ダシール・ハメット『マルタの鷹』―― 松岡正剛の電読ナビ

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5月27日号

 今日5月27日は、ちょうど111年前に作家ダシール・ハメットが生まれたメモリアル・デイです。サンフランシスコのピンカートン探偵局の一員だったその人は、ハードボイルドというあまりにかっこいいスタイルを作り上げたのでした。乾いた、短い台詞を吐く、女に弱いアメリカンヒーロー、サム・スペードこそ、アメリカとは何かを考えさせる大切な存在なのです。

『千夜千冊』第363夜 2001年8月23日

ダシール・ハメット『マルタの鷹』(村上啓夫訳/創元推理文庫)

 ハンフリー・ボガードがサム・スペードで、サム・スペードはハンフリー・ボガードなのである。日本人の誰もがそう思わざるをえなかった。

 ジョン・ヒューストンが1941年につくった傑作白黒映画『マルタの鷹』でサム・スペードに扮したボガードはそれほど板についていた。仮にボガードがブラッド・ピットや当代団十郎のような、どうしょうもないヘボ役者だったとしても、サム・スペードはボガードしかいなかった。この映画は1951年に日本で封切りされ、その後も何度も上映されてきたが、これを見る前に、このハードボイルドの名作は日本語にはなっていなかったからだ。

 ともかくこれでハードボイルド・ヒーローがわれわれの掌中にも入った。これを逃す手はない。

 サム・スペードに縋ったのはわれわれだけではなかった。アメリカも縋った。正確にはサム・スペードとその相棒のチビで太ったコンチネンタル・オプの”一対”に縋った。

 ダシール・ハメットが死んだ1961年ごろをきっかけに、アメリカの映画とテレビは、一人はスマートな男、もう一人はとろい中年男というコンビをたてつづけに量産をする。とろい男はともかくとして、スマートな男には典型的なアメリカがいやっというほどにこめられた。それは、価値観が乱れた社会や組織や町で、自分の誇りだけに賭けた掟にしたがって決然と生きる男というものだ。

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ダシール・ハメット『血の収穫』
 アメリカン・ハードボイルドが生まれた瞬間は、この一冊にあります。
小鷹信光『アメリカン・ヒーロー伝説』
 『マルタの鷹』も訳している著者が伝える、アメリカン・パルプフィクション社会。
清水俊二『映画字幕(スーパー)の作り方教えます』
 もう一人の大御所チャンドラーの名訳者は、映画字幕でうならせる名手でした。

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