「JEPA、学校デジタル図書館提言特設サイト開設」「映画の脚本やキャッチコピー評価をAIが」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #488(2021年9月5日~11日)

角川武蔵野ミュージアム

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 2021年9月5日~11日は「JEPA、学校デジタル図書館提言特設サイト開設」「映画の脚本やキャッチコピー評価をAIが」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。

【目次】

政治

Appleにアプリ課金ルール見直し命令 米地裁〈日本経済新聞(2021年9月11日)〉

 #487で日本の公取委がアップルから「アプリ外購入へのリンクを許可」する譲歩を引き出したというニュースをピックアップしましたが、実はその合意では、ゲームだけが対象外とされていました。それが、アメリカの Epic Games との裁判ではゲームも見直しを命じる判決に。アップルの独占的地位は認めないものの、他の決済手段への誘導が禁止されているのは反競争的だという「痛み分け」な判断です。

 アップルのアプリストアは年間200億ドルの収益があり、しかも粗利率は8割近いという「金のなる木」なビジネスモデル。ゲームは売上の7割を占めているそうで、それが揺らぐとなるとプラットフォームそのものの維持が危うくなる可能性もあるように思います。一審判決なのでまだ確定ではありませんが、今後の動向から目が離せません。

社会

米国公共図書館協会(PLA)、“2020 Public Library Technology Survey”の調査結果を公開〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年9月6日)〉

 アメリカ公共図書館の技術調査報告書。「公共図書館がデジタルデバイドを埋め、生涯学習を強化し、経済回復を促進するための重要なインフラストラクチャとしてどのように機能するかを詳しく説明」しているとのことです。デジタルコレクション(電子書籍・オーディオブック)の提供館が93%以上とか、デジタルリテラシーに関するプログラムの実施館が88%以上といったデータが公表されています。さて、では日本の図書館は?

日本電子出版協会(JEPA)、「学校デジタル図書館」を推進するキャンペーンを開始:特設ウェブサイトをオープン〈カレントアウェアネス・ポータル(2021年9月8日)〉

 国の主導・費用負担によって、どの小中学校でも利用可能で全国均一なインフラサービス「学校デジタル図書館」を構築しよう、という提言を推進する特設サイトがオープン。学校の図書数は生徒の人数に比例する形で標準値が定められているうえ、約半数がその基準にも満たない図書数になってしまっているという問題を、デジタル図書館によって解決しよう、というものです。

 故・長尾真さんが国立国会図書館長のときに発表した私案の電子図書館構想(通称「長尾構想」)を、学校限定で展開するようなイメージでしょうか。実際のところ、すでに民間で「School e-Library」のようなサービスが展開されているわけで、国がいまからそれをやったら民業圧迫と言われかねないのでは? という危惧も。理念には賛同しますが。

 著作権法の改正によって、来年から国立国会図書館デジタルコレクションの「国立国会図書館/図書館送信限定」が各家庭への配信へと拡大(要ログイン)することが決まっています。その延長上で、うまいことできたらいいと思うんですけどね。国がやるなら、わざわざ別のインフラを用意する必要はないし、むしろシームレスに利用できたほうがユーザーのメリットは大きいように思えます。

 また、故・瀬尾太一さんが構想していた、授業目的公衆送信補償金制度を補う「SARTRASライセンス」(↓)との組み合わせで、権利者にも充分なメリットがある仕組みが構築できれば……なんてことを妄想しました。

経済

石戸諭が語るメディアの問題点、そして“良いニュース”とは?「ニュースは動詞に宿る。意見ではない」〈日刊サイゾー(2021年9月5日)〉

 バズフィード時代の同僚・徳重龍徳さんによる、石戸諭さんへのインタビュー。メディアを運営する側として、とくに「長期的にオピニオン路線を続けるためには、無限に正しくないといけない」という言葉がグサッっときました。偉そうなこと言っておいて、自分ができてないじゃんか、みたいな。まあ、常に正しくないといけない、というより、なるべく正しくあろうとする姿勢が大切なのではないか、とも思うのですが。

「図書館に電子書籍のライセンスを供与するビジネス」の問題点とは?〈GIGAZINE(2021年9月6日)〉

 公共図書館の9割以上が電子書籍の貸出サービスを行っているアメリカでの話。要するにライセンス料が紙より高くつくことが問題視されている、と。普及率の低い日本でもいずれ、こういう議論が勃発することでしょう。公益性や利便性を考えたとき、それは本当に高いのか? という話でもあるように思うのですけどね。

「デブは恋愛対象外」見た目のコンプレックスを煽る「マンガ広告」の深刻な問題点(A4studio)〈マネー現代(2021年9月7日)〉

 薬機法や景表法違反ではないけど、不快な表現や文言で煽るようなマンガ広告をどう扱うか? という話。排除を決めたpopIn株式会社の取締役・西舘亜希子さんへのインタビューです。ルッキズム(外見に基づく差別)への問題意識は分かるのですが、そういう広告を是とするか非とするかは、読者と直接相対する立場であるメディアのスタンス次第とも思うのです。ゲスな記事を配信しているメディアが、ゲスな広告を排除したいとは思わないでしょうし。

 問題は、ゲスな広告をなるべく排除したいと思っているメディアでも、排除するための手段が無かったり、あまりに貧弱なため膨大な負荷がかかってしまう点ではないか、と。次のピックアップへ続く。

健全な広告主やサイトほど損をする…「医師がおすすめ」という違法広告がネット記事に貼りつく根本原因 「レコメンドウィジェット」の功罪〈PRESIDENT Online(2021年9月8日)〉

 一つ前のピックアップは「違法ではないけど不快な広告」をどう扱うか? という少しレベルの高い問題でした。実際には、この記事で挙げられているように、まだ「違法な広告が平気で流れてくる」という、低レベルな問題に悩まされてしまうのが現実です。明らかに違法な広告を排除する手間までメディア側の負担として押しつけるんじゃねぇ! と声を大にして言いたい。

 しかし、レコメンドウィジェットの広告市場って、年間349億円程度なのですね。電通「日本の広告費」によると、2020年のインターネット広告費は2.2兆円以上。1.6%しかないくせに、悪影響が大きすぎやしないか。

中国の巨大音声プラットフォーム「喜馬拉雅」、日本事業縮小で音声配信機能停止〈36Kr Japan(2021年9月8日)〉

 シマラヤジャパンの「himalaya」が、ユーザーによる音声配信機能を9月末で終了。今後はオーディオブック事業のほうに集中するそうです。オトバンクとの提携は維持されるかな? お知らせ(↓)には「中国・喜马拉雅(シマラヤ)本社のグローバル戦略上の事由」とありますが、アメリカで予定していた新規株式公開が取り止めになったことが影響しているようです。

「4000冊の蔵書が一瞬で吹っ飛ぶ」アマゾンの電子書籍が抱える根本的な落とし穴 購入しているのは「所有権」ではない〈PRESIDENT Online(プレジデントオンライン)(2021年9月9日)〉

 ちょっと首を傾げてしまったコラム。ギフト券の不正利用でアカウントが永久凍結され4000冊の蔵書を失うことになったという匿名投稿が元なのですが、その原因が「所有権」ではなく「利用権」だから、というところまではよくある話(後述しますが、そこにも多少の穴はあります)。ただ、その解決手段として「最近話題のNFT(Non-Fungible Token)を使った電子書籍販売があります」というのは、さすがに「ちょっと待った」と言いたい。それ、NFTでも解決しませんよ。

 たとえ(擬似的な)所有権があろうと、購入したNFTプラットフォームがサービス終了してしまうリスクは残っています。ブロックチェーンにコンテンツそのものが載っているわけではないので、コンテンツが保存されているサービス基盤が失われてしまえば、二度とダウンロードできないのは同じ。NFTはなんでも解決できる銀の弾丸ではないのです。

 ちなみに、Kindleでもすべての本にDRMがかかっているわけではなく、パブリッシャーの意向によりDRMフリー配信されている場合もあります。そういう本なら、ダウンロードしたファイルをPDF変換(規約違反)することなく、そのままバックアップしておくことが可能です。このほうが、NFTより「所有」に近いのでは。

Kindleにない機能、ほかのストアならあります! コミックに便利な6つの電書ストアを比較〈Impress Watch(2021年9月9日)〉

 Kindle以外の電子書店でKindleより優れている点を、アプリ内の機能を中心に紹介する記事。他にもまだ、任意の本がプレゼントできたり、続刊が自動購入できたり、紙版買ってたら電子版が半額になったりなど、いろいろあります。Kindleが突出して優れているわけではなく、むしろ劣っている点も多いのですよね。

技術

映画にAI脚本の新風 日本初、演出家らに刺激〈日本経済新聞(2021年9月8日)〉

 2016年にAIの書いた小説で星新一賞の一次審査を通過した「きまぐれ人工知能プロジェクト 作家ですのよ」の首謀者・公立はこだて未来大学教授の松原仁さんによる新たな試み。60〜80字くらいのログラインを入力すると、AIが自動的にストーリーを膨らませて脚本を出力するそうです。あとは日本語としておかしい点を直した程度で、AIの貢献度は約92%と「ほぼAIがつくったと言える水準」になっているとのこと。

 これ、元となるログラインは人間の書いた文章ですから、それが原作扱いになって著作権が発生するのか、原案程度の扱いで著作権は発生しないのか、法律的な判断が気になるところです。猿の自撮り写真同様、AIによる創作物には著作権が発生しない、というのが定説だと思うので。

このキャッチコピーは効果的か AIが即座に評価〈日本経済新聞(2021年9月10日)〉

 こちらは電気通信大学教授の坂本真樹さんによる研究成果。人間の感性価値をAIが数値化し、客観的に提示するシステムです。商品名やキャッチコピー・色などの評価を行う「感性AIアナリティクス」と、逆に、与えたい印象から候補を自動生成する「感性AIブレスト」の、2つが提供開始されているそうです。「明るい」とか「楽しい」といった感性を表す形容詞が100以上網羅されているとのこと。

 ところで、坂本さんの研究室のウェブサイト(↓)を見てみたら、こちらでも「日経『星新一賞』に挑戦!AIを使って小説を書いてみよう」という取り組みが行われているようです。興味深い。

イベント

【特番】これからどうなる? 電子マンガ大躍進、けれど無くならない海賊版 ―― HON.jp News Casting / ゲスト:まつもとあつし(ジャーナリスト)〈HON.jp(オンライン)/9月26日〉

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雑記

 まだ9月上旬だというのに、もうすっかり秋のような気候です。近所の公園ではもうコオロギが大合唱していますが、同時に、セミの鳴き声もまだ聞こえてきます。夏と秋が重なり合った感。とくに夜は過ごしやすくなったこともあり、最近はまっている小説を読んでいたら止まらなくなり、気付いたら窓の外が明るくなっていたことも。生活リズムがすっかり狂ってしまいました。とほほ(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
CC BY-NC-SA 4.0
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。

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著者について

About 鷹野凌 789 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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