「Google検索でお気に入りソースを指定できる機能がグローバル展開開始」「韓国で薄い本がトレンドに」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #694(2025年12月7日~13日)

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 2025年12月7日~13日は「Google検索でお気に入りソースを指定できる機能がグローバル展開開始」「韓国で薄い本がトレンドに」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。メルマガでもほぼ同じ内容を配信していますので、最新情報をプッシュ型で入手したい場合はぜひ登録してください。無料です。クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)でライセンスしています(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

著作権侵害巡る訴訟、愛知県蒲郡市が争う方針 日経などが提訴〈日本経済新聞(2025年12月8日)〉

 うーわ、マジか。これまでの報道からすると、事実関係に争う余地はないように思えるのですが。読売、朝日、毎日、日経、中日から訴えられていて、損害賠償請求額合計が約5億2000万円ですから、減額が狙いでしょうか?

 まあ外野からすると、和解せず著作権法第42条「その必要と認められる限度」「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」の判例ができるとうれしい。ちなみに、文化庁はクリッピングサービスなど既存ビジネスを阻害するようなら権利制限は認められないという見解です。裁判所がどう判断するか。

SNSが消える日(上)豪SNS禁止、歓迎と戸惑い 賛成「悲しみを救う」心の健康守る/反対「世界から隔絶」社会的孤立も〈日本経済新聞(2025年12月8日)〉

 オーストラリアで16歳未満のSNS利用が禁止に。とはいえ、指定された10サービスだけが対象なのですね。知らなかった。そんなの、指定されてない代替サービスに乗り替えるに決まってますよね。当然予想できたはずのいたちごっこですが、どう対処するんだろう? 指定サービスを単純に増やしていく?

社会

「AIが引用した参考文献」の約3分の2が存在しない文献だったり間違っていたりしたとの調査結果〈GIGAZINE(2025年12月7日)〉

 わはは。まあ、これは調査対象がGPT-4oですから、最新モデルならもう少し違う結果になるかもしれません。思い起こすと、GPT-3.5のころ学生から提出された喫茶店紹介の原稿(ChatGPTで安易に出力したことがのちに判明)が、10件中10件、つまりすべて捏造で実在しない喫茶店だったことを思うと、着実に進化はしています。3分の1は正しいのですから!

(取材考記)同僚と出店 文学フリマ、発信の新たな場 高津祐典〈朝日新聞(2025年12月8日)〉

 40ページの冊子が1部1000円で80部、2時間で完売したそうです。おっしゃるとおり、普段の活動の賜物でしょう。我が身を省みると、売れ行きがあまり思わしくなかったのは普段の活動がまだまだ足らないから、なんだろうなあ……トホホ。

社説:AI検索と著作権侵害 報道軽んじる「ただ乗り」〈毎日新聞(2025年12月9日)〉

国内では、2018年の著作権法改正でAI学習のためのデータ利用は保護の例外とされたが、AI検索のような使われ方は想定されていなかった。技術の進展に応じた制度の見直しが必要だ。

 いやいや、新聞社はそうやってすぐ「想定されていなかった」と主張しますが、なんのために第47条の5(軽微利用)があるのか。これはもともと、2018年改正前の旧第47条の6(送信可能化された情報の送信元識別符号の検索等のための複製等)、つまり、インターネットなどで検索結果を表示する際の権利制限です。これが当時から見て今後、デジタル化・ネットワーク化のさらなる進展が想定されていたから、柔軟な権利制限規定を用意したという経緯を忘れないで欲しい。

 たとえば「ここまで過度な利用は、第47条の5に定める軽微利用とは言えないのでは」といった主張ならまだ理解できます。むしろそこを争点にしなきゃダメだと思うのですよね。AI検索って、Googleなどがやってきたロボット検索の延長上にあるんですから。ちなみに第30条の4のほうはAI開発・学習段階における権利制限規定なので、生成・利用(出力)段階においては第47条の5が適用されるか否かで判断すべきだと思います。

 もっと言うと、第47条の5には「当該行為の準備のための情報の収集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う者に限る」という規定があります。著作権法施行令では「事前に学識経験者に対する相談等の必要な取組を行うこと」とされている点や「ID・パスワードにより受信が制限された情報や、業界慣行に沿って情報収集禁止措置がとられた情報を使用しないこと」なども定められているわけですから、そういう方向から攻めたほうが得策なのでは。

Amazon Brings Back Direct Downloads For DRM-Free Books(アマゾン、DRMフリー書籍の直接ダウンロードを復活)〈FindArticles(2025年12月11日)〉

電子書籍の新しいダウンロード オプションの導入について (2026 年開始)〈KDP Community(2025年12月10日)〉

 KindleストアにDRMフリーで配信されている電子書籍が2026年から、EPUBまたはPDFでダウンロード可能になるとのことです。対象はKDPに限らないはずですが、商業出版でDRMフリーは極めてレアだと思うので、恐らく大半はKDPでしょう。少し前にUSB経由のダウンロード&転送機能が廃止されましたが、アメリカではその一部を代替する措置として受け止められているようです。

 現状、KindleストアでDRMフリーになっている本を見分ける方法は、書誌情報に「同時に利用できる端末数:無制限」があるかどうかです。DRMのある本は、これが項目ごと存在しません。EPUBで入稿された本ならともかく、Wordで入稿された日本語縦書き本がまともなEPUBに書き出されるのだろうか? という点に、正直一抹の不安があります。開始されるのをドキドキしながら待つとしましょう。

 ちなみに「既に出版されている作品については、特別な操作を行わない限りDRM設定は変更されず、既存のDRMフリー作品のEPUBおよびPDFダウンロードも有効になりません」とのことなのですよね……つまり、出版した人が改めて設定を変える必要があります。ところが、このお知らせを見て私がKDPで出版した本の設定を変えようとしたら、変更を保存できない症状が出てしまいました。管理画面上で「未出版の変更あり」という表示になってしまいました。どうなっているのか、あとで問い合わせてみます。

関係性開示:アマゾンジャパンには、HON.jpの法人会員として事業活動を賛助いただいています。しかし、本欄のコメント記述は筆者の自由意志であり、対価を伴ったものではありません。忖度もしていません。

【ソウル通信】54 薄い短編小説の単行本が韓国出版界の新しいトレンドに(白源根)〈The Bunka News デジタル(2025年12月12日)〉

 100ページ未満の薄い本を、商業流通させているそうです。とはいえ韓国には日本のトーハン・日販のような大規模取次が存在しないので、仲俣暁生氏の提唱している「軽出版」に近いかもしれません。販売価格をいくらに設定してるんだろう? と思い、Wisdom Houseの公式サイトを調べてみました。1万3000ウォン均一のようです。約1380円。

経済

OpenAI、米株市場の救世主から足かせに-アルファベットの存在感拡大〈Bloomberg(2025年12月8日)〉

 えーっと、Bloombergは11月30日に「AI覇権争い、グーグルがChatGPTに追いつかない理由」という記事を公開したばかりなんですが。まあ、前回の署名はParmy Olson氏で、こちらの署名はRyan Vlastelica氏ですから、別の人が書いたオピニオンを同じ媒体に載せてるだけではあるんですが。媒体社としては矛盾していません。意見を戦わせてる「言論のアリーナ」感があるとも言えます。でもなんかちょっと釈然としないものがあるのはなぜだろう。

【重要】プレスリリース配信サービス「PressWalker」および「PressWalkerコネクト」サービス終了のお知らせ〈PressWalker(2025年12月8日)〉

 あれまあ。おつかれさまでした。無料で利用でき、KADOKAWA系の媒体に取り上げられる可能性もあるので、HON.jpでも何度か利用させてもらいました。結局、取り上げられたことはありませんでしたが。また、メディアとしてプレスリリースを受信する側の立場でもあったんですが、ブログ代わりに使っていると思しき人や、謎のレポートを量産する正体不明の調査会社などに汚染されてたのが、正直ちょっと辛かった。受信ジャンルを絞れるようにして欲しいという要望を送ったこともあったのですが、結局そのまま終了することに。まあ、Gmailのフィルタリング機能を駆使することでなんとか対処できてましたが。

技術

Amazon はなぜChatGPTを締め出すのか? robots.txt更新でOpenAIのクローラーを追加ブロック〈DIGIDAY[日本版](2025年12月8日)〉

 巨大IT企業が新興AI企業を締め出しにかかるかも……というのはなんとなく予想していたのですが、実際にそういう動きが起きているというニュース。とくにAmazonは以前から、自社サイトに対するスクレイピングに厳しい対処をとる印象があります。こうなると、AIエージェント付きブラウザ(AIブラウザ)に未来はない気がするなあ……まあ、セキュリティ的にも重大なリスクがあるという指摘もありますし、私はまだ使ってみる気がしません。

note、グローバルなAIライセンス規格「RSL」の日本展開を担う公式パートナーに就任〈Media Innovation(2025年12月9日)〉

 「RSL Collective」は、robots.txtにライセンス条件を追記する方式のプロトコルです。団体は9月に設立されたばかり。note、動き早いなあ。robots.txtを無視するようなクローラーを使っている企業は、Perplexityのように訴えられることになるのでしょう。

グーグル、「好みのメディアの優先表示」をグローバル展開へ〈ケータイ Watch(2025年12月11日)〉

 アメリカとインドで8月に始まった「Preferred Sources」が、今後すべての言語で利用可能になるそうです。当時私は悪い予想が先行して、「信頼性が低いと判定されて優先順位を下げられたニュースサイトは、大量のフェイクアカウントを使ったフェイクお気に入り工作をするでしょう」など、あまり歓迎していない趣旨のことを書いていました。

 いまになって冷静に考えてみると、優先表示がパーソナライズされるだけなら、良いのかもと思い直しました。つまり「Preferred Sources」に登録した本人にしか影響しない仕組みなら、クリックファームみたいなブラックハットSEOをやる意味がないので、発生しないのではないか、と。

 あとは、ウェブサイト側に設置できるという登録を促すバナーリンクがどういうものなのかが気になります。当時「ポップアップ表示みたいなユーザーに負荷をかける手段をこれ以上増やすのはやめてほしい」という意見を書きました。私はアメリカのウェブサイトもちょくちょく見てますが、設置されてるのを見た記憶がないんですよね。目立たない感じなのかしら?

お知らせ

イベントについて

今年の出版ニュースを振り返ろう! 今回はリアル会場から配信します(前半だけ無料)。登壇者と直接会いたい方、全編視聴したい方は、Peatixでチケットをご購入ください。12月26日(金)19時受付開始、19時30分配信開始です!

新刊について

『ぽっとら Podcast Transcription vol.1 ~ 詐欺広告や不快広告・金融検閲・生成AIと著作権・巨大IT依存問題など、激変する出版界の広範な論点を深掘りしてみた。』を上梓しました。ポッドキャストファースト、つまり音声コンテンツの書籍化という試みです。

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日刊出版ニュースまとめ

伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
https://hon.jp/news/daily-news-summary

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雑記

 日が落ちるとぐっと冷え込むようになりました。寒い寒い。大学の教室でくしゃみを連発している学生がいたので、思わず「大丈夫?」と声がけ。マスクを渡してあげれば良かった。カバンに常備しておくことにします。インフルエンザが流行っているそうですから、みなさまもお気を付けください。(鷹野)

CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 909 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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