
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株式会社岩波書店は、岩波新書の定番ロングセラーから青版・黄版を中心とした100タイトル107点を初めて電子化、9月26日から3カ月連続で一挙配信する「岩波新書eクラシックス100」を始動した。ほぼすべてがリフロー型で、旧字体は新字体に改められている。
今回電子化されたタイトルは、1949年から1977年に刊行された青版と、1977年から1987年に刊行された黄版を中心に選ばれている。岩波新書編集部によると、選定基準は戦後日本を代表する知識人の著作や、重版刷数の多いもの、読者から電子化リクエストが寄せられていたもの、品切れになっていたもの、復刊したら売れ行きがよかったものなどだ。
配信先は「Kindleストア」「楽天Kobo」「紀伊國屋書店ウェブストア」「BookLive!」「honto電子書籍ストア」「Apple Books」など。フィックス型での配信は『数学入門(上)』『数学入門(下)』(遠山啓)など、現状では数式の表示が厳しかったと思われるタイトルに限られている。
なお、岩波新書編集部によると、今回は電子化されなかったタイトルも、1980年代までの著作を中心に選書し「岩波新書eクラシックス」として継続的に電子化していく予定とのことだ。
電子化にあたって苦労したこと
岩波新書編集部に、電子化にあたって苦労したことについて伺ってみた。なにしろ活版や写植時代の本だ。もちろんリフロー型にするためには、すべて改めてテキストデータを起こしなおす必要がある。これは、完全に手作業で入力したものから、OCR(光学的文字認識)によるものなど、さまざまだという。
テキストデータは、ゲラとして紙で出力・校正した上で、リフローで確認し、図表の挿入位置や書誌情報、新書としての体裁が整っているかなどのチェックが行われている。このあたりの工程は、紙の場合とほぼ同じだという。ただ、旧字旧仮名表記を新字旧仮名表記に改めると決めたため、校正時とリフローのチェック時には、旧字の洗い出し工程が追加されている。ここは、数人で手分けをしたそうだ。
問題は、旧字体から新字体への置き換え判断だ。たとえば人名、事件名、地名など、現在は新字体に改められているものもあるが、そうでないものもある。どこまで置き換えが許容されるものなのか、一つ一つ手探りだったそうだ。いまでも正直、これだとはっきり定義できずにいるという。なお、置き換える必要のない文字や語句でも、ルビを追加している場合もあるそうだ。
リフロー型は、ユーザーが表示するディスプレイのサイズや、ユーザーの任意で変更可能な文字サイズなどによりレイアウトが可変するのが特徴だ。そのため、表や図版を文中のどこに入れるのかも、改めて判断する必要がある。当時の著者の意図や意向はどうだったのか、数日考えようやく位置が決まるような場合もあったという。
電子版では表現しきれない部分や、ビューアによっては意図した通りに表示されないこともある。そういった制約がある中で、どれだけ正確に内容を届けられるようにするかが、今後の課題とのことだ。紙版で読んだことがある人は、電子版でどこがどう変わっているか、どう工夫されているかなどを確認しながら読み返す、という楽しみ方もできるのではないだろうか。
参考リンク
「岩波新書eクラシックス100始動」記事(B面の岩波新書)