《この記事は約 7 分で読めます(1分で600字計算)》
年末年始の2週間は「紙の出版市場ピークの半分に」「青空文庫で新規のPD作品公開」「出版とFinTech」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2017年12月25日~2018年1月7日分です。
「出版界のAmazon」目指す 著者と読者つなぐ出版プラットフォーム「Publica」〈ITmedia NEWS(2017年12月25日)〉
ブロックチェーン技術で読者が著者を直接支援できる、という謳い文句。ブロックチェーンとは、分散型台帳技術または分散型ネットワークのこと。発行から現在までのすべての取引を、だれでも使えるP2P方式の台帳で記録している仕組みです。「Publica」はすでにICO(Initial Coin Offering)を実施して仮想通貨取引所である香港「KuCoin」に上場し、PBLトークンを発行して1億米ドルを調達しています。仮想通貨によるクラウドファンディングで、資金調達ができる出版プラットフォームを立ち上げです。READトークンは「転売可能」という点がユニーク。ただ、正直、株式市場のように投資家が保護されない仮想通貨ビジネスには、どうしても疑いの目を向けてしまいたくなります。「2018年はICO詐欺が社会問題に」という予測もあります。まあ、「Publica」がうまくいくかどうかは別として、これから日本の出版にもFinTechの活用事例が出てくるだろうな、と感じさせられるようなニュースではあります。
出版物の市場規模、ピークから半減 漫画本が激減〈日本経済新聞(2017年12月25日)〉
出版科学研究所より2017年の実績見込みが発表。コミックス(紙)が前年比約12%減と急ブレーキとのこと。前年実績から逆算すると1713億円。『出版月報』2017年12月号に「電子コミックは20%増見込み」とあるので、前年実績から逆算すると1752億円。予想通り逆転です。紙+電子のコミックス市場は2016年3407億円、2017年3465億円となるので、1.7%増。ただし、おそらくコミック誌の売上も激減しているので、コミック市場全体(広告除く)ではやや減くらいに着地するのではないかと思われます。
さて、これがカニバリズムに依るものなのかどうかは、慎重に見極める必要があるように思います。というのは、電子コミック売上の8割くらいが既刊だという話を複数の電子書店から聞いているからです。これぞまさしくロングテール。中小書店の在庫は新刊が中心なので、既刊中心の電子出版市場拡大の影響は小さそう。既刊までラインアップしている大型店もしくはコミックス専門店には、影響が出ているかも? あと、海賊版の影響も無視できません。「旧刊の売上は促進、新刊には悪影響」という研究結果からすると、新刊中心の書店には多大な悪影響を与えてそう。
「ローカルにこそ編集が足りない」藤本智士が語る編集者の可能性〈ジモコロ(2017年12月26日)〉
珍しく「ローカルメディア」の話題。藤本氏の「東京は三流でも飯が食える」とか「東京ってすごいなって思うのが、全然面白くないトークイベントがたくさんあるやん」という発言が面白い。裏を返すと、東京以外ではまだ「編集」という仕事がビジネスになりづらい、という現実もあるのでしょう。これを解決するのがテクノロジー(デジタル・ネットワーク)の役割だと思うのです。そういう意味でこの「ジモコロ」というメディアに可能性は感じます。エリア型求人サイトの「イーアイデム」による運営。
ライターに発注する編集者、半数は「法律を知る機会がない」…手探りで進める実態 〈弁護士ドットコム(2017年12月26日〉
実際、出版社の中の人から「著作権法を勉強する機会がなかった」と打ち明けられることがあります。ほんとうは自分から勉強しようと思わなきゃいけないんでしょうけどね。
「森のくまさん」騒動からJASRAC問題まで……著作権10大ニュースで考える、情報社会の明日はどっちだ?〈ITmedia NEWS(2017年12月26日)〉
弁護士・福井健策先生による、2017年の著作権ニュース振り返り。“10.著作権「死後70年」へ”が……。
出版、ネットで資金調達 幻冬舎など新会社設立〈日本経済新聞(2017年12月27日)〉
幻冬舎とCAMPFIREの協同出資で、出版専門のクラウドファンディング企業を設立。その名も「エクソダス」。イスラエル人の出エジプト記から転じて“外出”や“出国”という意味の単語ですが、記事中には“脱出”とあります。出版専門のクラウドファンディングはすでに「グリーンファンディング」がありますが、他の記事によると仮想通貨でトークン発行する形のビジネスモデルを検討している、という点が新しい。日本における出版のFinTech活用事例となるか? もし今後、ICOというキーワードが出てきたら、なるがみ氏が中間搾取を疑うオタク向けICOとして「クラウドファンディングを謳っている」のを挙げているのに留意する必要があるでしょう。しっかりとしたホワイトパーパーが公開されるか、その仮想コインじゃないとできないことがあるかがチェックポイント。
昭和という時代のアーカイヴを目指して〈青空文庫そらもよう(2018年1月1日〉
Happy Public Domain Day!
過去最大の作家数、28名の文章がだれでも自由に利用できる共有財産として新たに公開されています。
出版状況クロニクル116(2017年12月1日~12月31日)〈出版・読書メモランダム(2018年1月1日)〉
毎月楽しみな、小田光雄氏の出版状況クロニクル。“その「町の本屋」の消滅もまた、コミックの失墜とパラレルなのである”とありますが、経済産業省の商業動態統計によると書店数のピークは1988年。コミック誌のピークは1995年で3357億円。コミックスのピークは2005年で2602億円。つまり「パラレル」になっていない17年間があるわけです。また、総売り場面積はゼロ年代の半ばくらいまで広がり続けています。こういうズレを無視してしまうと、原因と結果を見誤るのではないでしょうか。
ヒーロー文庫:年間87冊作るラノベ編集者 驚異の仕事量はなぜ実現?〈MANTANWEB(2018年1月2日)〉
ほぼ週刊ペースという驚異の仕事ぶり。「大した労働時間ではない」と言いながら、毎朝5時起床、0時就寝。私も20代のころはそんな感じだったなあ……体壊さないようにして欲しい。ただ、「無駄な会議には出ないし、電話や打ち合わせは時間泥棒になるケースが多いので、メールで済むことはメールで済ませます」というのは、みんな見習うべき。
ローカルジャーナリズムの死と「民主主義の衰退」──ある地方紙の運命に見たメディアの未来図〈WIRED.jp(2018年1月2日)〉
アメリカで崩壊しつつある地方紙という存在と、未来の可能性について。超長い記事ですが、読み応え有。ピューリッツァー賞を受賞し、読まれているのも間違いなく、ニーズはあるのにマネタイズが難しいという辛さ。FacebookやGoogleのような巨大プラットフォームが、価値ある情報の一次生産者にちゃんと還元する仕組みをちゃんと用意すべきなのでは、という思いを強くさせられます。
なぜ紙の本が復活? 「美しい本」と独立系書店の取り組みとは〈NewSphere(2018年1月3日)〉
イギリスとアメリカの話。「電子書籍市場が縮小している」ように“見える”のはビッグ5が独占禁止法違反の制裁期間を終えて価格を吊り上げたからなのと、セルフパブリッシング市場の拡大が無視されている(アマゾンが公表しない)から、という点に言及されていないのがアレですが、独立系書店が元気であるのは間違いないようです。昨年8月に文化通信社・星野渉氏による「アメリカで独立系書店が元気な理由」というフォーラムでも紹介されましたので、実況投稿を貼っておきます。アメリカの独立系書店は「コツコツ集めた2万4000人のメールアドレスで地域住民にアプローチ」なんてことやってるそうですよ。日本だと「カリスマ書店員は客の顔と買った本を覚えている」みたいな、属人的な方法に行っちゃうんだよなあ。
2018年,電子出版ビジネスはいよいよ普及のフェーズへ~高まる運用保守の意識:新春特別企画〈技術評論社(2018年1月5日)〉
毎年恒例、技術評論社クロスメディア事業室室長の馮氏による、電子出版市場の考察と今後のビジネス展望について。私が完全にスルーを決め込んでいる「スマートスピーカーと電子書籍」の可能性について言及されています。読み上げとか、オーディオブックとの相性はよさそうですよね。
電子書籍:米で販売減 紙に回帰、値上げやデジタル疲れ〈毎日新聞(2018年1月7日)〉
アメリカの話。こちらは、ビッグ5が独占禁止法違反の制裁期間を終えて価格を吊り上げた件に、ちゃんと触れています。『出版月報』2017年11月号の特集で解説されたこともあり、やっと認知されるようになってきた感が。しかし、市場規模についてはAAPの統計しか見ておらず、セルフパブリッシング市場の拡大が無視されている点が難。アマゾンが公開しないのが原因といえばそうなのですが。