記事の相互掲載で二極化からの脱却を図るポーランドの5誌

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 保守派とリベラルにきっちり分かれ、自分の価値観とマッチした立ち位置のマスコミからしか情報を得ないためにメディアによる「フィルターバブル」から抜け出せない現象が特に欧米で憂慮されているが、そこからの脱却のためにお互いの記事を掲載しあい、理解を深めようというポーランドでの試みを米ニューヨークタイムズが伝えている。

 これは欧米だけでなく、南米や韓国、インドやパキスタンといった国でも見られる現象だが、ポーランドではポピュリストの保守派政権下で公共テレビ番組がプロパガンダ局に成り果て、大手新聞紙のガゼタ・ヴィボルツァ(Gazeta Wyborcza)は徹底的に反政府の立場を貫く。

 市民的なディベートの代わりにヘイトスピーチが増えると殺人事件にさえ至ることも。先月ポーランドの最大野党である市民プラットフォーム(Platforma Obywatelska)党員であり、グダンスク市長を務めるパベウ・アダモビッチが刺殺されるという事件があったばかり。

 スピエンチア(Spiecie:短絡、あるいはファスナーという意味がある)プロジェクトでは、保守からリベラルまで政治的視点を異にする5つの雑誌が、1つのトピックについて見解を書き、お互いの誌上でそれを紹介している。参加しているのはリベラルなオンライン雑誌の「Krytyka Polityczna」、右派の「Nowa Konfederacja」、カソリック系保守の「Club Jagiellonski」、カソリックでもリベラルな神学を追求する「Kontakt」、自由市場を提唱するリベラリストの「Kultura Liberalna」で、毎回いずれかの雑誌がホスト役として2000ワードの記事を書き、他誌が1000ワードで回答する形式。これまでのお題はポーランドの教育システム、憲法改正問題、年金問題、ヨーロッパにおけるポーランドの立場について、そして移民問題を含む社会変化などだ。

 今のところ中心読者はワルシャワやクラクフなど都市部のエリート層だが、評判は上々でどの雑誌上でも好意的な反応があったという。

参考リンク

ニューヨーク・タイムズの記事

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著者について

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NPO法人HON.jpファウンダー。日米で育ち、バイリンガルとして日本とアメリカで本に親しんできたバックグランドから、講談社のアメリカ法人やランダムハウスと講談社の提携事業に関わる。2008年に版権業務を代行するエージェントとして独立。主に日本の著作を欧米の編集者の元に持ち込む仕事をしていたところ、グーグルのブックスキャンプロジェクトやアマゾンのキンドル発売をきっかけに、アメリカの出版業界事情を日本に向けてレポートするようになった。著作に『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(2010年、アスキー新書)、それをアップデートしたEブックなどがある。
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