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ニューヨークは摩天楼の立ち並ぶマンハッタンから、東に川を渡ったクィーンズ区に広々とした「キャンパス」と呼ばれる第2本社を建て、2万5000人分の雇用を作り出すと謳い、“ビッグアップル”に乗り込もうとしたアマゾン。思わぬ抗議運動に尻込みし、計画を断念した。
アマゾンといえば、流通倉庫での労働の過酷さがたびたびニュースになっているが、それでも数千人規模の雇用となれば、今まではどこの州でも歓迎されてきた。IT都市を目指すと公言しているニューヨークだって同じだろうと踏んだのがそもそもの間違いだった。では、アマゾンのニューヨーク進出計画のどこに誤算があったというのか。元ニューヨーカーとしてこの街の難しさを列挙する。
労働組合が強い
これはIT業界に限らずすべての産業に言えるが、ニューヨークは今も根強い「ユニオン」の街である。ファッション、金融、ブロードウェイ、出版などの中心地であるゆえに、世界中から人が集まってくるが、実際に卒業した留学生や外国人がこの地で職を得ることは難しく、最小限でもグリーンカード(永住権)を持っていないと雇わない、という職種が多い。
日本のように、社内で組織する労働組合とはまったく異なり、ジャーナリストから舞台俳優まで、どんな職業でもフリーランスで働く人たちはユニオンやアソシエーションに属し、最低のギャラの相場を守らせたり、雇用側の契約違反があった場合の駆け込み寺として機能している。いくらアマゾンといえど、これまでのように労組が御法度の雇用システムは続けられなかっただろう。
市長と州知事が(普段は)犬猿の仲
アマゾンのHQ2発表の時こそ席を連ね、ともにアマゾンへの賞賛を口にしていたが、ビル・デブラシオ市長とアンドリュー・クオモ州知事は普段、同じ場所にいても視線も合わせないほど仲がよろしくない。これはマンハッタンのシティーホール(市政)とアップステートの州都オールバニー(州政府)の関係と同じなのだが、大都市のリベラルな政治と、カナダと地続きの広大で保守な田舎の政治が対立しているからである。
例えばアマゾンのHQ2では、直接恩恵を受けるのは地元のNY市だが、州税免除など、30億ドル近い優遇措置の金を払わせられるのは州政府だからだ。だが今回は利害が一致したということで、いきなり仲良さげに記者会見をしたが、ニューヨーカーの目まではごまかせなかったことだろう。
ややこしい委員会手続きを迂回しようとして裏目に
今回さらに特殊な事情として、アマゾンの計画を一蹴できる力を持つマイナーな州政府委員会を率いていたNY州上院議員、アンドレア・スチュワート-カズンズが、昨年11月の選挙で民主党が多数派になったことによって、上院議長になったこともある。
それまでどこに行っても特例の大歓迎を受けてきたアマゾンが、この委員会での調査や手続きに業を煮やして、一足飛びに承認しろと迫ったところ断られ、下手をすると承認がこじれたり、何年も遅れたりする可能性が出てきた
反対派のデモでマイナスイメージが広がる
大都市ニューヨークで地元住民のデモがあるといえば全国ニュースとなりがちで、どうしてもネガティブなイメージがつきまとう。メディアにはアマゾンの段ボール箱のスマイルマークを逆さにしてしかめっ面にしたプラカードを持ったデモ隊の写真で溢れた。
さらに、昨年11月の中間選挙で初当選、一年生議員として全国的に注目されている、アレクサンドリア・オカシオ=コルテズが、地元クィーンズの代表として、お得意のテレビ出演やSNSを駆使して、アマゾンの移転に反対しており、存在感を際立たせていた。
ロングアイランドシティーという地元の土地柄
川を挟んでマンハッタンの対岸に位置するロングアイランドシティーは最近でこそ、少しずつおしゃれな街になりつつあるものの、長らく工業施設やスラムのような公共団地が並ぶような地域だった。
そこに西海岸と同じような感覚で広々としたITキャンパスを建てたら、いかに地元にもお金が落ちますよとパワポでプレゼンしても説得力はない。地元商店街や小さなレストランにどのぐらいの経済効果があるのか、直接会って説得するぐらいの努力が求められるが、アマゾンはそれを怠った。
こういう土地柄だからこそ、フランク・シナトラも「ニューヨークで成功すれば、どこでだってやっていける」と歌ったわけで、アマゾンに限らず、そこを無視していきなりステーキ屋をオープンしてもダメだということはおわかりいただけるだろう。