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中国の民間大手出版社・新経典文化股份有限公司について、北京大学・馬場公彦さんによるレポート後編です。前編はこちら。
【目次】
新経典のブランドイメージをアピール――柳艶嬌さん(ブランドセンター総監)
今回の新経典への取材にあたっては、陳明俊総経理の肝いりで3月に正式に発足したばかりの「ブランドセンター」という8名の部署の総責任者である柳艶嬌さんが人選をアレンジしてくれた。柳さんは大学で中国文学を専攻し、2015年に大学院を修了。映像会社で3か月働いた後、大学時代に研修をしたことのある新経典に転社した。
ブランドセンターでは、「盲盒」という何が入っているかわからないお楽しみ箱という商品を開発したり、ホテルやカフェなどからの協力要請に応えて、業界を越えたジョイント業務を展開している。たとえばあるカフェから、中国で最も人気の高い東野圭吾をイメージしたコンセプトで内装したいという相談を持ち掛けられると、作品の一節やキャラクターデザインを使った展示を提案したりする。
このほか、編集部はもちろんのこと、オーディオブックや映画・ビデオ作品など書籍以外のIP開発に当たる部署や海外で事業を展開する関係部門とも連絡を取りながら、情報を整理し、新たな企画を立てる。いわば社内の生産部門の統括本部に当たる部署である。
海賊版退治のために――鄭峥さん(法務部)
オフィスを歩くと、法務部のエリアのデスク脇には新刊の『文城』が何冊も積み上げられていた。じつはこれらはすべて海賊版で、いろんな書店やプラットフォームで販売されていて、通報を受けたり、発覚した本を集めている。ひとつづつ、クレームをつけるのだという。
オンラインは電商の天猫、拼多多などをはじめとするいろいろなプラットフォームをチェックしています。そこで盗作された図書の証拠をつかんだらクレームをつけ、調査をして確証が得られたら相応の法的措置をとります。電子書籍の海賊版はそのプラットフォーマーに連絡して、通常は権利侵害行為をやめるよう要求し、さらに踏み込んだ法的措置をとります。
民法典と著作権第3次改正のあと、民法典では人格権が規定されてその保護が強化されました。著作権改正で著作権の範囲が拡大され、旧来の「映画作品と類似の映画的手法で創作された作品」が「ビデオ・オーディオ作品」と改正されたことで、これからのさまざまな新たな形態の作品を保護するための法的後ろ盾となりました。
オーディオブックの製作についてはほかの制作会社が編集する場合は、原文そのままの朗読だけを許可し、抜粋とか編集はしていません。日本の場合と似ています。
知財権意識が高まったことを受けて、今年1月には民法典が、6月には著作権法第3次改正が、さらに特許法が施行される。これによって著作者の安心感が増し、権利が侵害されたときはより有利な後ろ盾ができ、民事訴訟も可能になったし、ひどい場合は刑法の規定に基づき公安機関が検挙できるようになった。
オリジナル漫画作品を毎日1作ずつ制作――戴国華さん(創作センター・コンテンツ制作部)
出版業界のみならず国家が大々的にIP開発を提唱するなかで、新経典は独自の紙媒体以外のIP・オリジナルコンテンツの制作に乗り出している。
その1つがオリジナル漫画の制作と公開だ。コンテンツ制作部は2019年7月に公式微信である「bibi動物園」プロジェクトを開発。9名のスタッフが4~6コマ漫画の作品を毎日1作公開している。抖音、小紅書などでIP開発をしている。自主制作のため、外注費は掛からない。スタッフは編劇・漫画制作・運営の3役からなるチームを結成してコンピュータで制作する。
抖音には90万ほどのファンがいて、これまで最高の再生回数は4000万回に達する。コア読者は10~30歳で学生と通勤族の95後(1995年生まれ以降の若年層)。朝8時30分前後の通勤時間帯が最もアクセスが多い。漫画がある程度集まると編集部に渡して絵本にする。音声付きの動画制作もするが、まだ作品数は多くない。
「bibi動物園」のほかにコンテンツ制作部は「極簡史」というオリジナルIPプロジェクトがあり、主に教養コンテンツの漫画を制作しています。
なお、編集部の中には漫画の輸入版権と国産漫画の漫画書籍を扱う編集部として「動漫(アニメ漫画)部」がある。
電子化・オーディオ化に乗り出す――黎遥さん(創作実験室)
コンテンツを出版し、読者に届けるのは、もはや紙だけとは限らない。過去千年来、紙は出版の最も主要な媒体であった。コンピュータ技術の発展と、インターネットの出現により、「電」とかかわるすべてのものはますます「移動」するようになり、「出版」はがんらいの名詞だけでなく動詞として、巨大な変化を遂げつつある。
中国でもここ十数年で紙の書籍を出版する際は通常、電子書籍を同時に発売するようになった。電子書籍は読者に瞬時に送り届けられるためで、電子化はほぼすべての紙の書籍を網羅するようになった。それに対し、オーディオ出版はここ数年でようやく台頭しはじめたものの、まだマーケットやプラットフォームに定着しておらず、書籍のオーディオ化率はまだ非常に低く、オーディオブックのプラットフォームでの占有率は高くない。
新経典は戦略的発想に基づき、2020年に創作実験室を設立した。主な業務と機能は、刊行書籍の電子化のほか、書籍のオーディオ化に重点を置いている。そこで、新経典副総裁で同室主任を兼務する黎遥さんに話を伺った。
目下の中国のオーディオ市場では、オーディオブックの点数は全商品の10%以下にとどまり、「出版」と言いながらも、まだ「プレゼンス」は高くない。とはいえ、伝統的出版業は消費者が知識への対価を支払うという良い習慣を養ってきた。オーディオブックのプラットフォーム上での販売収入は、コンテンツ数の占有率をはるかに上回る。ざっとした統計によれば、オーディオブックがプラットフォームで生み出した収入は3割を超える。
新経典は書籍が好調であることにより、オーディオ化もかなりスムーズに運んでいる。新経典が擁する多くのオーディオブックはどれもがプラットフォームのトップ商品となっている。黎遥さんによると、いま市場に出回っているオーディオブックは3種に大別できる。紙本の原作を全文朗読する1.0版(基本的に閲読のためのもので、単に紙本を少し延長させたもの)、ダイジェストあるいは解説本としての2.0版、放送ドラマを中心とする純娯楽作品(完全に書籍と閲読を離れる)の3.0版。いま主に制作しているのは1.0版である。
参考リンク
新経典公式サイト