「東京創元社が翻訳者に謝罪」「“児童ポルノ”ではなく“児童性的虐待(Child sexual abuse)”」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #612(2024年3月17日~23日)

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 2024年3月17日~23日は「東京創元社が翻訳者に謝罪」「“児童ポルノ”ではなく“児童性的虐待(Child sexual abuse)”」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

仏、グーグルに制裁金410億円 報道機関との記事使用料交渉巡り〈共同通信(2024年3月20日)〉

米司法省がアップルを提訴、スマホ市場独占で〈ケータイ Watch(2024年3月22日)〉

 ビッグテックに対する各国政府の規制が相次いでいます。フランスでのGoogleは「事実について争わないと約束し、是正策を示している」そうです。過去の制裁金に比べたら額が小さいからでしょうか。あるいは、反論の余地が少ない?

 ところが、アメリカのAppleは、司法省が「大罪」と言っている論点の多くは、実はAppleがすでに対応を始めていることであり「時代遅れ」になりつつあるという指摘もあります。選挙イヤーだから「やってるポーズだけ」なのかもしれません。

AIと著作権の「考え方」、知財計画に反映へ 内閣府の検討会で方針〈朝日新聞デジタル(2024年3月21日)〉

 知的財産戦略本部の「AI時代の知的財産権検討会(第6回)」を受けての報道です。文化庁の「考え方」が著作権法に限られているのに対し、こちらでは主に著作権法以外が検討されています。今回私は傍聴していません。

 中間とりまとめ骨子(案)の資料には「労力・作風といった著作権法等が必ずしも保護対象として明記していないものに関し、知的財産権全般との法的な整理について検討が必要」とか「『声』の保護に関する法の適用関係について、整理が必要」といった記述が確認できます。

社会

東京創元社が翻訳者に謝罪 無料電子ブックで訳文を無断使用 原因はモラハラか〈ITmedia NEWS(2024年3月19日)〉

 翻訳者の島村浩子氏が1月29日に個人ブログで「無料電子ブックにわたしの訳文が無断で大量に使用されてしまいました」という告発エントリーを公開、その後、出版社との話し合いが進み、金銭的な補償と謝罪文が成されたという事件です。勇気ある告発に敬意を表します。

 東京創元社の謝罪文によると、通常の試し読みより大幅に無料で読めるようにするのにあたり、原著作者には許諾を得たのに、翻訳者の島村氏には連絡しないままだったとのこと。「確認不足」つまり手続き上のミスのように読めます。

 ところが、島村氏のブログによると、もう少し経緯は複雑です。実はこの無料公開以前より編集者からモラハラを受けていて、それを上司の役員に訴え、編集者がシリーズの担当を外れたあとに、この無連絡無料公開が起きています。謝罪文はその経緯に触れていません。

 一般論としては、片方の言い分だけを鵜呑みにはできません。ただ、本件の場合すでに、島村氏からの「金銭的な補償」「謝罪文の公開」という要求が通っている段階です。過去の経緯含め、島村氏の言い分は信頼性が高いと判断してよいでしょう。

 これも一般論ですが、発注者と受注者のあいだにはどうしても権力勾配が生まれます。上司と部下とか、先生と生徒などの場合も同様です。その力関係の差で相手を意のままに操るようなやり方が「ハラスメント」として強く問題視されるようになってきたことは、弱い側が泣き寝入りするしかなかったころに比べたら、世の中が良い方へ変わってきたと言えるのでは。

生成AIが違法画像学習か、データ収集先に画像投稿サイトやネット掲示板…フィルターすり抜けも〈読売新聞(2024年3月21日)〉

 タイトルには「違法画像」とありますが、本文では「児童ポルノ」と表現されています。生成AIが違法画像を学習することの是非はひとまずさておき、ここではこの読売新聞記事の「児童ポルノ」という言葉を問題視したいです。というか、そもそも法律が「児童ポルノ」と表現している(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律)ことに問題があります。

 この法律は「児童の権利を擁護」することが目的です。だから、実在しない児童を想像で描いたイラスト(つまり被害者が存在しない)は規制の対象外です。ところが、性虐待が実際に行われ被害者が存在していても、性器が写っていない写真は規制対象外です(そういう判決が出て問題視する請願もある)。この法律のバグと言っていいでしょう。

 さらに「児童ポルノ」という用語に引きずられ、なぜか被害者の存在しないイラストを先に規制しようとする動きがあったりもします(例:国連子どもの権利委員会の事例)。優先すべきなのは実在する被害者の救済であるはず。ところがセンシティブな話題でもあり、この法律のバグはなかなか是正されていないのが現状です。

 これは私も最近まで知らなかったのですが、2016年に採択された「ルクセンブルク・ガイドライン」では「同じ言葉が用いられていても実際の意味するところは一致していない場合が多く、立法関係者や児童保護機関、マスコミ、市民団体にとっての混乱と課題の種となっている」と、児童保護に関する用語と定義の統一を推奨しています。

 この「ルクセンブルク・ガイドライン」の制定に関わった国際刑事警察機構(インターポール)は、「彼らの虐待の深刻さは、“ポルノ”などの言葉によって軽減されるべきではありません(The seriousness of their abuse should not be reduced by words such as “porn”.)」と指摘しています。

 さらに、この「ルクセンブルク・ガイドライン」の説明では「慎重に使用するか、完全に避けるべき用語(Terms to be used with caution, or avoided completely)」として真っ先に「児童ポルノ(Child pornography)」を挙げています。言い換えの推奨語は「児童性的虐待(Child sexual abuse)」です。

 また、恐らくこのガイドラインに沿っているものと思われますが、Googleの透明化レポート(Transparency Report)では「児童性的虐待のコンテンツ(CSAM:Child Sexual Abuse Material)」と表現されています。そういう言い替えが、国際的な流れになっているようです。

 本邦のマスメディアもそろそろ、この「児童ポルノ」という表現の言い換えを検討してみては。恐らくマスメディアから問題提起しないと、この法律のバグはいつまでたっても修正できないと思うのですよね。

プリキュアの商品イラストに生成AI? Xで指摘相次ぐ→公式が否定する事態に 「現代の魔女狩り」との声も〈ITmedia NEWS(2024年3月22日)〉

 公式X(旧Twitter)の投稿への反響を確認したら、頭がクラクラしてきました。最初のアニメシリーズとはだいぶ絵の雰囲気が違っていて、今風にアレンジされているのは確かです。「シックなデザインがオトナかわいい」って公式テキストもありますし。それを「絵柄が違う!」と批判する声はまだ理解できるんですが、生成AIだと決めつけて批判している人が多いこと、多いこと。公式が否定しても、攻撃は続いていました。

 さすがにこれは「魔女狩り」と言われても仕方ない。疑心暗鬼も度が過ぎているように思います。ぶっちゃけありえない。以前、あらいずみるい氏が同人誌の表紙絵をAI生成だと疑われ、レイヤー構成を動画で公開した事例を思い出しました。当時、それでも納得していない人がけっこう観測できたんですよね。「一枚絵からAIでレイヤー構成を生成することも可能だ」みたいな難癖もあったなあ……。

見えない人はWebをどう閲覧? 本紙サイトの課題にがくぜん、求められる「不十分と認める勇気」【動画も】〈東京新聞 TOKYO Web(2024年3月23日)〉

 至らない部分があることを素直に認めているという点で素晴らしい記事。とくに広告って自動で切り替わったりするのが、視覚障害者の方にはキツイだろうなあ……と思っていたんですよね。「自動で広告が切り替わった途端、カーソルがページの冒頭へ。振り出しに戻るだ。」という記述はまさにそれ。

 以前、私が遭遇したのは、Twitter(当時)ウィジェットの問題でした。タイムラインの埋め込みコードで自動生成される見出しがh1(タイトルと同じレベル)で、指摘されるまで気づきませんでした。見出しレベルがおかしいと、読み上げソフトでページ内をうまく移動できないそうです。勝手に生成される見出しなので修正できず、ウィジェットを削除することになりました。そういうの、なかなか気づけませんよね。

経済

D2Cはオワコンなのか 多くのブランドが淘汰された背景に“闇深い”事情:日本のマーケティング最前線〈ITmedia ビジネスオンライン(2024年3月19日)〉

 あの「シミ」「イボ」「毛穴」みたいな不愉快広告系も「D2C」なのですね……脳内で言葉がうまく結びついてませんでした。「直販」だといかがわしいイメージがあるからでしょうか? 「D2C」という新しいワードに置き換えてイメージの刷新を図っているように感じます。「D2Cが冬の時代を迎えている」って、あんな嫌がらせみたいな広告を出稿してたらそうなるのは当たり前ですよね。薬機法やステマ規制の強化は自業自得だと思いますよ。

 あと、「10年前までは、大手メーカーを除いてはこういったグレーな表現がまかり通ってきた部分があった」とありますが、10年も前でしょうか? 女性週刊誌系ウェブメディアだといまでもけっこう危うい表現のグレーゾーン広告を見かける気がします。というか、私がパブリッシャー側で体験していますから、少なくとも2019年にはまだありました。

 HON.jp News Blogでは2019年に、一部に広告が入る形の関連記事レコメンドウィジェットを試しに導入したことがありました。そのときしばらく広告クリエイティブの事前審査をやっていたのですが、根拠レスでの「最高」「最強」「No.1」みたいな、グレーどころか明確にアウトな表現がゴロゴロしていて頭を抱えたことを思い出します。

 そもそも、プラットフォームがそういう酷い広告をスルーして、審査をパブリッシャー側に丸投げしていることにも腹が立ちました。そんな酷い広告をHON.jp News Blogに表示したら、読者が逃げてしまいます。そういう危機感を覚えずにはいられなかったほど酷かったんです。

 だから当時、デジタル広告市場の問題点を検討する政府のデジタル市場競争会議の中間報告を見て「コストをかけて配信した記事に、メディアのブランドを棄損するような広告が掲載されるリスク」が存在するのに、報告書(案)では広告主側のリスクだけが指摘されていることを問題視したんです。

How to abandon a paywall and thrive – a case study(ペイウォールを放棄して成功する方法 – ケーススタディ)〈Media Makers Meet(2024年3月20日)〉

 ペイウォールを放棄し、非営利型メディアへ転換した事例です。「より多くの読者へリーチする必要がある」のに「ペイウォールによって重要な情報へのアクセスが制限され、より幅広い視聴者にリーチする能力が妨げられている」と認識していたそうです。

 あとは、「毎日のニュースレター」「利益の再投資と透明性」「非営利コンサルティング(News Revenue Hub)の指導」「読者コミュニティの構築」「編集の誠実さ」「同業他社から学び協力し続けること」が挙げられています。参考になる。

ネット広告を良くしなければ社会が悪くなる、2024年度はその分岐点です。〈AdverTimes.(アドタイ) by 宣伝会議(2024年3月21日)〉

 先週もピックアップしたメディアコンサルタント・境治氏が、こんどは広告関係者が多く見ているであろう「AdverTimes.」で同趣旨の問題提起です。「通せんぼ」するような広告表示が酷いことには同意しますし、改善しないとマジでヤバイとも思います。ただ、やはり「新聞デジタル広告」の減少傾向は、ペイウォール強化が主要因じゃないかなあ。つまり、そもそも広告表示以前の問題

 例を挙げると、毎日新聞や朝日新聞ってデジタル版を契約していないと、冒頭200字くらいしか読めない記事が多いです。ページを開いてその状態だと多くの人が即直帰するでしょうし、そういう体験を重ねると事前に「毎日新聞」や「朝日新聞」だとわかった時点でページを開かなくなります。

 私はどちらも契約しているので全文読めますが、契約していない人のことを考えると記事を紹介することさえ躊躇します。そういう意味では、ギフトコードが発行できる朝日新聞のほうがだいぶマシ。読売新聞に至っては、紙の定期購読をしていないとタイトルしか読めないハードペイウォールを採用していますし。

 それで有料会員数が順調に増えているなら、広告が多少減ろうと問題ないわけですが。実態はどうなんでしょうねぇ……?

技術

Threadsがfediverseへの統合機能をベータ版として提供開始 ―Mastodon、Misskeyなどと投稿共有可能に〈gihyo.jp(2024年3月22日)〉

 ThreadsがついにFediverseへの対応を開始しました。[設定]→[アカウント]で[フェディバースでのシェア]をオンに切り替えれば、MastodonやMisskeyなど他のActivityPub準拠サーバーのユーザーからフォローされたり「いいね」されたり、といったことが可能になる予定です。

 予定、というのは、日本人ユーザーが多い mstdn.jp や pawoo.net や misskey.io や fedibird.com などで「繋がらない」という報告があるから。残念ながら、現時点では全サーバーが対応しているわけではないようです。まあ、まだベータ版ですからね。

 また、Threadsのユーザーを他サーバーからフォローするには、ただ単に[フォロー]ボタンを押せば良いというわけではありません。「Threadsのフェディバースでのユーザーネーム」を自分のアカウントがあるサーバーで検索して見つけ出す必要があります。

 ちなみに、HON.jp News BlogのThreadsアカウントは @honjpnewsblog@threads.net がフェディバースでのユーザーネームです。@ユーザーネーム@ドメイン名と、@が2つ必要。Threadsのプロフィール画面でユーザーネームの右にある threads.net をクリックすると、次の図のような画面が表示されます。

Threadsのプロフィール画面でユーザーネームの右にある threads.net をクリック

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雑記

 真冬に戻ったかのような寒い日が続きました。それでソメイヨシノの開花が遅れているのかと思いきや、気象庁によると今年はおおむね平年並みなのだそうです。1991年から2020年の平年値で、東京は3月25日。最近だと早かったのが2020年の3月14日、遅かったのが2012年の3月31日。2週間くらい幅があるのですね(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 827 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。
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