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2025年6月29日~7月5日は「秀和システム債務超過」「論文に隠しテキストでAI査読に対抗」「Cloudflare、AIボットブロック機能提供」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
- お詫び
- 政治
- 社会
- 論文内に秘密の命令文、AIに「高評価せよ」 日韓米など有力14大学で〈日本経済新聞(2025年6月30日)〉
- 楽天Koboの自費出版サービス、規約改定で生成AIの利用を宣言。AI要約を嫌うユーザーは反発【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2025年7月1日)〉
- 日本図書館協会(JLA)、ウェブサイトをリニューアル〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年7月2日)〉
- オンライン書店による研究書販売停止に対する声明〈日本マンガ学会(2025年7月4日)〉
- ワシントン・ポスト、情報源が記事にコメントできる新機能を導入 双方向ジャーナリズムで読者離れに歯止めをかけるか〈Media Innovation(2025年7月4日)〉
- あふれる性的広告「子どもに見せない!」◆流れ変えた親のアクション、残る課題は?〈時事ドットコム(2025年7月5日)〉
- 経済
- 技術
- お知らせ
- 雑記
お詫び
HON.jp Podcasting が更新できませんでした
なんかもういろいろバタバタしていて、ポッドキャストが更新できませんでした。楽しみにしていた方、申し訳ありません。この番組ではみなさまからのお便りをお待ちしています。番組の感想や「こんなトピックスを取り上げて欲しい」「最近こんなことが気になっているが、どう思うか?」「こんな本が面白かった」など、本に関わることならなんでも構いません。こちらのページから気軽にお送りください。
政治
国連サイバー犯罪条約と「表現の自由」問題 勉強会(出版関係者向け)〈うぐいすリボン(2025年7月1日)〉
弁護士・堀新氏による解説。コンパクトにまとまっています。条約を国内で批准する際に、留保規定を使って創作表現や文章・音声を犯罪化の対象から除外しないと、たとえば萩尾望都、竹宮惠子、川端康成、大江健三郎などの作品も規制対象になり得るという見解が示されていました。関係者必見。そして、留保規定を外そうという動きには、断固反対を。
社会
論文内に秘密の命令文、AIに「高評価せよ」 日韓米など有力14大学で〈日本経済新聞(2025年6月30日)〉
ぎゃはははは。声を出して大笑いしてしまいました。いにしえの隠しテキストです。しかし、そんなのすぐバレるだろうと思ったら、有料部分にこんな言い分が書いてありました。
命令文が書かれた論文の共著者である早大教授は取材に対して「AIを使う『怠惰な査読者』への対抗手段だ」と説明した。多くの学会は論文評価をAIに任せることを禁じている。あえてAIだけが読める命令文を加えることで、査読者が論文評価をAIに任せることをけん制する意図があるという。
なるほど、そんな意図が。と思ったんですが、よくよく考えてみたら「arXiv」って査読前論文を公開するプレプリントサーバーですよね? うーん、どうなんだそれは。
楽天Koboの自費出版サービス、規約改定で生成AIの利用を宣言。AI要約を嫌うユーザーは反発【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2025年7月1日)〉
もちろん学習用途では使わず、レコメンドや要約に用いるという規約改定なのですが、猛反発されているようです。いやあ、生成AI、嫌われてますねぇ……。Amazon「Recaps」は購入済みシリーズの過去作だけがAI要約の対象で、ずいぶん慎重だなあと思いましたが、そりゃ慎重になるわけだ。
日本図書館協会(JLA)、ウェブサイトをリニューアル〈カレントアウェアネス・ポータル(2025年7月2日)〉
記事を見た瞬間、嫌な予感がしてすぐに確認したら、ウチから日本図書館協会に貼ってるリンクはすべて404になっていました。嗚呼……まあ、こういうウェブサイトリニューアル時にありがちですが、過去記事のURLがことごとく変わっているうえ、リダイレクトも設定されていない状態になっています。
まあ、「一部ページで作業が完了していないものがございます」とお詫びが出てるから、もしかしたらまだこれからリダイレクトを設定する可能性は残ってますが。淡い期待です。日本語URLの設定にしちゃってるんですよね……エンコードされたやたら長いURLは、あんまり好きじゃないなあ。
ちなみに、WordPressテーマ「Cocoon」を使っていますね。現時点だとアイキャッチの画像がデフォルト設定のままになっているから、ソースを見るまでもなくすぐにわかります。もし外注してこの有様なら「金返せ」って話ができると思いますよ。あまりに酷い。
オンライン書店による研究書販売停止に対する声明〈日本マンガ学会(2025年7月4日)〉
まだいまのところメディア報道はなさそうなので、日本マンガ学会公式のお知らせから。西原麻里『BLマンガの表現史――少年愛からボーイズラブジャンルへ』(青弓社、2025年)が、紙版・電子版ともにアマゾンでは販売されない状態になっていることに対する声明です。青弓社公式も「諸般の事情で」としか告知しておらず、原因がなにかは不明です。とりあえず他店ではまだ普通に販売されています。
どんな内容なんだろう? と思い買って中身をパラパラ確認してみましたが、図版はかなり少なめです。引用している表現も、大半は学術書らしく抑制的だと感じました。まあでも正直、一般ジャンルで売るにはちょっと露骨じゃないか? と思う図版も一部ありました。『BLの教科書』(有斐閣、2020年)より過激かな。
ちょっと気になったのが、Togetterやはてなブックマークでの反響が、妙に冷淡というか、揶揄している声が目立つというか、むしろ攻撃的に感じられた点。少なくとも日本マンガ学会は男性向けジャンルで「有害図書」指定問題が起きたときにも反対声明を出してます。女性向けジャンルが規制されたから慌てて反応しているわけではありません。
ワシントン・ポスト、情報源が記事にコメントできる新機能を導入 双方向ジャーナリズムで読者離れに歯止めをかけるか〈Media Innovation(2025年7月4日)〉
日本経済新聞の「Think!」や朝日新聞「コメントプラス」のように第三者の専門家がコメントするのではなく、記事ソースになった当事者がコメントできる仕組みとのこと。日経も朝日も、コメント権限を持っている人がたまたま記事化された当事者になったとき、この機能を使って補足や訂正をしているケースをときどき見るので、まあ、それはそれでアリなのかなという感じはします。
あふれる性的広告「子どもに見せない!」◆流れ変えた親のアクション、残る課題は?〈時事ドットコム(2025年7月5日)〉
ある食品関連のサイト運営者は、掲載される広告を日々監視し「膨大な数をブロックしている」と明かす。それでも問題のある広告が多数含まれているとして、「電子書籍」を掲載カテゴリーから外したという。
身につまされます。そう、メディア側で真面目に広告を制御しようと思うと、「カテゴリーごとブロック」みたいな手段を採らざるを得なくなるんですよ。ウチはもう2020年10月から Google AdSense そのものを外しちゃいましたが、それ以前は「デリケートなカテゴリ」をすべてブロックしたうえで、「一般カテゴリー」でも変な広告が出てきたらすぐブロックしてました。
ただ、電子出版系の話題が多いメディアなので、さすがに「電子書籍」カテゴリをまとめてブロックはできず、当時からすでに酷い広告の多かった特定の電子書店だけドメイン指定でブロックしていました。そうやって読者になるべく快適な閲覧環境を提供しようとすると、悲しいことに収益性は下がるんですよ。そして誰も褒めてくれたりはしないという。まあ、もっとうまくアピールすべきだったんでしょうね。
経済
秀和システム 債務超過で出版事業継続困難に 他社に譲渡へ〈The Bunka News デジタル(2025年7月1日)〉
【続報】秀和システム 都内新興出版社に事業譲渡打診 社員「突然で戸惑い」〈The Bunka News デジタル(2025年7月2日)〉
老舗コンピュータ書籍出版社の秀和システムが事業終了、8月末に新刊を予定していた著者はどうしたらいいんでしょうか?(CloseBox)〈テクノエッジ TechnoEdge(2025年7月2日)〉
【解説】秀和システムの法的整理、異変察知は「船井電機より前」 | TSRデータインサイト〈東京商工リサーチ(2025年7月2日)〉
先週、業界関係者のあいだで大きな話題になっていました。いやあ……なんというか、船井電機買収以降の経営陣の動きが意味不明過ぎてコメントしづらいものがあります。文化通信の続報にある現社員のコメント「出版不況が理由ではない」が、経営陣の問題を物語っています。引き取り手は見つかるか? という懸念もありましたが、すでに複数社から事業継承の申出があるようです。出版事業はなんとか存続できそう。
しかし、これから出る予定だった新刊の著者はもちろん、既刊の著者には未払い印税が受けとれないという被害も出ています。周囲でも、秀和システムから出版している著者が「印税は払えない」と弁護士から通知を受けたという声をいくつか目にしました。期せずして債権者になってしまいましたね……ご愁傷さまです。事業継承する出版社は、その債務も負う必要があるのかな? 著者としては、他社から出し直したほうがいいかも。
「クリックと広告を最大化するモデルは終わった」AIジャーナリズムとクリアな価値観で挑む、アクセル・シュプリンガーの野心的戦略転換〈Media Innovation(2025年7月1日)〉
デプフナー氏は戦略会議で「検索やソーシャルメディアへの依存は弱さであり、オーディエンスを所有することが強みである」と強調しました。
強く同意。特定プラットフォームの動向に大きく左右されない、自社自前の直接アプローチできる手段を持っておくべきだと私も思います。メールアドレスをコツコツ集めるなどの努力が必要。たとえば「まぐまぐ」は読者メールアドレスをエクスポートする手段がないため、配信側で利用するとロックインされた状態になってしまいます。SNSのアカウントも同様です。いくらフォロワーを増やしても、サービスが終了してしまう場合もあります。Google+みたいに。
ペイウォールの限界、僅か1%のみが有料購読に繋がる〈Media Innovation(2025年7月2日)〉
うーん、「僅か1%」という表現はどうなんだろう? コンバージョンレート(CVR)1%と捉えると、むしろめちゃくちゃ高くありませんか? そんな高確率で有料購読してくれるなら、みんなそんなに苦労しないと思うのですよ。
技術
Cloudflare、AI時代のクリエイター支援策を発表 「コンテンツ独立記念日」宣言〈ITmedia NEWS(2025年7月2日)〉
AIボットよ、金を払え–訓練用コンテンツの「タダ乗り」にCloudflareが突きつけたメッセージ〈CNET Japan(2025年7月4日)〉
これはすごい手だ……心底感心してしまいました。まず、生成AIサービスを提供している企業に「タダ乗り」されていると苦々しく思っているコンテンツ配信企業側にとって、強烈な対抗手段であることは間違いありません。まさに福音です。デフォルト設定でブロックというのがまたすごい。
そして、CDNサービスをやっている企業は、Cloudflare以外にも、AkamaiとかAmazonとかGoogleとかMicrosoftなどいろいろなところがありますが、この「AIボットをCDNが検知してブロックする」サービスは、生成AIサービスもやっている企業には絶対に真似ができない手です。だって、自社サービスの首を絞めることになるわけですから。言ってみれば、広告プラットフォームがアドブロックを提供するようなものです。やれないでしょ、そんなこと。
コンテンツを配信するウェブサイトは、規模がある程度大きくなってきたら、CDNサービスを導入するのが一般的です(ウチは未導入)。ウェブの世界におけるインフラと言っていい。そのインフラがコンテンツ配信企業に、いわば「水門」とか「蛇口」のような武器を提供するわけです。気に食わない相手には、水の流れを止めて対抗すればいい、と。
価値ある情報がペイウォールの向こう側に行くより前に、こういう形でコンテンツの流れ方が大きく変わることになるとは。いやあ、脱帽です。
AIは「賢いフリ」をしていた──ハーバード大などが暴いたLLMの決定的弱点「ポチョムキン理解」とは?〈XenoSpectrum(2025年7月4日)〉
ハルシネーション(幻覚)は「事実の捏造」ですが、ポチョムキン理解は「『概念的な一貫性』の捏造」とのこと。要するに、AIは概念を理解しているわけではないから、あたかも理解しているかのようにふるまうけど、それはハリボテである、ということなのでしょう。それを「賢いフリをする」と表現するのも適切ではない気がしますが。意思があるわけじゃないのですから。
お知らせ
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5年ぶりに再開しました。番組の詳細やおたより投稿はこちらから。
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新刊『ライトノベル市場はほんとうに衰退しているのか? 電子の市場を推計してみた』各ネット書店にて好評販売中です。Kindle Unlimited、BOOK☆WALKER読み放題、ブックパス読み放題、シーモア読み放題にも対応しました!
「NovelJam 2024」について
11月2~4日に東京・新潟・沖縄の3会場で同時開催した出版創作イベント「NovelJam 2024」で新たに誕生した16点の作品を合本にしました!
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雑記
NovelJam 2025 開催のお知らせに合わせ、メディア関係者などあちこちに連絡していたらあっというまに時間が過ぎていってしまいました。光陰矢のごとしなんかもう年を重ねるごとに、時間経過が早くなっている気がします。(鷹野)