中国共産党が重視し普及したいテーマを刊行 ―― 中国出版界の主要ジャンル「主題出版」(前編)

馬場公彦の中文圏出版事情解説

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 北京大学・馬場公彦氏による中国の出版事情レポート、今回は中国国営出版社による「主題出版」について。前後編でお届けする。

「主題出版」て何?

 中国の書店を訪れると、センスの良い内装、書籍以外の文房具や工芸品などのしゃれた商品、書棚に陳列されたきらびやかなブックデザインの書籍が目を引く。都市中間層の嗜好に合わせたモダンな文化的空間に囲まれて居心地の良さが満喫できる。そのなかで、いまもなお国営の新華書店の時代から変わらない風景がある。入口の目につきやすい場所に平積みされた、習近平、毛沢東、中国共産党、中国社会主義……といった、お堅い書籍群である。

 これら中国共産党のその時代ごとの主流イデオロギーや重要方針を反映した出版物を「主題出版物」という。「主題」とは中国語で「テーマパーク」を「主題公園」といい、党の主催する大衆パレードで国家の偉業を称揚するような出し物を「主題表演」というときの、「テーマ」である。

 たとえば書店や出版社の連合ウェブサイトである「百道網」で公表する毎月の売行き良好書ランキングでは、文学・芸術・人文科学・社会科学・財政経済・生活・児童・最新科学知識とならんで、「主題出版」というジャンルがある。直近の9月期の同類のベストセラーとしては『中国共産党はいかに貧困問題を解決するのか(中国共产党怎样解决贫困问题)』『習近平の貧困対策物語(习近平扶贫故事)』などのタイトルが挙げられている。

 今回のお題はこの「主題出版」である。となると日本の出版業界関係者は、「なんだ中国共産党の宣伝か、今さら教えてもらうまでもないよ」とうんざりされるかもしれない。そこを我慢して読んでみてほしい。「主題出版」という概念がいかに案出され、運用されているかを知ることを通して、中国の出版業界のコストとマンパワーのプライオリティがどこにあり、そのねらいを掴む一つの手がかりになるかもしれないのだから。

「主題出版」の始まりとその概要

 そもそも「主題出版」とは、メディアの言論統制を司る新聞出版総署が2003年に提唱した、出版社が取り組む最優先課題として実施された政策である。なおこの場合の出版社とは国営出版社に限られ、民営系出版社はその対象ではない。具体的には党と国家の重要な業務・会議・活動・事件・記念日などについて集中的に展開する出版活動であり、発足当初は時局的で政治色の強いものであった。

 「主題出版」の歴史に詳しい杭州電子科技大学のメディア融合・主題出版研究院院長の韓建民氏らによると、「主題出版」概念の内包と外延は時代とともに拡大し、とりわけ2017年の直近の中国共産党第19次全国代表大会以降、5000年の中華文明や、国家の重大な戦略的科学技術をも包含するようになった。そこで「主題」のカバーする範囲はますます学術横断的になり、音楽や美術など多方面のジャンルへと広がり、読んで楽しくためになる教育分野や児童書系の出版物にも及ぶようになった[1]

 「主題出版」の任務を担う出版社は、当初は人民出版社系・党史党政系出版社だけであったが、次第に大学出版社系の学術出版社、科学技術系の専門出版社、教育系出版社、児童書系出版社など、ジャンルを問わず取り組むようになった[2]。北京と上海を中心とする中央レベルの出版社だけでなく、各省に散在する地方出版社も積極的に「主題出版」事業に参画するようになった。

 たとえば革命聖地の一つである重慶の重慶出版集団では、共産主義革命や日本軍による重慶空爆を扱ったドキュメンタリー文学が「主題出版」の重点出版物として認定された。ただし2015年~2019年実績で「主題出版」に選定された図書の版元のうち、地方出版社はいずれも半数に満たない。印刷部数順のランクを見ても、上位10位のいずれもが中央レベルの出版社であり、「主題出版」に参与できる出版社の力量の差は歴然としている[3]

「主題出版」が求める主題とは?

 現在は「主題出版」の「主題」の提示と、各出版社への「主題出版」企画の申請の通達と受理、「主題出版物」のなかから「重点出版物」を選定し公表する業務は、新聞出版署の監督機関である中央宣伝部が管轄し実施している。ちなみに最新の2020年の「主題出版」として据えられた具体的なテーマは以下の6項目であった[4]

  1. 党と国家の志を見すえ、習近平時代の中国の特色ある社会主義を強化する研究と解説
  2. 全面的に小康社会を実現し、貧困脱却作戦に打ち勝つ気風を醸成する
  3. 科学精神を高揚し科学知識を普及し、健康安全と生態環境保護により市民生活の質を高める
  4. 党中央の政策決定部門に従い、楽観的な中国経済を唱道する
  5. 民族復興の大役を担う新たな人材を養成し、社会主義の核心的価値観を普及する
  6. 中国共産党成立百周年の祝賀に備えた出版物を編集する

 多くの項目はさもありなん、というものであるが、②③は説明が必要だろう。②は目下の中国の国策の最重要項目の一つである、全国民に向けて、衣食住に困らず医療や教育の社会保障が満たされたややゆとりある生活が保証された社会(「小康社会」)を実現するために、一人当たりの年間収入が4000元(約6万円)以下の貧困層・貧困地区を撲滅するという目標である。

 ③は直接的には新型肺炎の蔓延を制御し疫病を予防して健康な生活を取り戻し、生態環境保護に力を入れ持続可能な発展を保障するための科学普及を指す。たとえば中央テレビ局で日々放送される聯合ニュースでは、1時間の枠で20ほどのニュースが報道されるうち、必ず設けられる目録として「全面的小康社会の実現に勝利し、貧困脱却作戦を戦い抜こう」と「世界の新型肺炎タイムライン」がある。環境保護に関するニュースも多い。

 2020年の今年は「主題出版」告知に呼応して、各出版社から総計2233種のタイトルの応募があり、審査の結果、125種が「重点出版物」に選定された。そのうち110種が書籍で、15種がオーディオ・ビデオ・電子出版物で、そのリストが公表された[5]。書籍類に限ってその「主題」を先述した6項目別にみると、①は習近平の伝記・講話録が6種、⑥の党史・国史関連が26種と多いのは想定されるところであるが、②が30種に上り、③も20種に達している。

参考リンク

[1]https://mp.weixin.qq.com/s/ILLzCSrXXnSiSOa5ZEMcDA
[2]https://mp.weixin.qq.com/s/7BK47L6S8qy7-6oPLiBYHA
[3]http://www.doc88.com/p-1886160776143.html
[4]http://media.people.com.cn/n1/2020/0221/c14677-31597620.html
[5]http://www.nppa.gov.cn/nppa/contents/279/74399.shtml

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著者について

馬場公彦
About 馬場公彦 11 Articles
北京大学外国語学院外籍専家。出版社で35年働き、定年退職の後、第2の人生を中国で送る。出版社では雑誌と書籍の編集に携わり、最後の5年間は電子出版や翻訳出版を初めとするライツビジネスの部局を立ち上げ部長を務めた。勤務の傍ら、大学院に入り、国際関係学を修め、戦後の日中関係について研究した。北京大学では学部生・大学院生を対象に日本語や日本学の講義をしている。『人民中国』で「第2の人生は北京で」、『朝日新聞 GLOBE』で「世界の書店から」連載中。単著に『『ビルマの竪琴』をめぐる戦後史』法政大学出版局、『戦後日本人の中国像』新曜社、『現代日本人の中国像』新曜社、『世界史のなかの文化大革命』平凡社新書があり、中国では『戦後日本人的中国観』社会科学文献出版社、『播種人:平成時代編輯実録』上海交通大学出版社が出版されている。
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