「AI開発事業者への法規制検討へ」「NDLデジコレ送信対象26万点追加」「コミック占有率43.5%」など、週刊出版ニュースまとめ&コラム #618(2024年4月28日~5月11日)

神保町交差点
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 2024年4月28日~5月11日は「AI開発事業者への法規制検討へ」「NDLデジコレ送信対象26万点追加」「コミックの占有率43.5%」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。

【目次】

政治

日本政府、AI開発に法規制検討 大規模事業者にリスク報告義務 【イブニングスクープ】〈日本経済新聞(2024年5月1日)〉

 内閣府の「AI戦略会議」で、大規模事業者限定での法規制を検討するとのこと。2月に自民党の「AIの進化と実装に関するプロジェクトチーム」がまとめた「責任あるAI推進基本法(仮)」を参考にするそうです。

 政府としては、つい先日「AI事業者ガイドライン(第1.0版)」を公表したばかり。総務省・経産省の連名です。ここでは「関係者による自主的な取組を促し、非拘束的なソフトローによって目的達成に導く」と、あくまでガイドラインというスタンスを崩してはいませんでした。

 だから、この「法規制検討」という報道はちょっと意外でした。日経のスクープなので正直「本当かなあ?」と若干疑っていたのですが、少なくとも読売新聞は後追いですが、日経同様、明確に「AI戦略会議」で検討されるという記事が出ていました。

 ところが朝日新聞は、経済協力開発機構(OECD)閣僚理事会の記事の中で、「今後、法制化を視野に入れた議論が本格化するとみられる」と、なんだかはっきりしない書き方。なぜだろう?

社会

宿題もリポートも生成AIが作った「正解」丸写し、教諭は嘆く「これじゃ無料の代行業者だ」〈読売新聞(2024年4月30日)〉

 以前から何度も指摘していますが、昔から行われている「先輩のノートを丸写し」「Wikipediaのコピペ」などと、やってることは大差ないです。生成AIだけが特別なわけではありません。ラクして単位だけ欲しい人にはうってつけなんでしょうけど、使い方が拙いからバレますよね。

ソーシャルメディア規制「必要」85%、偽情報を心配 朝日世論調査〈朝日新聞デジタル(2024年5月2日)〉

 うーん……メスを入れるべきは、アテンションを集めるだけで稼げてしまう「広告」の領域じゃないでしょうか。こういう「規制やむなし」みたいな声に押されて、表現規制の法制化へ流れてしまうほうが心配です。

「生成AI」偽情報と規制 “規制強化すべき”61% NHK世論調査|生成AI・人工知能〈NHK(2024年5月3日)〉

 NHKは、生成AIによる偽情報についての世論調査です。以下の記述にちょっと「アレ?」と思いました。

さらに最近では、生成AIを使って企業の代表者になりすまして投資を呼びかける広告に画像や名前を使われるケースも増えてきているということで、企業のイメージや株価などにも影響することが懸念されています。

 いわゆる「ディープフェイク」のことだと思うのですが、Facebookで跋扈して話題になった投資詐欺広告って、生成AIとなにか関係ありましたっけ? 私は単純に、肖像の無断転載・無断利用のなりすましだと思ってました。顔だけ変える顔合成(コラージュ)もあったのかしら?

生成AIの偽情報規制「必要」89%、世論誘導「不安」86%…読売世論調査〈読売新聞(2024年5月7日)〉

 こちらは読売新聞の調査。同じような世論調査を各社が同時にやっていて、なんか怖い。こ、これが「世論の醸成」ってやつでしょうか。

幻の「サンリオSF文庫」、国立国会図書館デジタルコレクションで無料公開中【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2024年5月2日)〉

 国立国会図書館デジタルコレクションの図書館・個人向け送信の対象資料が、4月30日に26万点追加されました。その増えたラインアップの中に「サンリオSF文庫」が含まれているというニュースです。

 これまで対象資料は「明治期以降、1987年(昭和62年)までに整理された図書等」でしたが、今年から「1995年(平成7年)まで」に拡大しています。資料デジタル化が急ピッチで進められていることもあり、図書館・個人向け送信の件数もここ数年で急激に増えました。利用登録さえすれば計205万点が全国どこからでも利用可能な、国内最大級の電子図書館サービスです。

人気漫画家 生成AIに絵柄を無断学習される“なりすまし横行”に苦言「削除困難 現行法を回避する悪烈さ」〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2024年5月4日)〉

 嫌がらせでLoRAを作成し、ばら撒いている輩がいるとのこと。その行為が悪辣なのは大前提として、中傷されていることが明確なら法的措置は可能ではないでしょうか。弁護士など専門家に相談したほうが良いように感じました。

 なお、被害者の樋口紀信氏も記事内で言及していますが、特定の作家の絵柄を狙い撃ちするようなLoRAは著作権侵害の可能性があります。文化庁「AIと著作物に関する考え方」でも「享受目的が併存する(=法第30条の4が適用されない)」と整理されています(スライドp8)。

 行為者が日本在住なら、こちらでも法的措置が可能と思われます。むしろ、こうしてメディアで記事にして話題を大きくするだけだと、嫌がらせをするような輩の行動がエスカレートしかねないことを危惧します。

Pirate Site Owners Must Surrender, Informants Get Five-Figure Reward(海賊版サイト所有者は降伏し、情報提供者は5桁の報酬を得る)〈TorrentFreak(2024年5月6日)〉

 カカオエンターテインメントによる、海賊版サイト対策のちょっと変わった取り組みです。海賊版サイト運営者の情報をボランティアに提供してもらい、抽選で報酬(アプリ内プロモーションクレジット)を提供しているとのこと。著作権侵害対策ホワイトペーパーのグラフを見ると、ここ半年でリンク削除件数(Link Removal Count:緑)が急増しており、この取り組みが奏功していることが伺えます。また、こういう具体的な数字を定期的に公表し続けることにも意義がある、と感じます。

埼玉県久喜市立図書館、生成AI蔵書検索システムの実証実験を開始〈KCCS(2024年5月8日)〉

 蔵書検索支援のチャットボットと、レコメンド機能の実証実験です。読書傾向データは利用者から事前承諾を得た上で実施するとのこと。どこの生成AIを使うのか? などの情報は未発表です。気になります。

経済

2023年出版市場(紙+電子)の占有率はコミック43.5%:書籍(コミックを除く)39.9%:雑誌(コミックを除く)16.6%に ~ 出版科学研究所調査より〈HON.jp News Blog(2024年4月30日)〉

 毎年恒例の記事なのですが、今年は例年から2カ月遅れとなりました。「出版月報」が「季刊出版指標」に変わった影響です。とくに「雑誌(コミックを除く)」の現状把握が遅くなるのはあまりよろしくないと思うのですが、致し方ありません。

 その代わりというわけではないのですが、「出版指標年報」のバックナンバーを入手したことで、雑誌扱い・書籍扱いコミックスの推定販売金額を2000年まで遡ることができました。それ以前はどうやら未公表のようです。

 当時の市場占有率は、コミック2、書籍4、雑誌4だったんですよね。それがいまや、そろそろコミックだけで出版市場の半分を占めそうな状態に。まあ、コミックは出版市場以外(ライツ)でも大いに稼いでますから、出版市場という狭い括りで見ないほうが良いかもしれません。

電子マンガ市場の現状と今後とは? 「待てば¥0」で革命起こしたピッコマの成長戦略〈マグミクス(2024年4月30日)〉

 気になる点がいくつかある記事です。とくにここ。

「以前はWebtoonと従来型の横読みマンガの売り上げはほぼ同等でした。それに対し、最近はむしろ横読みマンガのシェアが伸びています」

 この「横読みマンガのシェアが伸びています」という言い方にひっかかりました。直前に「売り上げは」とあるので金額の話なのかと思いきや、シェア(占める割合=率)の話なんですよね。「縦読みの販売額が落ちたぶん横読みのシェアが伸びた」と解釈することも可能ですが、そうは言っていないという。なんだか微妙なニュアンスを感じます。

 あるいは、『俺だけレベルアップな件』のような一部のスマッシュヒットが売上を牽引してきた結果として、いままでは「ほぼ同等」だったのかもしれません。これはあくまで私の印象ですが、ピッコマってこういう数字の出し方がいささか断片的で、良く言えば広報が上手いんですよね(褒めてます)。だから正直、この発言を素直に読むことができませんでした。

 もう一つ、これは表記の問題ですが、ピッコマの発言として「Webtoon」でいいのかな? と。LINEが商標登録しているので、ピッコマ自身は「SMARTOON」と呼称しているはずです。

AI翻訳で漫画5万点輸出へ 小学館やJIC、新興企業に29億円〈日本経済新聞(2024年5月6日)〉

 マンガ特化型のAI翻訳の先行事例には、東京大学発ベンチャーで大日本印刷も絡んでいる「Mantra」がありますが、資金調達額が「Mantra」とは一桁違います。翻訳だけでなく、自ら海外向け電子書店の運営をするあたりが大きな違いでしょうか。

LINEヤフー出沢剛社長「ネイバーへの開発委託をゼロに」〈日本経済新聞(2024年5月8日)〉

合わせて米グーグル関連企業「グーグル・アジア・パシフィック・プライベート・リミテッド」社とのサービス提供契約を2年延長することも発表した。同社からLINEヤフーは検索エンジン技術の提供を受け、25年3月末で契約が終了する予定だった。

 これ、私の認識不足だったんですが、ヤフーは検索エンジンをGoogleからNAVERに乗り替える予定だったのですね。それが2年延長になってしまった、と。公取委が明らかにしたGoogleの横暴さからすれば、乗り換えの検討も理解はできます。それだけに、NAVER子会社経由の個人情報漏洩は大きな誤算でしょう。先にそっちの対処が必要になってしまったわけですから。

ソニーなど複数陣営、電子漫画「めちゃコミ」運営会社買収検討-関係者〈Bloomberg(2024年5月9日)〉

 インフォコム株約55%を保有している帝人が、持ち分全ての売却を目指しているとのこと。記事タイトルを見て少し驚いたんですが、ソニーが買うと決まったわけではありません。競合として米投資ファンドのブラックストーンやKKRの名前も挙がっています。ちょっと紛らわしいですね。

 ソニーグループの買収動機は、アニメ関連で「作品プロモーションなどの点で相乗効果が期待できる」とあります。日本に住んでいる私からすると「Reader Storeはどうするつもりだろう?」という疑問が浮かぶのですが、この記事では触れられていません。

 まあ、Reader Storeは北米から2014年時点で撤退してますから、アメリカ企業であるブルームバーグが存在を忘れていても無理はないでしょう。って、もう10年経ったのか! とはいえ、サムネイルの端末は恐らくソニーの電子ペーパー端末「PRS-T3」なんですが。

 もしソニーが買収したら、Reader Storeはめちゃコミに統合かなあ。

技術

ネット記事に発信元情報 偽情報の拡散抑止、来年開始へ〈共同通信(2024年5月3日)〉

 オリジネーター・プロファイルが「来年開始へ」に驚きました。あらためてW3Cのサイト内を検索してみましたが、以前調べたときと変わらず2023年9月13日のドラフトが最新情報でした。進捗しているとは思えないのですが。この状態でブラウザへの実装とか、できるのかな?

新「iPad Pro」、1世代飛ばしたM4と2層OLEDを搭載しつつ、Apple史上最薄の製品へ〈PC Watch(2024年5月7日)〉

 端末そのものより、巨大プレス機を使った広告映像が悪い意味で話題になってしまいました。私の周囲でも、けっこうショックを受けてる人が散見されました。私の感想は、まあ「ディスラプター(破壊者)」と呼ばれている企業らしい映像だな、程度のものでしたが(皮肉です)。わりとすぐ謝罪したのも意外。

X(旧Twitter)に「Grok」が搭載! イーロン・マスク氏が設立したxAI社の生成AI〈窓の杜(2024年5月8日)〉

 正直、X(旧Twitter)の生成AIにはあまり期待していなかったのですが、「X(旧Twitter)に投稿された最新の話題について分析させる」みたいな使い方なら有用かも? という意見を見かけて、なるほどと思いました。とくに利用者が多い日本では、そういう使い方はアリかも。ただ、分析結果が正しいとは限らないわけですよね。ハルシネーションが怖い。結局、検証のためにいままで使ってきた分析ツールも手放せない、ということになりそう。

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CC BY-NC-SA 4.0
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著者について

About 鷹野凌 829 Articles
NPO法人HON.jp 理事長 / HON.jp News Blog 編集長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 編集デザイン特殊研究・ITリテラシー 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など。

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