「原作者逮捕で『アクタージュ』連載終了、コミックスは無期限の出荷&配信停止」「2019年度電子出版市場は3750億円」など、出版関連気になるニュースまとめ #436(2020年8月9日~22日)

出版関連気になるニュースまとめ

《この記事は約 11 分で読めます(1分で600字計算)》

 2020年8月9日~22日は「原作者逮捕で『アクタージュ』連載終了、コミックスは無期限の出荷&配信停止」「2019年度電子出版市場は3750億円」などが話題に。編集長 鷹野が気になった出版関連ニュースをまとめ、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

国内

「本が読めない人」を育てる日本、2022年度から始まる衝撃の国語教育 | 教育現場は困ってる〈ダイヤモンド・オンライン(2020年8月10日)〉

 2022年度から始まる高校の新学習指導要領で、いままでの「現代文」が、実用文中心の「論理国語」と文学中心の「文学国語」に分かれ、どちらかを選択することになります。これに対し、日本文藝家協会などが反発している、という記事。反響を見ていると、賛否両論真っ二つに割れている感じです。

 私は、文学に触れる機会は小中学校で9年間もあるのだから、高校生以降は実用的な文章を学んでもいいのでは、と思います。選択できるのだから、文学をより深く学びたい人はそっちを選べばいい。つまり、文科省の方針に賛成です。

『アクタージュ』連載終了。「週刊少年ジャンプの社会的責任の大きさを深刻に受け止め」と編集部〈ハフポスト日本版(2020年8月11日)〉

『アクタージュ』コミックス無期限の出荷停止 13巻以降の新刊は発売中止 関連商品の対応説明〈ORICON NEWS(2020年8月17日 )〉

 原作者が女子中学生の胸を触り、強制わいせつ容疑で逮捕。容疑を認めていることから、ジャンプ編集部と作画担当者が相談の上、連載終了。のちに、舞台化の中止と、コミックスの無期限出荷停止も発表されました。残念ですが、日本版「サムの息子法」が無い以上、これは致し方ないことでしょう。

 ただ、購入済みの電子版はどうなるのか? が当初明らかにされていなかったため、「買った本が消えちゃう!?」といった心配をする方々が、相当数観測されました。『ハイスコアガール』など過去の類似事例と同様、購入済みの『アクタージュ』電子版は、新規配信停止後も、再ダウンロード・閲覧可能です。つまり「もう買えない」というだけ。関係者にとっては「当たり前」のことでも、ちゃんと最初から明示しておいたほうが良いと思います。

 ちなみに、電子書店でこういった対応がなされる背景について、補足しておきます。2009年にAmazonが『1984』の海賊版を配信停止した際、購入済みユーザーのライブラリまで削除。「ビッグブラザーの所業」と大炎上し、あのジェフ・ベゾスが謝罪するという事件がありました(↓)。電子書店には、この事例を知っている関係者が多いのではないでしょうか。

 ただ、実は、ストリーミング配信しか行っていない一部の同人系電子書店では、配信停止=即座に閲覧も不能で、返金もしないと規約に明示されており、きっとそのうち2009年のAmazonと似たような炎上騒ぎが起きるだろうな……と、ドキドキしています。ドキドキ。

電子図書館、“密”回避で盛況 開設自治体5%、普及の契機〈SankeiBiz(2020年8月12日)〉

 まだ自治体ベースで5%しか導入が進んでいない電子図書館(電子書籍貸出サービス)が、コロナ禍を機に注目され、ようやく普及が進みそう、という記事。お盆明けには電流協から、7月1日時点で100自治体に到達したという発表もありました(↓)。もっと広がれ!

「データ所有型電子書籍」で電子書籍に紙の本の良さを取り戻す〈DG Lab Haus(2020年8月13日 )〉

 7月20日のまとめ(↓)でもピックアップした、ブロックチェーン技術と電子マンガのプロジェクトの、深掘り記事です。

 DRMの問題をブロックチェーン技術で解決したり、OSSで仕様を公開したりという試みを否定するわけではありませんが、「データ所有型電子書籍」というアピールはユーザーにどこまで訴求できるか。記事内では触れられていない、ソーシャルDRM/DRMフリーなら実現できていることでもあります。既存の電子書店での購入済みライブラリが「所有型」へ切り替わらないなら、乗り換えるハードルはかなり高いようにも思えます。

 また、記事冒頭で現状の電子書籍について、恐らく友人間を想定した「貸し借りできない」というデメリットが挙げられています。仮にブロックチェーン技術で「データ所有型電子書籍」になったとしても、友人間で無料の貸し借りができるか? というと、技術的には可能でも、権利関係的に無断でやってはダメ、という話になりそうな気がします。

東大発ベンチャー「マンガ特化型AI自動翻訳」リリース。海外での海賊版対策としても有効〈BUSINESS INSIDER(2020年8月18日 )〉

 マンガの画像からOCRでテキストを抽出し、機械翻訳、吹き出しの中へ再配置、という工程をAIで自動化するシステム。そのまま公開するのではなく、人間の作業を簡略化するのが目的のようです。全自動ではなく、半自動。

 赤松健氏の「マンガ図書館Z」では以前から自動翻訳機能が実装されていますが(↓)、自動抽出&自動翻訳のままなので、誤認識・誤翻訳が散見される点が指摘されていました。ただ、コストを考えたら、それしかやりようがないのも事実なんですよね。

 逆に、元記事内でも触れられていますが、集英社「Manga Plus」のように膨大な労力とコストをかけてすべて人力翻訳し続けるのも、限界があります。一部の「儲かる」作品だけが対象になってしまいかねない。だから、こういった半自動の仕組みにも、一定のニーズがあるのではないでしょうか。

2019年度の市場規模は3473億円、2年連続の20%超の成長 ~電子書籍に関する調査結果2020~〈インプレス総合研究所(2020年8月18日 )〉

 毎年恒例。電子雑誌を含む電子出版市場は、3750億円です。「おや?」と思ったのが、次年度以降の予測値グラフで、電子書籍と電子雑誌が分離されていない点。前年度までとは異なりますが、リリースには理由が書かれていません。本誌には載ってるのかな……? 電子雑誌市場はここ数年減少傾向が続いているので、もしかしたら2020年度以降は、合算しちゃうのかもしれませんね。

 利用者アンケートは、前年度から有料無料問わず「利用している電子書籍サービスやアプリ」を尋ねるようになっており、マンガアプリ系が上位の大半を占める傾向は変わっていません。まあ、電子マンガ中心の市場ですから致し方ないとはいえ、マンガ以外の利用率がどうなっているかも知りたいところ。本誌には載ってるのかな……?(さすがに買えない)

 2位の「LINEマンガ」が1位の「Kindleストア」に肉薄している点は気になりますが、無料マンガ連載という強い引きがあるのが理由でしょう。基本有料販売系でも意外と無料公開も多かったりするし、逆に「待てば無料」で待てない人は課金というアプリもあるし、全部無料もあるし、実際どう区分するかは難しいところ。

 このアンケート結果は、売上=利用者数×客単価×利用頻度のうち、複数回答可の利用者数(≒利用率)だけ、という点には注意が必要です。当たり前ですが、無料連載しか見てないユーザーは客単価0円ですから。「Kindleストア」が26.2%というのは、シェア(市場占有率)ではないのです。

「次にくるマンガ大賞 2020」発表! 「アンデッドアンラック」「僕の心のヤバイやつ」がコミックス・Webマンガ部門大賞に〈アニメ!アニメ!(2020年8月20日)〉

 次にブレイクしそうなマンガを発掘して紹介することを目的としたアワード。名前だけは知ってる作品、というレベルでも数点しかわからない……精進します。

海外

香港メディア王の黎氏、国安法違反で逮捕 周庭氏ら活動家も〈ロイター(2020年8月11日)〉

 香港国家安全維持法が施行され、香港紙「アップル・デイリー」創業者の黎智英(ジミー・ライ)氏や、民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏などが逮捕されたというニュース。数日後に釈放されていますが、香港で報道の自由/表現の自由への規制がより強くなっていることを印象づけられました。

FacebookとGoogleが「偽装メディア」の排除に乗り出す〈新聞紙学的(2020年8月16日)〉

 政治広告への規制の網をかいくぐるため、ローカルメディアを装った、中身は政党や候補者を支援する政治サイトが急増。GoogleとFacebookが対策に乗り出したとのことです。11月のアメリカ大統領選挙へ向け、今後もさまざまな動きがありそうです。

“30%税”への叛旗。フォートナイトとApple・Google対決のゆくえ【西田宗千佳のイマトミライ】〈Impress Watch(2020年8月17日)〉

 ゲーム「フォートナイト」のEpic Gamesと、Apple・Googleとの対決。プラットフォームの決済縛りの動向は、電子書店にも大きな影響があるのでピックアップしました。とくにAppleは、決済迂回禁止でアプリから外部へのリンクが貼れない点が厳しいんですよね。審査の判断にもブレがあって、SNSシェア機能がリジェクトされたりされなかったり、というのもあるようです。

 なお、この記事では触れられていませんが、Epic Gamesの株式は40%を中国テンセント社が握っている、という別の側面もある点は指摘しておきます。

なぜ中国出版市場ではオーディオブックが急伸しているのか? 〈HON.jp News Blog(2020年8月20日)〉

 おなじみ、北京大学・馬場公彦氏のコラム。6月のコラムで、読書形式ごとの時間占有率ではオーディオブックが17.5%にまで伸びていること、読書回数では紙本を上回ることなどを報告いただいたことから、その急速な普及要因などについて掘り下げて欲しい、とお願いしました。中国でオーディオというメディアが、日常生活の中に溶け込んでいることが伝わってきます。

 ところで中国の著作権法って、著作隣接権が出版者にも及ぶのですね。知りませんでした。ただ、日本でも出版契約だけでなく、二次展開を前提にした契約を結んでおけば、同じようなことができるはず。なので、まずは日本書籍出版協会のヒナ型(↓)を、オーディオブックも含めた形に変えていくところからでしょうか。

新聞の業界団体、アップルにAmazonと同じ手数料15%への値引きを求める〈Engadget 日本版(2020年8月21日)〉

 Apple決済は前出のように手数料は通常30%ですが、サブスクリプションの契約2年目からは15%に下がります(2016年に追加)。ところが、どうやらAmazonは1年目から15%で優遇されていたらしいのです。米下院反トラスト小委員会の公聴会で追求されたティム・クックCEOは「Amazonに提示した手数料値下げは、条件を満たす人なら誰でも利用できる」と証言しており、その条件とはなにか? うちにも適用されるのか? という追求が始まっています。GAFAへの独占禁止法適用の行方とあわせ、今後の動向を注視しましょう。

ブロードキャスティング

 毎週日曜日21時から配信する、30分間のライブ映像番組。上記のニュース紹介や解説をゲストとともに、より掘り下げた形でお届けしています。8月23日のゲストは編集者の西野由季子さんでした。

 次回のゲストは漫画の助っ人マスケット合同会社代表の菊池健さんです。配信終了後はZoom交流会もあります。詳細や申込みは、Peatixのイベントページから。

メルマガについて

 本稿は、HON.jpメールマガジンに掲載されている内容を同時に配信しています。最新情報をプッシュ型で入手したい場合は、ぜひメルマガに登録してください。無料です。なお、タイトルのナンバーは、鷹野凌個人ブログ時代からの通算です。

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0

※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。

広告

著者について

About 鷹野凌 788 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 明星大学デジタル編集論非常勤講師 / 二松學舍大学エディティング・リテラシー演習非常勤講師 / 日本出版学会理事 / デジタルアーカイブ学会会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
タグ: / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / / /