ヴェルヌ『十五少年漂流記』―― 松岡正剛の電読ナビ

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7月25日号

  さあ、夏休み! お盆休みしかない大人となっても、あの永遠のように続くと思った子ども時代の興奮は忘れられませんね。そこで今日はこの一夜をご紹介します。ロビンソン・クルーソーにも影響されてヴェルヌが描きだした冒険物語。少年たちのけなげなで一途なチームワークを描いて、胸迫る読書体験を与えてくれます。原題は『二年間の休暇』、現在はこのタイトルを使う場合も多いようです。

『千夜千冊』第389夜2001年10月1日

ジュール・ヴェルヌ『十五少年漂流記』(石川湧 訳/角川文庫)

 今夜はぼくの胸が淡い絞り染めにあっている。何かが胸の奥でブーンと鳴っている。

 十五少年漂流記。中学時代に読んだのか、小学生のときに読んだのかは思い出せないのだが、さきほどページを繰っているうちに、どこかの少年少女名作全集のたぐいの一冊、おそらくは偕成社か創元社だとおもうが、その一冊を、高倉押小路の暗い二階の勉強机にかじりついて読んでいた感触がブーンと蘇ってきた。

 それとともにヴェルヌの『八十日間世界一周』の造本の感触が突然に思い出されてきた。あれはリーダース・ダイジェスト社の分厚い角背の黄色い本だった。そのシリーズにはヘイエルダールの『コンチキ号漂流記』も入っていた。ハックルベリー・フィンの冒険、ポーの黄金虫、シェンキヴィッチのクォ・ヴァディス、それから三銃士にロゼッタ・ストーン物語だったか。

 読んだ順番まではわからない。あのへんの読書体験はすべてが夕方の雲のように、ひとつながりになっている。

 足利の正子さんがもってきてくれた一冊が、H・G・ウェルズの少年版『月世界旅行』だったのだ。大きな挿絵がついていた。ケイヴァリットさんの重力脱出ロケットに憧れた。

 正子さんはぼくの父方の従姉妹だが、いつもセーラー服かそれに似た洋服を着ていた。でも、なぜだかいつもスカートを気にして坐る。とても声のいい人で、ぼくはそのスカートと声の組み合わせにぞっこんだった。二年に一度か三年に一度くらいしか京都には来てくれなかったけれど、その日は朝からうれしくて大変だった。いやいや、それは別の夏の日のことだった。

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ジュール・ヴェルヌ『月世界へ行く』
 やはりヴェルヌのSFを紹介せずにはいられません。イマジネーションこそ力。
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 「漂流」に惹かれる方は、ぜひこの本を。古代から近代までの「流された人々」の記録です。
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