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2025年3月16日~22日は「ウェブメディアでリワード広告が急増した理由」「広告主とメディアのブランド保護」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
政治
社説:ネット広告 悪質サイトへの掲載を防げ〈読売新聞(2025年3月19日)〉
総務省 デジタル空間における情報流通の諸課題への対処に関する検討会 デジタル広告ワーキンググループで討議されている「デジタル広告の適正かつ効果的な配信に向けた広告主等向けガイダンス(案)」についての社説です。本欄でも何度か触れた、いわゆる広告主のブランド保護ってやつです。
なのですが、昨年12月以降に開催されたはずの回のページが、本稿執筆時点ではなぜか軒並み消えています。3月3日の回はWARPにも残っていません。BOTの巡回が月1回程度だから、タイミングが悪かっただけとは思いますが。Internet Archiveには記録されていたので、私が見たものが幻ではないことがわかってホッとしました。しかし、なにごと?
[3月24日追記:復旧しました。単なる先祖返りだったのかな? 念のためと思い、昨日時点のアーカイブを残しておいて良かった。消えていたことが確認できます。]
それはさておき、Microsoft Defenderの詐欺広告をバンバン出しちゃってた読売新聞オンラインには、ベクトルが真反対の「悪質広告、自社メディアへの掲載を防げ」という言葉を捧げましょう。私も数回遭遇しました。メディアのブランド保護も重要ですよ。まあ、最近は見なくなったので、さすがにもう本件については対策したんでしょうけど。
トランプ氏、教育省解体へ大統領令 「権限を州に戻す」〈日本経済新聞(2025年3月21日)〉
記事末尾にある「Think!」の中林美恵子氏(早稲田大学教授)のコメントが勉強になりました。有料会員じゃなくても冒頭だけチラッと見えます。これについては、アメリカでは繰り返されてきた議論なのですね。1980年の大統領選の時点で、レーガン氏が教育省廃止を宣言していたんですって。「小さな政府」の共和党ってことですね。
社会
AI生成物は「自分の作品」か クリエーターに問う〈日本経済新聞(2025年3月16日)〉
そもそも、AI生成物は著作物といえるのか。この点については米著作権局が25年1月下旬に公表した報告書が参考になる。(略)注目されるのが、プロンプト入力だけで生成したものは、たとえ試行錯誤を経ても著作権保護の対象ではないとした点だ。
いや、法制度が異なるアメリカをわざわざ参考にするまでもなく、もう2年前から日本の文化庁がちゃんと同様の見解を出していますよ。灯台下暗しでしょうか? 詳しくは「AIと著作権について」のページにある令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」講義資料56~60枚目“AI生成物は「著作物」に当たるか・著作者は誰か”や、令和6年度著作権セミナー「AIと著作権Ⅱ」講義資料57~64枚目“AI生成物の著作物性”あたりをご参照ください。
[社説]言論封じる暴力を許すな〈日本経済新聞(2025年3月19日)〉
暴力はダメ。それは大前提なんですが、では「言葉の暴力」はどこまでなら許されるんだろう? とも思ってしまいました。もちろん、名誉毀損罪、侮辱罪、脅迫罪、強要罪、恐喝罪など、表現が罪になるケースもあるわけですが。
国立国会図書館よ、永遠なれ〈日経ビジネス電子版(2025年3月21日)〉
国立国会図書館デジタルコレクションの送信サービスが素晴らしい! ということにみんなが気づきはじめて、利用者登録の申込みページに赤字で「手続に相当の日数を要しております」って注意書きが出るようになっています。まあ、これはうれしい悲鳴かな。来年度の授業でも使う予定なので「早めに登録しておこうね」って伝えねば。
デジタル教科書「推進ありき」デメリット検討不十分…専門家「現場崩壊しかねない」と警鐘〈読売新聞(2025年3月21日)〉
逆に、読売新聞は「反対ありき」で特集を構成してませんか? 反対意見を言ってくれる専門家にだけコメントをもらっていませんか? これぞまさに「ネガティブ・キャンペーン」だと思うのですが。
令和なコトバ「報酬」 ネット広告「あと○秒」にイラッ〈日本経済新聞(2025年3月22日)〉
ところがコロナ禍をピークに無料ウェブメディアがページビューを稼げなくなり、ウェブ広告も低迷。記事を読みたい読者に無理やり広告動画などを視聴させることで、あわよくばクリックしてもらうリワード広告を設置する媒体が増えたわけだ。
新語解説コーナーなのですが、この箇所にはなんか違和感を覚えました。本件についてはメディア側というよりむしろ、広告プラットフォームがリワード広告を武器のひとつとして積極的に提供し始めたことが要因だと私は思っているのですよね。つまり、武器商人が新しい武器を供給しているからこそ起きた事象、という。
実際、遭遇する全画面型リワード広告の多くは、恐らくGoogle AdSenseの「自動広告」ですよね? 私はこの「自動広告」が最近のウェブメディアの惨状を招いている戦犯だと思っています。ちなみにこの「自動広告」は、Google AdSenseを利用しているメディアが自分で設定をオフに変えていない限り、2019年10月2020年4月から自動的に導入されるように変わりました。記事本文内に差し込まれる広告が急増したのは、そのころからです。
[追記:2019年10月はバージョンアップにより「すべての広告コードが自動広告に対応しました」というタイミングでした。]
記事は「ここ1年ほど」とあるので、Google AdSenseからの過去メールをあらためて確認してみました。すると、2023年10月に「自動広告における全画面広告フォーマットの仕組みが変わり、全画面広告を表示する頻度をより細かく管理できるようになります」というお知らせが来ていました。そこで「変更点」に挙げられていたのは以下の3つです。
ユーザーがページから離れたときまたは再び訪問したときに、全画面広告が表示されるようになりました。
- 自動広告で全画面広告を有効にすると、全画面広告が表示される頻度を管理できるようになります。
- 全画面広告の表示頻度はデフォルトで 10 分に設定されています。
- 表示する全画面広告の数に応じて、1 分から 1 時間の範囲で頻度を指定できます。
うん、ズバリこれが原因でしょう。あとから追加されたこの全画面広告の設定も、Google AdSenseの設定をメディアが自らオフにしていない限り、2023年10月から自動導入されているということです。まあ、初期設定のまま使ってるメディアも多いでしょうから、メディアの意志にあまり関係なく自動的に増えている可能性が高いように思います。
[追記:「あとから追加されたこの全画面広告も」を「あとから追加されたこの全画面広告の設定も」に修正しました。全画面広告そのものはそれ以前からあったんですが、頻度を高くする設定が可能になった、という変化がこのとき起きています。その設定変更は「メディアの意志」ですね。若干不正確ですが、自動広告が自動でオンにならなければ自動で増えることもなかったはずなので、論旨を大きく修正する必要はないかな、と思います。]
経済
大日本印刷、書店の要望で文庫復刊 出版社とマッチング〈日本経済新聞(2025年3月20日)〉
まずは文庫から、200部からのデジタル・ショートランです。取次の名前が出ていませんが、以前、DNPのデジタル製造機械を一部トーハン桶川センターに移設する(2025年度中の運用開始を目指す)というリリースがあったのを思い出しました。その延長上にある話でしょうか。
【笠原一輝のユビキタス情報局】生成AIを推進しているAdobeが、米国の学習データ無断使用規制法案を支持するワケ〈PC Watch(2025年3月21日)〉
まあ、Adobeは「許諾とった上で学習ソースにする」という差別化戦術をとってますから、学習用でも無断利用禁止ということになれば、ライバルの足を止められますからね。じつにわかりやすい理由です。
「歯茎をむき出しにした画像、目の下のたるみの画像」不快な広告で埋め尽くされたメディアに未来はあるのか | メディア業界〈東洋経済オンライン(2025年3月21日)〉
HON.jp Podcasting「#23 下品な広告(2025年3月18日版)」でも触れましたが、そもそもメディア側でトンマナに合わない広告をブロックする対応が可能な仕組みは提供されているはずなのですよね。ただ、積極的に対処するほど、収益減につながる可能性も高い点がハードルになっているように思います。営利企業でその判断は、現場レベルじゃ無理でしょう。責任をとれる経営レベルで判断しないと。
「共同通信がグーグルの生成AIにニュース提供開始」に潜む構造リスク、ますますメディアの経営を厳しくしかねない | ニュース・リポート〈東洋経済オンライン(2025年3月21日)〉
有料会員限定部分は読めていませんが、その手前は「Yahoo!ニュースにしてやられたときのことを思い出す」といった趣旨の内容です。まあでも今回の場合、提供せず放置してても勝手に利用されるだけですから、もらえるものはもらったほうがいいと思うんですけどね。
技術
GoogleのAIモードは検索トラフィックを増やすのか盗むのか?〈海外SEO情報ブログ(2025年3月17日)〉
うーん……出典リンクを小さなマークで表示するだけだと、わざわざクリックして元ソースを参照する人は少なそう。ぜんぜん足らないと思います。せめて、リンク先のサイト名かドメイン名くらいは表示して欲しい。ゴミから生成しているのか、そこそこ信頼できる情報源なのか、それである程度はパッと判断できるようになるはず。
あとは、Search ConsoleでDiscoverと同じように、数字を把握できるようにすること。さっさと透明化を図って欲しい。ちなみにGeminiはサブドメインを使っているから、Google Analyticsで判別可能なんですよね。
AI創作物が呼び起こす新しい感興 その美を何と名づけるか 心揺さぶる「バグ」に可能性〈日本経済新聞(2025年3月22日)〉
橋本大也氏が「HON-CF2023」で「ハルシネーションこそ可能性」とおっしゃっていたのを思い出しました。「とくに創作の世界では、可能性に満ちている」とも。
お知らせ
ポッドキャストについて
5年ぶりに再開しました。番組の詳細やおたより投稿はこちらから。
新刊について
新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』12月1日より各ネット書店にて好評販売中です。1月からKindle Unlimited、BOOK☆WALKER読み放題、ブックパス読み放題にも対応しました!
「NovelJam 2024」について
11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時に開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」から16点の本が新たに誕生しました。全体のお題は「3」、地域テーマは東京が「デラシネ」、新潟が「阿賀北の歴史」、沖縄が「AI」です。
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日刊出版ニュースまとめ
伝統的な取次&書店流通の商業出版からインターネットを活用したデジタルパブリッシングまで、広い意味での出版に関連する最新ニュースをメディアを問わずキュレーション。FacebookページやX(旧Twitter)などでは随時配信、このコーナーでは1日1回ヘッドラインをお届けします。
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雑記
本稿執筆中に、家中の電気がいきなり消えました。パソコンの電源はUPSに繋いであるので、数分は保ちます。シャットダウンして状況を確認すると、ブレーカーは「入」のままです。どうやらウチの近所がまるごと停電しているようです。1時間ほどで復旧しましたが、ちょっと焦りました。まあ、原稿はGoogleドキュメントで書いているので、UPSがなくても無事だったはずですが。(鷹野)