バイデン政権誕生でSNSが取り締まられ、GAFAが独禁法によって解体される可能性はあるのか?

大原ケイのアメリカ出版業界解説

Joe Biden
Photo by jlhervàs(from Flickr / CC BY

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 1月20日、ジョー・バイデン氏が第46代アメリカ大統領に就任しました。ドナルド・トランプ氏のアカウントを永久凍結したツイッターなどのSNSや、独占禁止法の調査が始まっていたアマゾンやグーグルなどの巨大IT企業に対し、新政権はどう動くのでしょうか? 大原ケイさんの解説です。

アマゾン・キンドルが独禁法の調査対象に

 1月13日付けのウォール・ストリート・ジャーナルで、コネチカット州の司法長官がアマゾンのEブックビジネスを独禁法違反で調査中という報道があった[1]。これはアマゾン傘下のキンドルが、その強大な影響力を武器に、新興のEブックサービスや競合相手に不利になる条件でEブックを作り、著者を囲っているかどうかに焦点を当てているという。

 アマゾンが不法にEブックビジネスを寡占化しているという疑いは、コネチカット州だけではなく、既にカリフォルニア州、アマゾン本社のあるワシントン州、そしてニューヨーク州でも調査が進められており、さらに州政府のそれとは別に公正取引委員会(FTC)でも同様の調査が行われている。

 この調査の話を聞きつけたのか、早速ヘーゲンズ・バーマンという法律事務所がアマゾンに対する訴訟を起こした[2]。ここは不特定多数の被害者を原告とする「クラスアクション訴訟」を得意とする事務所で、2011年に「エージェンシー・モデル」を採用してEブックの値段を各社揃えるために談合したとする、アップル対米司法省の訴訟の際にも原告側として名を連ねていた。

政権交代を期にSNSは自主規制を強化

 注目されるのは、バイデン政権誕生となり、アマゾンのキンドルビジネスだけでなく、フェイスブックやツイッターなどのSNSを含む大手IT企業に対し、どれだけ独禁法による取り締まりが強化されるかどうかだ。

 転換期への引き金となったのは、1月6日に行われた上下両院議員による大統領選挙結果承認式を妨害しようと国会議事堂に押し入った支持者を煽動したとして、ドナルド・トランプのツイッターアカウントが凍結されたことだ。ツイッターだけでなくさらに、フェイスブック、インスタグラム、ティックトック、果てはピンタレストまでもがトランプを締め出し、彼の煽動によって「クーデター」とも言われる蛮行に及んだ支持者らは自らその様子をSNSにアップロードするなどして身元が確認され、これまでに数百人が逮捕されている。

 これまで性差別、人種差別、あるいは政治家に対する脅迫めいた発言や、事実無根の陰謀論の拡散を放置してきたSNSが、政権交代のタイミングで自粛を強化してきたとも取れる。つまり、企業の法的遵守を尊重する民主党の大統領が就任すれば、司法省の調査が進んで独禁法違反の訴訟や、SNSがメディアプラットフォームとしての責任がこれまでより厳しく問われることを見越して決断したとも言える。

 これを裏付けるようにツイッターを追われたトランプと白人至上主義者団体を含む彼の支持者が代替となるSNSを探してたどり着いた「パーラー」は、これまでに何度もアマゾンから差別的、暴力的な発言を取り締まるように忠告を受けていたにも関わらず、放置したとしてアマゾンのサーバサービス、AWSから締め出されている。

 トランプ支持者や、共和党員はこういった企業判断を「言論の自由の侵害」だと怒りの声を上げているが、本来、米国憲法修正第一条で守られているのは、「政府が」一般市民の言説の検閲を禁じる法律であり、その逆ではない。憲法修正第一条を冒したとしてSNSが罰せられることはないだろう。

巨大IT企業に対する規制の動きは?

 一方で、アメリカ国内の経済格差を助長している原因の一つが「Big Tech」と呼ばれる大手IT企業の市場独占にあるとし、フェイスブック解体などを目指す American Economic Liberties Project(以下 AELP)という団体が1年前立ち上がり、今はバイデン政権と協力体制にあるという。

 ITニュースが伝えた記事によると、バイデン大統領はオバマ政権下で働いた経験を持つベテランの独禁法専門家を司法省に迎える準備をしているという[3]。筆頭候補はレナータ・ヘッセで、オバマ政権時代に司法省で独禁法を担当していた人物だが、その後グーグルやアマゾンの顧問をしており、シリコンバレーに近すぎるとして、前述のAELPをはじめとする民間団体からの反対意見が上がっている。

 しばらくはトランプ政権が残していった負の遺産の後片付けに忙しいバイデン大統領だが、早々に大手IT企業に対し、「国をひとつに」するための協力を求め、現行の独禁法で十分に取り締まれないとなれば、議会が法改正に動きそうだ。アマゾンはバイデンの新型コロナウィルスワクチンの国内流通に自ら協力すると殊勝なことまで申し出ている。

参考リンク

[1] Connecticut Investigating Amazon’s E-Book Business〈WSJ〉
[2] Amazon, a Longtime E-Book Discounter, Is Accused of Driving Up the Price of E-Books〈WSJ〉
[3] Biden eyes ex-Obama staff to tackle ‘Big Tech’ – Strategy -〈iTnews〉

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著者について

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NPO法人HON.jpファウンダー。日米で育ち、バイリンガルとして日本とアメリカで本に親しんできたバックグランドから、講談社のアメリカ法人やランダムハウスと講談社の提携事業に関わる。2008年に版権業務を代行するエージェントとして独立。主に日本の著作を欧米の編集者の元に持ち込む仕事をしていたところ、グーグルのブックスキャンプロジェクトやアマゾンのキンドル発売をきっかけに、アメリカの出版業界事情を日本に向けてレポートするようになった。著作に『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(2010年、アスキー新書)、それをアップデートしたEブックなどがある。