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星新一『ボッコちゃん』(2月18日号)
紙からパソコン、ケータイへ。活字を読むスタイルがどんどん自由に広がってきましたね。でも、今から50年も前に、本の語りのスタイルをスマートに一変させた小説家がいたんです。クールでおちゃめで上品な、SFショートショートというジャンルを作り上げた星新一がその人。文庫というかたちにものすごく似合っていた極小セカイは、21世紀にどんな読まれ方をするのでしょうか。今回の「千夜千冊」は、その独特の雰囲気を伝える、こんなにも短いフレーズとセリフのやりとりで始まります。
『千夜千冊』第234夜 2001年2月21日
星新一『ボッコちゃん』(新潮文庫)
そのロボットはうまくできていた。バーのマスターがつくった。美人である。つんとしているが、それは美人の条件だからしょうがない。ただアタマはからっぽだった。それでもオウム返しと語尾変化だけはできるようになっていた。
カウンターの中に入れたら、客が新しい女の子だと思って話しかける。「きれいな服だね」「きれいな服でしょ」「何が好きなんだい」「何が好きかしら」「お客のなかで、誰が好きかい」「誰が好きかしら」「こんど映画へでも行こう」「映画へでも行きましょうか」。こんなぐあいだから、客はロボットに惚れた。
青年がやってきてロボットに恋をした。けれども酒代がやたらにかさんで、父親に怒られた。「もう来られないんだ」「もう来られないの」「悲しいかい」「悲しいわ」「本当はそうじゃないんだろう」「本当はそうじゃないの」「きみぐらい冷たい人はいないね」「あたしぐらい冷たい人はいないの」「殺してやろうか」「殺してちょうだい」。青年は薬をグラスに入れた。そして言った、「飲むかい」「飲むわ」。
こうして客が死に、ロボットが残った。これが星新一が製造した有名なボッコちゃんである。
星新一の文庫がどのくらいあるかとおもって奥の棚をひっくりかえしたら、5冊ほどあった。ぼくは海外のSFをずいぶん堪能したが、それは20代のころなので、多くは段ボールに入っているか、奥の棚に積んである。
さいわい5冊ほどが埃りをかぶっていた。『マイ国家』『妄想銀行』『妖精配給会社』など、なんとも懐かしい。いずれも新潮文庫で、そのうちの1冊の文庫のカバー袖の星新一の作品ラインアップを見たら、なんと新潮文庫だけで40冊を越えている。しかもこの1冊ずつの文庫本の中に、それぞれ10篇とか20篇とか入っている。この『ボッコちゃん』のようにショートショートばかりが入っていると、1冊で35篇を越える。巷間の噂では1001作品のコントがあるという。
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