2019年中国出版市場の動向報告(前編)――新刊点数減、ベストセラー志向、既刊書優勢が顕著に

馬場公彦の中文圏出版事情解説

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Photo by Robert Scoble(from Flickr / CC BY
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 中国の出版市場は2019年、どのような傾向だったのだろうか? おなじみ馬場公彦氏によるレポート、今回は前後編でお届けする。

コロナ禍でリアル書店大打撃

 中国圏出版事情解説子の任務として、年次の中国出版業界の市場動向について、毎年定期的に報告していきたい。今回は昨年2019年の実績と動向について。

 出版業界が蒙ったコロナ禍による市場の打撃については、2020年第1四半期の指標に反映されており、今回の報告には含まれない。おおまかな傾向については、すでに前回5月11日に本サイト「中国出版業界・書店業界はコロナ禍にどう立ち向かったか」において速報しておいた。この場を借りて第1四半期の確定値を掲げて補足しておきたい。

 全国5500店舗のリアル書店と3400店舗のネット書店の売上データを集計した書籍の名目売上総額(用語説明は後述)は29.6億元(448億円)で、前年同期比で-28.57%であり、販売部数ベースだと-36.63%であった。

 そのうちネット書店は24.5億元(371億円)で-19.53%、リアル書店は5.1億元(77億円)で-53.71%であった。ネットとリアルの売上総額の比率は82.87%対17.13%で、昨年同期の73.57%対26.43%から、いっそうリアル書店の業績萎縮が進行している。

 リアル書店の前年同期比半分以下という激減は、ロックダウンの措置に伴い閉店を余儀なくされたことによる。ネット書店が期待に反して売上が落ち込んだのは、主に物流の滞留によるものであった。

 ネット書店についてもう少し深堀りすると、下げ幅は-20~-50%のところに集中していた。いっぽう、ネットライブによる直販やコミュニティ単位での集団購入の営業活動など、積極果敢な戦術に打って出た店舗では大幅な業績の好転を遂げた[1]

 別の開巻(オープンブック)のデータによれば、リアル書店の下げ幅は-54.79%とほぼ同様であったが、ネット書店の方は+3.02%と増加した。これは集計対象となったネット書店の内訳の違いによるものと思われる[2]

中国出版界の動向を知る基本資料

 2019年の出版動向について、今回依拠する基本資料は以下の3種である。

❶北京開巻情報技術社による「2019中国図書小売市場報告」[3]

 開巻情報技術社は出版業界のコンサルティング・調査・研究を専門としており、2013-2019年の中期動向分析を行っているう。開巻のデータと統計は業界でも定評があり、主な指標はこれに依拠する。

❷中国産業情報ネットによる「2019年中国図書小売市場規模と書籍販売情況分析」[4]

 北京智研科信コンサルティング会社が運営する、各産業部門の情報コンサルティングのウェブサイト。これも2013-2019年の中期動向分析となっているほか、2016-2019年のベストセラーランキングを掲げている。データソースは❶と同じ。

❸京東図書と艾瑞諮詢(アイリサーチ)社の共同でまとめた「2019中国図書市場報告」[5]

 ネット通販最大手の「京東」の図書販売部門のビッグデータを、コンサルティング会社のアイリサーチが独自の手法で分析したもの。対象はネット書店に特化しているが、さまざまなアングルから読書傾向をデータ化・図式化しており、読者像を具象的に把握するうえで有効である。

 以後、個別項目におけるデータの出典表示については煩雑を避け、❶❷❸で示す。

 なお、中国の出版市場においていうところの「図書」は日本の「書籍」と同義であり、雑誌や新聞や公刊されていない報告書の類は含まれない。公刊された図書とは、統一書号(ISBNに相当)が付された書籍を指す。

 実績の指標は主要なネット通販サイトとリアル書店から成る小売り部門での実績を集計したものである。あくまで末端の小売部門である書店の実績値であって、図書館や団体・機関など書店を通さない公費購入などの実績は含まれていないし、あらゆる書店を網羅した数字ではない。

 中国側の書店店頭での売上額には2つの概念があり、ひとつは書籍の販売部数に定価を乗じた売上額(「碼洋」)であり、もう一つはそれに割引率を乗じた書店の実収入を示す売上額(「銷售額」)である。この点で再販価格維持制度が守られている日本とは統計の取り方が異なる。

 本稿ではとりあえず前者の数値を名目売上額、後者を実質売上額と称しておくことにする。従って公開された販売総額の単純な日中比較は難しいのが実情である。

 円/元の為替レートは、本稿執筆時点(6月14日)の1元=15.15円で換算してある。

発行部数減と売上増の長期傾向

 2019年の動向に入る前に、1999年から2006年までの書籍総印刷部数と小売販売総額を一覧にした国家統計局のグラフを見てみよう。

 このグラフを見ると、印刷部数は乱高下しているが、2004年以降、抑えられてきており、1999年の印刷部数73.2億部から2006年は64.1億部と、12.4%減少している。それに対して販売額は、1999年の216.43億元(約3279万円)から2006年は390.19億元(5911万円)と急増している。この背景には、書籍価格の上昇がある[6]。価格上昇傾向は現在も続いており、2019年の定価中間値は45元(682円)で、昨対12.5%増である(❶)。

1999-2006年中国書籍印刷総部数と書籍の小売実質売上額

書籍総売上1000億元の大台を突破

 2019年の小売部門での書籍販売総額は、1022.7億元(1兆5494億円)とついに1000億元を突破。しかも昨対14.4%の伸びである。2013年が500億元であったから、6年で倍増したことになる(❶)。

 2019年の日本の出版業界規模は1兆5432億円(公益社団法人全国出版協会・出版科学研究所の発表)であり、前述のように単純に数値を比較することはできないものの、市場規模はついに日本と並んだ。

2013-2019年中国書籍小売市場名目売上額規模とその増加(単位は億元、%)

新刊点数減、ベストセラー志向、既刊書優勢が顕著に

 新刊点数は2017年以来減少傾向にある。2019年の新刊点数は19.4万点であり、昨対4.4%減であった。書籍発行の審査・許諾を司る中央宣伝部新聞出版局が、各書籍のCIP(Cataloguing in Publication)の審査を厳格にし、各出版社に分配する統一書号(日本のISBNに当たる)の総数を抑制した政策が背景にある(❶)。

2013-2019年中国書籍小売市場新刊点数とその増減(単位は万点、%)

 書目ごとの売上ランキングにおいては、トップ1%の書籍が販売総額の57.73%を占め、5%の書籍が81.17%を占めるという、ベストセラー依存の構造が見て取れる。トップ1%の貢献率は、ネット書店ではさらに63.296%と跳ね上がった。

 この傾向はここ数年、年を追うごとに顕著となっている。この5年間にトップ1%は13.9ポイント、トップ5%は11%の上昇であり、読者のベストセラー志向が指摘できる(❶❷)。

 逆に見ると、書籍の刊行総点数の99%を占める206万点が売上総額40%相当分であり、5年前は40%相当分が98%を占める154万点だったことからすると、売れる本とそうでない本の選別がいっそう際立ってきたことが分かる(❷)。

2014-2019年中国書籍タイトルの名目売上額規模からみた貢献率(単位は%)

 出版点数における既刊書優位と同時に、売上においても既刊書の貢献率は2002年の68.5%から2018年は83%にまで上昇している。即ちベストセラー志向はあるものの、その内実は新刊書の瞬発力によるものではなく、ベストセラーが古典となってロングテール商品へと化していくことで高収益の好循環をもたらしているということである(❷)。

 日中の出版業界においてヒット作依存ということは共通しているが、極端な新刊書依存の日本に対して、中国はロングセラー依存であることが対照的である。

 京東が取り扱う新刊・重版を含む営業書目にも目を向けてみよう。こちらの総点数は41.5万点と昨年比80%で、販売総額が14.4%増加したということは、単品ごとの販売額が急増していることを示す。出版点数のうち新刊点数は全体の8.1%を占めるにとどまった。

 2017年の新刊比率は13.6%、2018年は11.3%であり、販売総額に占める重版書籍優勢の趨勢が続いている。新刊書書籍の販売額の伸びはとりわけ大きく、昨年比で30%超であった(❸)。新刊の選書の絞り込みと重版書籍の掘り起こしが功を奏して、出版市場の効率化が進んでいることを示している。

続く

お知らせ

本稿の筆者である北京大学・馬場公彦氏が、6月30日開催のJEPAセミナーへ登壇します。オンライン開催で、参加費無料。申込みは下記URLから。
https://kokucheese.com/event/index/597263/

参考リンク

[1]https://mp.weixin.qq.com/s/_MmBdhNFbTQ0-bke1XO67Q
[2]https://mp.weixin.qq.com/s/zDHWGpRXp7pyf0zYiFfK-w
[3]https://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/200115-928cf962.html
[4]http://www.chyxx.com/industry/202005/865283.html
[5]http://report.iresearch.cn/report/201912/3497.shtml
[6]当当聯合易観「書香中国20年――中国図書零售市場発展歴程分析」『新閲読』2019年5月

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著者について

馬場公彦
About 馬場公彦 7 Articles
北京大学外国語学院外籍専家。出版社で35年働き、定年退職の後、第2の人生を中国で送る。出版社では雑誌と書籍の編集に携わり、最後の5年間は電子出版や翻訳出版を初めとするライツビジネスの部局を立ち上げ部長を務めた。勤務の傍ら、大学院に入り、国際関係学を修め、戦後の日中関係について研究した。北京大学では学部生・大学院生を対象に日本語や日本学の講義をしている。『人民中国』で「第2の人生は北京で」、『朝日新聞 GLOBE』で「世界の書店から」連載中。単著に『『ビルマの竪琴』をめぐる戦後史』法政大学出版局、『戦後日本人の中国像』新曜社、『現代日本人の中国像』新曜社、『世界史のなかの文化大革命』平凡社新書があり、中国では『戦後日本人的中国観』社会科学文献出版社、『播種人:平成時代編輯実録』上海交通大学出版社が出版されている。
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