そういうことだったのか!(たぶん違います)
BuzzFeed Japanとハフポスト日本版を統合 幅広いオーディエンスとつながるデジタルメディア企業の誕生〈BuzzFeed Japanのプレスリリース(2021年3月31日)〉
アメリカでベライゾンがハフポストを手放したのを受け、日本でも統合へ。日本のハフポストは朝日新聞との合弁、日本のバズフィードはヤフーとの合弁ですが、この統合により出資比率は、バズフィード51%、ヤフー親会社のZホールディングスと朝日新聞社がそれぞれ24.5%になるそうです。
なお、統合するのは法人の話で、メディアは残ります。ブランドイメージがありますし、読者層もかなり違うでしょうからね。出版のインプリントと同様、管理部門経費を圧縮できる点が大きいのかなと想像します。
技術
プロ視点で見たAI校正・校閲ツール「AI editor」最大のメリットとは?〈ASCII.jp(2021年3月30日)〉
最大のメリットは、「校閲処理のスピード」とのこと。それってジャストシステム「Just Right!」のような既存アプリと比べ、どれだけ優位性があるんだろう? と素朴に疑問です。料金次第とも思うのですが、初期費用10万円、月額利用料18万円と、なかなかいいお値段。「Just Right!」は売り切りパッケージで5万円くらい。なお、記事の最後に「提供:ミラセンシズ」とあるので、恐らくこれは記事広告と思われます。うーん……。
長文を圧縮し要約する「長文要約生成API」を公開中〈株式会社朝日新聞社のプレスリリース(2021年4月2日)〉
朝日新聞過去30年分の記事データをディープラーニングで学習したAIにより、入力した文章を要約するシステムがAPIとして公開。評価版とのことで、いまのところ無料で利用できます。文字数指定で圧縮できる点が面白い。そのまま見出しに使うのは難しいとしても、候補をたくさん出して検証、改善するといった用途に使えそう。ただ、利用規約によると商業的な利用には許諾が必要なうえ、解析データおよび出力データの権利はすべて朝日新聞に帰属するとのこと(↓)。それを承知の上で利用することをお勧めします。
HON.jp News Casting
3月29日のゲストは大洞敦史さん(台湾在住作家・翻訳家)でした。テーマは「自主検閲が必要な現代作家の不自由さ」。番組のアーカイブはこちら。
次回のゲストは吉成秀夫さん(札幌の古書店主)で、「古書店主が発信するYouTube」をテーマにお届けします。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。
メルマガについて
本稿は、HON.jpメールマガジンに掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガに登録してください。無料です。なお、本稿タイトルのナンバーは鷹野凌個人ブログ時代からの通算、メルマガのナンバーはHON.jpでの発行数です。
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。