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大日本印刷グループの株式会社トゥ・ディファクトが運営する電子書籍の作成・販売サービス「パブー」は4月1日、9月30日に閉店することを発表した。新規作品の作成・公開、プロ版(有料プラン)、新規会員登録は6月30日で停止となる。購入した作品のダウンロードは、11月30日まで可能。著者売上のうち3000円に満たず支払保留されているものも、10月以降に指定口座へ振り込まれる。
パブーは、ブログと同じインターフェースにより誰でも電子書籍の作成・販売を簡単にできるサービスとして、2010年6月にサービス開始(記事)。当初は株式会社paperboy&co.(現GMOペパボ)の運営だった。
2012年6月に「ブクログ」とともに、株式会社ブクログとして分社化。2016年1月に全株式がブックオフコーポレーション株式会社に譲渡され、2016年10月にパブーだけが大日本印刷グループの株式会社トゥ・ディファクトが事業継承され運営が続けられてきた。
2019年1月下旬ごろから、利用ユーザーの元に「特定商取引法に基づく表示について」というお知らせメールが届き始める(ヘルプ)。従来は、サイト運営者であるトゥ・ディファクトについての表示をしてきたが、指摘を受け、パブーの運営や販売の形態などから改めて検討した結果、著者が販売主体であるとの結論に至ったという。
これまで8年以上ものあいだ必要なかった特定商取引法に基づく表示が求められるようになり、「なぜいまになって?」という困惑の声や、「氏名・住所を公表するくらいなら販売をやめる」といった動きが広がっていた。これが閉店への引き金の1つになったものと思われる。
【追記】解説&意見
補足で解説しておく。特定商取引法に基づく表示が必要かどうかは、プラットフォーム側のスタンス次第だ。たとえば「Kindleダイレクト・パブリッシング」「楽天Koboライティングライフ」「BOOK☆WALKER 同人誌・個人出版サービス」などにおける販売主体はそれぞれ、アマゾンジャパン合同会社、楽天株式会社、株式会社ブックウォーカーだ。著者が個人出版するのにあたり、個人情報を表示する義務は、ない。これらの事業者は、販売主体がサービス運営側、すなわち BtoC の事業であるという位置づけになっている。
ところが、同じように誰でもデータコンテンツが販売できるサービスであっても、利用者が特定商取引法に基づく「販売業者」に該当する場合は個人情報を表示する必要がある、としているところもある。株式会社ピースオブケイクが運営する「note」(ヘルプ)や、ピクシブ株式会社が運営する「BOOTH」(ヘルプ)などだ(BOOTHは物理メディアの販売も可能なので、少し事情が異なる)。これらのサービスは、利用者側が販売主体、すなわち、サービス運営側は CtoC(個人間取引)の仲介をしているに過ぎない、というスタンスだ。一見、同じようなサービスに見えるが、このスタンスの違いは根本的に、責任の所在がどこにあるか? という点に繋がっている。
ここからは筆者の意見だ。そもそも特定商取引法は消費者保護を目的とした法律である。本来であれば「誰が商品を引き渡すのか?」が事業主体を決めるのではないだろうか。インターネットオークションは、明らかに CtoC の様態で、売買される物品が物理的に出品者の元にある。落札者へ物品が届かないようなトラブルを未然に防ぐ必要があり、そこには表示義務も伴うというのは理解できる。
しかし、電子出版のようなデータコンテンツ販売の場合、商品はプラットフォーム事業者のサーバーにある。購入者がデータコンテンツをちゃんとダウンロードできるかどうかは、プラットフォーム事業者側が適切に運営しているかどうかにかかっている。仮に出版者個人に特定商取引法上の表示義務があるとして、ユーザーから「ダウンロードできないんだけど!」といったクレームを入れられても、それは事業者側の責任なので、出版者個人は困ってしまうだろう。この状態で、出版者個人が事業主体だと言われるのは、正直、強い違和感がある。
参考リンク
【重要】パブー閉店のお知らせ