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2024年5月26日~6月1日は「共同通信、海賊版対策で“ブロッキングが一定の成果”と誤報」「日テレ『セクシー田中さん』調査報告」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会 ワーキンググループ(第23回)配付資料〈総務省(2024年5月27日)〉
こちらの検討会、あまりに凄まじいペースで行われていて、傍聴はおろか資料をすべて追いかけるのも難しいほどでした。今回の資料WG23-1-1「質の高いメディアへの広告配信に資する取組を通じた情報流通の健全性確保の在り方」に関する主な論点(案)を斜め読みしていたら、過去の検討会でデジタル広告品質認証機構(JICDAQ)の発表した資料が引用され、設立経緯について「(広告主が)安心して取引できる事業者を分かりやすく」と説明されていることに気がつきました。
しかし、JICDAQ公式の設立目的には「デジタル広告が、生活者や企業、そして社会にとって有益であることを願い、デジタル広告市場が健全に発展することを目指して立ち上げた認証機構です。」と、真っ先に「生活者(=ユーザー)」が挙げられています。それはただのタテマエだったということなのでしょうか?
まあ、優先課題がアドフラウドとブランドセーフティですから、最初から広告主しか見てないスタンスは感じていましたが。それでもいちおう「広告主が」と明示はしてこなかったはずなんですよね。ましてや、設立の前段階で発表された「デジタル広告の課題に対するアドバタイザー宣言」では「ユーザーエクスペリエンスの向上」も掲げられていて、広告主だけのための宣言ではない形になっていたはずなんですけど。
政府、海賊版対策で海外連携強化 サイト遮断や削除、迅速に〈共同通信(2024年5月28日)〉
日本国内からアクセスできる海賊版サイトへの対応は、セキュリティー対策事業者などの協力を得て接続を強制的に止めるブロッキング(接続遮断)策を導入し、一定の成果を上げている。
この記事を読む直前に、知的財産戦略本部で公開された「インターネット上の海賊版に対する総合的な対策メニュー及び工程表(更新版)」を確認したばかりでした。工程表では「ブロッキング」がとうとう(注)に追いやられていたので、記事のこの記述には思わず「は?」と声が出ました。
そもそも2018年に「漫画村」が問題になったとき、政府からブロッキングの「要請」は出たものの、実施はされていないはずなのですよね。実際、弁護士・中澤佑一氏がNTTコミュニケーションズを訴えた裁判で、NTTコミュニケーションズは「ブロッキングをおこなう予定はない」と明言しています。
共同通信、なにか事実誤認してませんか? フィルタリングと混同している?
社会
「セクシー田中さん」ドラマ化の条件巡り日テレと小学館で食い違い、作者の不満高まる〈読売新聞(2024年5月31日)〉
やっと報告書が出ました。小学館の調査結果は、来週早々になるそうです。読売新聞にはいまのところ報告書の内容を要約した記事しか出ていません。まあ、グループ会社ですもんね。他メディアはざっと挙げただけでも以下のとおり。
セクシー田中さん、日テレ調査の課題 「原作者批判と読める箇所も」〈朝日新聞デジタル(2024年5月31日)〉
識者「日テレは当事者としての猛省がない」 セクシー田中さん問題で〈毎日新聞(2024年5月31日)〉
セクシー田中さん問題 ドラマ制作「十分な時間を」〈日本経済新聞(2024年6月1日)〉
芦原さんは「ウソ」であしらい、脚本家には「原作者批判」で敵意を煽る…日テレ「セクシー田中さん」調査報告書で浮上した「プロデューサーの大罪」〈デイリー新潮(2024年6月1日)〉
私自身は、報告書を読む前に、これらの批判的な報道を目にしていました。また、クリエイターの方々から強い批判が出ていることや、ショックを受けている方もいることも把握していました。これは、ちゃんと報告書をすべて読んでからコメントすべきだとも思いました。
ドラマ「セクシー田中さん」 社内特別調査チームの調査結果について|プレスリリース|企業・IR情報〈日本テレビ(2024年5月31日)〉
で、落ち着いたころにじっくり読んでみたのですが……まず、あくまでこれは日テレ側の見解であり、「原作者の死亡原因を究明すること」や「責任の所在を明らかにすること」が目的ではない、ということに留意しておく必要があるでしょう。小学館の調査結果も待ちたいところ。
それを前提としつつも、もう初っ端から小学館との認識の齟齬が発生している件や、プロデューサーが「撮影は終わった」と嘘をついた件など、ヤバそうな情報でも隠さず報告している点については評価していいと思いました。表紙に「公表版」とあるので、公表していない情報もあるのでしょうけど(匿名化処理でしょうか?)。
細部を挙げていくとキリがないので、どうしても言っておきたいことを2点だけ。
1点目は、本件脚本家が9話・10話の脚本に「自分のアイディアが含まれている」と、クレジット表記を主張して揉めたことについて。「アイディア」ということは、恐らく「構成」や「展開」のことを指しているのでしょう。残念ながら、そういうアイデアに著作権は発生しません。つまり氏名表示権も行使できません。
2点目は、別紙3「有識者の方々からいただいたコメント」について。漫画家の里中満智子さんや東村アキコさんは顕名なのに、脚本家、(元)プロデューサーは匿名です。なぜ。まあ、(元)プロデューサーのコメントは「改変は必要」というスタンスに固執していて新たな火種になっているので、顕名で公表するのは危ないという判断だったのかもしれません。
経済
集英社の新たな縦読みマンガアプリ「ジャンプTOON」本日5月29日に配信開始!〈MANGA Watch(2024年5月29日)〉
私はつい、新サービスやアプリが出ると「開発はどこだろう?」と気になってしまいます。「ジャンプTOON」の著作権情報を確認したところ、集英社と並んで「CyberAgent Group」と書かれていました。「少年ジャンプ+」でガッツリ組んでいる「はてな」ではないのですね。なるほど。
東京漫画社 電子書籍売上急拡大で「PUBNAVI」導入 煩雑な印税計算を正確に処理〈The Bunka News デジタル(2024年5月30日)〉
当初、電子版が紙版のセールスに影響するかも? と懸念して2カ月遅れにしていたそうですが、現在ではほぼサイマル(同時発売)になっているそうです。その結果、紙版の売上水準は維持しつつ、電子版の売上が6割を占めているとのこと。すごいなあ。
日販グループホールディングス最終赤字拡大 24年3月期、取次事業振るわず〈日本経済新聞(2024年5月30日)〉
トーハン、24年3月期は最終黒字 取次事業は赤字幅縮小〈日本経済新聞(2024年5月31日)〉
大手取次の決算が出ました。トーハンは最終黒字ですが、「物流拠点の売却などで32億円の特別利益を計上」した結果として純利益14億円なので、本業は赤字です。書店側ももう限界なので、出版社側に転嫁するしかありません。今後、本の価格はますます上がっていくことになるでしょう。
ブラックストーンが「めちゃコミ」運営会社買収へTOB-関係者〈Bloomberg(2024年5月31日)〉
「めちゃコミック」、ブラックストーンが買収へ 帝人が売却〈日本経済新聞(2024年5月31日)〉
5月9日に「ソニーなど複数陣営が買収検討」という報道がありましたが、結局、最も高値を付けた投資ファンドに売却されることになりました。ブラックストーンはバイアウト・ファンドビジネスを中心としている会社なので、経営に深く関与して企業価値を高めたのち売却、という流れになるものと思われます。つまり、次にどこが買うか? が次の焦点に。
技術
生成AI、人間の仕事を奪う以上に増やす可能性も–米国の大学教授が指摘〈ZDNET Japan(2024年5月27日)〉
指摘されている5つの問題のうち「生成AIの出力を検証するために人が必要」は、私が2023年予想で挙げた「エディターシップの必要性が高まる」と同じことを意味していると感じました。たしかに、かえって余計な仕事が増えるかも。
「生成AIに作業をさせて効率化を図る」と簡単に言う人も多いのですが、正直、出力結果をちゃんと確認しないと危ないと思っています。「Excelの計算結果が信用できずに電卓を叩く」のと似ている懸念かもしれませんが、Excelで計算式が間違っていることもありますからね。
Google検索のランキングシステムのソースコードが流出!?〈海外SEO情報ブログ(2024年5月29日)〉
これまでGoogleが「使っていない」と言っていたパラメーターが、流出したソースコードに存在していたとして話題になっていました。それを見た私は、実際にそのパラメーターがいまでも使われているかどうか、あるいは、重み付けがどの程度なされているかで、ぜんぜん意味が変わってくるはずだ――とFacebookに投稿しました。その直後に、このSEOの専門家・鈴木謙一氏のブログエントリーを見つけました。
本物だという信憑性がかなり高いとはいえ、本当に本物だという証拠はありません。また、本物だったとしても、ドキュメントに含まれているモジュールが現在稼働しているかどうかはわかりません。さらに稼働していたとしても、どのくらいの重み付けがなされているかも不明です。
まったく同意見! いや、そうですよね。たとえば「著者」の情報は、Google+が始まったときにいちど導入され、数年で廃止された歴史があります。使われなくなったいま、パラメーターだけが残っていたとしてもおかしくはありません。こういう真偽不確かな情報に振り回されないようにしたいものです。
なお「本物だという証拠がない」については、Googleがのちに本物だと認めたことが追記されています。
実録:AIで描く漫画の実際 ~AIで今風の手描きっぽい漫画を作ってみる〈ASCII.jp(2024年5月29日)〉
マンガを読んで「これはすごい!」と思ったのですが、続く解説を読んでみたら、これはこの方がすごいことがわかりました。クリスタで相当手を入れていますね。あとはネームの力です。おいそれと真似はできないと思います。
リフロー型電子書籍に印刷版のページ番号が表示されない(できない)現状について〈日本電子出版協会(2024年6月1日)〉
2024年度からJEPAの理事になったので、キーパーソン・メッセージを初めて執筆しました。冒頭にもあるように「なにを書こう?」としばし悩んだのですが、いま自分の中でいちばんホットなこの話題に。電書連がガイドの見直しに動いているらしいので、少しでも後押しになれば良いなと。
実際、印刷版ページ番号ってアクセシビリティ対応の観点だけでなく、一般ユーザーにもニーズがあるはずなんですよね。記事への反響でもそういった声がいくつか拾えました。読書会で、みんなが持ってくる本が紙と電子で混在したとき、電子はどこ? を示すのが難しい、みたいな(論理目次がいいかげんな本も多いというのもあるとは思いますが)。
で、印刷版ページ番号をEPUBに埋め込む作業を実際にやってみたのですが、必要な時間は288ページの本でチェック含めまる1日くらい。制作ツールはでんでんコンバーターです。紙版のPDFを見ながら、手作業でマークダウンを記述しました。
InDesignからの出力なら、スクリプトを組めば自動化できるみたいです。昨年の日本出版学会春季研究発表会でも話をしましたが、パッケージデータがあれば、わりと現実的な追加コストで実現できそうなんですよね。
つまり問題は、せっかく作っても表示されない(できない)点にあるぞ、と。
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雑記
雨、もしくは、曇天な日が続きます。まだ梅雨入りではないようです。気象庁によると、関東甲信の平年は6月7日ごろとのこと。洗濯物が乾かないなあ(鷹野)
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