米アップルの電子雑誌定額読み放題サービスに出版社側から不満の声

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 米アップルが準備を進めている電子雑誌購読サービスでは、提携する雑誌側に売り上げの50%が渡される仕組みだが、メディア側からこれではあまりにも少なくて不公平だという声が上がっている、と広告業界誌 AdAge やウォール・ストリート・ジャーナルなど複数のメディアがその詳細を伝えている。

 この春にもスタートする予定のサービスは、毎月10ドル払えば参加している媒体の雑誌がいくらでも読めるというもの。だが、どの雑誌媒体がどのぐらい読まれたと判断してその50%の売り上げを分割するのかといった情報も公開されていない。アップルには既に「Apple News」があるが、アクセスする人は毎月9000万人と多いものの、儲かっているサービスではないし、どうやって住み分けをするのかも定かではない。

 アップルは昨年、コンデナスト、ハースト、メレディスといった大手雑誌出版社が共同で立ち上げた「Texture」というアプリを買収した。Texture では数百誌のコンテンツに制限なしでアクセスできたが、レイアウトは紙の雑誌をなぞったものだったが、成功したとは言えず、それぞれの出版社でリストラが続いていた。その Texture のUIをアップルがデザインし直して提供する形となった。

 それでも雑誌社が従わざるを得ない背景には、デジタル・マガジンでの大量解雇という厳しい現実がある。先月だけでもバズフィード、ヴァイス、ハフィントン・ポストのオーナーであるヴェライゾン・メディアなどで2000人が職を失った。

 フェイスブック、グーグル、アップルといった企業のポータルが情報の主なコンタクトポイントとなった昨今、既存の雑誌業界は読者と広告主を人質に取られたようなものだ。だが、アップルは顧客のデータ収集やデジタル広告に慎重な上、コンテンツに関しても編集監督をキープしている。

 アップルは最初の1年で200万ドルの売り上げを見込んでいるが、それは旧 Texture の10倍にも値する。あまりにも楽観的だし、その売り上げがどうコンテンツ提供側に還元されるのかわからず、コミットしかねている出版社が多いようだ。

参考リンク

AdAgeの記事
https://adage.com/article/digital/greedy-apple-half-publishing-subscription-sales/316619/
ウォールストリート・ジャーナルの記事

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著者について

About 大原ケイ 289 Articles
NPO法人HON.jpファウンダー。日米で育ち、バイリンガルとして日本とアメリカで本に親しんできたバックグランドから、講談社のアメリカ法人やランダムハウスと講談社の提携事業に関わる。2008年に版権業務を代行するエージェントとして独立。主に日本の著作を欧米の編集者の元に持ち込む仕事をしていたところ、グーグルのブックスキャンプロジェクトやアマゾンのキンドル発売をきっかけに、アメリカの出版業界事情を日本に向けてレポートするようになった。著作に『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(2010年、アスキー新書)、それをアップデートしたEブックなどがある。
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