元編集者ベストセラー作家の虚言癖に英米出版業界が騒然

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 『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』といえば、昨年刊行され、アメリカやイギリスでベストセラーとなった心理スリラーだが、著者が売れっ子作家として人前に出るようになり、その言動に数々の嘘があることがわかったと、ニューヨーカー誌が伝えている。

 A・J・フィンという性別不明のペンネームを使って発表したデビュー作がいきなりニューヨーク・タイムズのベストセラーチャート第1位登場という快挙を成し遂げたが、編集者時代の著者ダン・マロリーを知る出版人は、その数々の虚言にとまどっているようだ。

 その嘘とは、かつてオックスフォード大学で教鞭をとっていた、不治の脳腫瘍を患っている、といったものから、「ハリー・ポッター」シリーズの著者J・K・ローリングがペンネームで書いたスリラー『The Cuckoo’s Calling』を読んで出そうと言ったのは自分だった、などいうもの。(39歳で、ゲイであること、双極性障害を患っていることなどは自他に認める真実だ。)

 その一方で、一時期は大手出版社ハーパー・コリンズの文芸インプリント、ウィリアム・モローのエグゼクティブ・エディターという地位にあったマロリーは、弟ジェイクの名を騙り、脳腫瘍治療の詳細を同僚らに書き送ってきては、無断欠勤を繰り返してきた。

 心理サスペンスといえば、ジリアン・フリンの『ゴーン・ガール』(2012年)、ポーラ・ホーキンズの『ガール・オン・ザ・トレイン』(2015年)など、ミリオンセラーになった作品が多いジャンルで、『ウーマン・イン・ザ・ウィンドウ』もエイミー・アダムスとゲイリー・オールドマン主演で映画化が進行中だ。

 これらの本に共通するのは「信頼できない語り手」「殺人事件」「犯人はサイコパス」という点だが、果たして著者が信頼できない語り手であるのは許容範囲なのかどうか、マロリーといっしょに仕事をしたことのある出版人は一様に戸惑っている。

参考リンク

ニューヨーカー誌の記事
https://www.newyorker.com/magazine/2019/02/11/a-suspense-novelists-trail-of-deceptions
次作の刊行に関するガーディアン紙の記事
https://www.theguardian.com/books/2019/feb/07/second-aj-finn-novel-on-way-despite-dan-mallory-scandal-says-publisher

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About 大原ケイ 180 Articles
NPO法人HON.jp 理事。日米で育ち、バイリンガルとして日本とアメリカで本に親しんできたバックグランドから、講談社のアメリカ法人やランダムハウスと講談社の提携事業に関わる。2008年に版権業務を代行するエージェントとして独立。主に日本の著作を欧米の編集者の元に持ち込む仕事をしていたところ、グーグルのブックスキャンプロジェクトやアマゾンのキンドル発売をきっかけに、アメリカの出版業界事情を日本に向けてレポートするようになった。著作に『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(2010年、アスキー新書)、それをアップデートしたEブックなどがある。
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