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2025年9月28日~10月4日は「NHK ONE、登録不具合で開始からつまずき」「OpenAI、Sora 2で日本の著作権法に挑戦状」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります。メルマガでもほぼ同じ内容を配信していますので、最新情報をプッシュ型で入手したい場合はぜひ登録してください。無料です。クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)でライセンスしています(ISSN 2436-8237)。
【目次】
- 政治
- 社会
- Why I gave the world wide web away for free | Tim Berners-Lee(私がワールドワイドウェブを無料で提供した理由|ティム・バーナーズ=リー)〈The Guardian(2025年9月28日)〉
- 新ネットサービス「NHK ONE」10月1日始動–旧プラス利用者は手続き必須 受信料はどうなる?〈CNET Japan(2025年9月30日)〉
- 動画生成AI「Sora 2」が叩きつけた「著作権法うわのソラ」作戦 – 生成AIストリーム〈窓の杜(2025年10月3日)〉
- The AI Book Flood: Separating Hype from Reality in Publishing(AI書籍“洪水”:出版における誇大宣伝と現実の区別)〈The New Publishing Standard(2025年10月3日)〉
- 経済
- 技術
- お知らせ
- 雑記
政治
「新聞離れ」の次は「AIのタダ乗り」で大損害…読売・朝日・日経を激怒させた新しい検索サービスの正体 「記事の安売り」をやめる好機にできるか〈PRESIDENT Online(2025年10月3日)〉
裁判ネタなので「政治」ジャンルで。AI検索に対する訴訟まわりの現状がよくまとまっている記事だとは思います。ただ、新聞社側の立場にちょっと肩入れし過ぎている感もあります。論者は東京新聞出身の方なので無理はないかもしれませんが。たとえばこちら。
生成AIの急速な進化に法整備が追いついていないだけに、将来を見通せば、生成AI企業は、報道機関と対峙するのではなく、共存する道を探ることが求められている。
この前後に「法整備が追いついていない」ことの根拠は書かれていません。具体的にどの法律をどう改正すればよいのかは最後まで曖昧なままです。「日本の著作権法には『フェアユース』の概念はない」と言った直後に著作権法第30条の4について触れているのですが、それは法律が国によって違うという例示に過ぎません。「一筋縄ではいかない複雑な構図になっている」とは言いますが、越境取引でも日本を対象としたサービスなら国内法が適用されますから、海外の裁判結果は関係ないのでは。むしろ現時点で出ているアメリカの判決は、日本の著作権法第30条の4に近い形になっているくらいですし。さすが日本版フェアユース。
そもそも読売・朝日・日経がPerplexityを訴えたのは、現行法でも勝てると判断したからですよね。robots.txtを無視しているのが本当なら、恐らく勝てると思います。現行法で対処できるなら、どのように法改正しろというのか。そう問えば恐らく日本新聞協会の主張と同様、著作権法第30条の4をもっと権利者側にとって有利な形に変えるべし、といった意見が出てくるのでしょう。しかし、著作権法の目的は権利者を守ることではなく「文化の発展に寄与すること」です。権利が強すぎると利用が阻害されます。ところが権利者側って、隙あらば権利を強化しようとするんですよね。もう少し「文化的所産の公正な利用に留意」すればいいのに。
社会
Why I gave the world wide web away for free | Tim Berners-Lee(私がワールドワイドウェブを無料で提供した理由|ティム・バーナーズ=リー)〈The Guardian(2025年9月28日)〉
On many platforms, we are no longer the customers, but instead have become the product.(多くのプラットフォームにおいて、私たちはもはや顧客ではなく、商品となっています。)
おお、ティム・バーナーズ=リーが私と同意見だと感動してしまいました。そう、無料サービスの利用者って、商品の一部なんですよね。ちょうど先週の明星大学デジタル出版論の授業「メディアとビジネスモデル」の回では、ほぼ同じことを話しています。無料サービスの提供者から見た顧客は広告主なのだ、と。もっとも、広告モデルだけでなく、利用にはお金がかかる有料モデルを併用するパターンも増えてきたので、そこはちょっとややこしいのですが。
新ネットサービス「NHK ONE」10月1日始動–旧プラス利用者は手続き必須 受信料はどうなる?〈CNET Japan(2025年9月30日)〉
きょうスタート「NHK ONE」登録で不具合 Gmailなどに認証コード届かず〈ITmedia NEWS(2025年10月1日)〉
ネットサービス「NHK ONE」、アカウント登録の不具合を解消〈日本経済新聞(2025年10月2日)〉
契約しようと思っていたのに、不具合が起きたことで水を差されちゃいました。どうやらメールの大量送信がGoogleに「迷惑メール」と判定されたことが主な要因だったようですが、Gmail以外でも不具合は起きていたので、サーバーの過負荷もあったような気がします。
ちなみに、どうも勘違いしている人が多いようですが(新聞社はニンマリでしょうが)、NHK ONEのウェブニュースはペイウォール型ではありません。「内容について確認しました」にチェックして「次へ」→「サービスの利用を開始する」で、オーバーレイが出てこなくなります。
これにより「契約義務は発生」しますが、契約しなくても読めます。事前に「ペイウォール型にはしない」と予告していた通りの実装ですね。アプリも同様みたい。
NHKが放送法の改正で10/1からネットサービスを統合した結果、有用な多くの記事やサイトが公開終了に…「軽い災害」「誰が得するんだ?」と嘆く声も〈Togetter(2025年9月30日)〉
まず、URLは大幅に変わっています。.nhkというブランドTLDになりました。HON.jp News Blogの「週刊まとめ」でピックアップしたNHKニュースの記事は今年だけで20本くらいあるのですが、リダイレクトが設定されていてそのまま読める記事と、消えちゃっててトップページに飛ばされる場合があるようです。たとえば上記のまとめ内冒頭でNHK災害担当記者の方が挙げている『災害列島 命を守る情報サイト』は、「NHKONE防災」というページにリダイレクトされますが、個別の記事はかなり消えています。
以前「“消えた”ウェブサイトを後世に」って特集が盛大にツッコミを食らっていたことがありますが、またやってしまったようです。まあ、URLさえわかれば、ほとんどの場合はWayback Machineで掘り出せると思いますが。「ごめんなさい 救助のヘリじゃなくてごめんなさい」はありました。今後は、記事を短期間で削除しなくなるといいんだけどなあ。私はそこが一番気になる。
ちなみに本件で気がついたのですが、NHKのサイトは国立国会図書館のインターネット資料収集保存事業(WARP)では保存されていないんですね。公益性の高い特殊法人だけど、許諾が必要な対象かつ許諾が得られていなかった、ということなのかな。
動画生成AI「Sora 2」が叩きつけた「著作権法うわのソラ」作戦 – 生成AIストリーム〈窓の杜(2025年10月3日)〉
日本の文化庁は2023年ごろまで「AI生成物は著作権の対象外」としていましたが、現在は立場を修正しています。
いやいや、さすがにちょっとそれは不正確なのでは。文化庁は、令和5年度著作権セミナー「AIと著作権」(2023年6月開催)の時点ですでに、以下のように説明しています(PDF資料P57)。
人が思想感情を創作的に表現するための「道具」としてAIを使用したものと認められれば、著作物に該当し、AI利用者が著作者となると考えられます。
で、この箇所には「※前掲・著作権審議会 第9小委員会(コンピュータ創作物関係)報告書」とも書いてあるのですが、確認してみて驚きました。なんとこれ、1993年(平成5年)の報告書なんです。つまりコンピュータと著作権に関しては、少なくとも30年以上前から検討が続けられてきたことになります。
そしてこの30年以上前の報告書の時点ですでに、コンピュータ創作物でも人間が道具として使ったのなら著作物性は肯定されるという趣旨のことが書いてあります。いやあ、すごい。インターネット前夜から議論が積み重ねられてきた上にいまがあることを再認識しました。軽々しく「法整備が追いついていない」なんてこと言えませんよ、これは。
動画AIのSora、著作物勝手に使う「オプトアウト方式」に不満の声〈日本経済新聞(2025年10月4日)〉
とはいえこの「Sora 2」に関しては、前述の記事の著者の言うように「挑戦状」が叩きつけられた感があります。私は試してないので確認していませんが、なんかもうすでに対策されたようで、日本の著名なIPでも出力できなくなったようです。
この速さで対応可能ということは、最初だけ意図的に解放して話題を集めることが狙いだったのでしょう。日本のIP保持者がすぐに訴えてくることはないだろうと、見透かされているように感じました。そしてユーザーも、「ジブリ風」のときと同様、手のひらの上で踊らされてますね。
The AI Book Flood: Separating Hype from Reality in Publishing(AI書籍“洪水”:出版における誇大宣伝と現実の区別)〈The New Publishing Standard(2025年10月3日)〉
AI生成本の“氾濫”は誇大視されており、出版業界はAIに適応して真に読む価値のあるコンテンツの創造に注力すべきである、という趣旨のことが書かれています。わりと楽観的。でも私はこういう考え方のほうが好きです。
経済
FacebookとInstagramが広告非表示のサブスクプランの提供を英国で開始。今後の展開は?【やじうまWatch】〈INTERNET Watch(2025年9月29日)〉
YouTube Premium(旧YouTube Red)みたいなことを始めるのですね。利用者側としては、妙なターゲティングでぜんぜんマッチしないおかしな広告を見せられるとストレスが溜まるので、広告非表示の選択肢があるのは悪くないと思います。広告ではなくアルゴリズムで勝手に勧めてくるページやグループの投稿も出なくなるとなお良し。もちろん料金次第ですが。月額600~800円はちょっと高い。
縮小するコンビニ雑誌棚、セブンイレブンも半減へ 出版流通に迫る危機〈日本経済新聞(2025年10月2日)〉
この記事が出た日にちょうど、明星大学デジタル出版論の授業が「出版ビジネスの現在と課題」の回でした。「出版不況」ではなく「雑誌不況」なのだと。でも書籍は雑誌流通に相乗りしてるから、雑誌が崩壊すると書籍もヤバイんだぞ、みたいな話です。ちなみに今回、過去1カ月間に雑誌を買った人はいるか? と尋ねたら、挙手したのは20人中2人だけでした。コメントシートでもわざわざ「雑誌には興味がない」と書いてきた方が数名いるほど。まあ、それが現実ですよね。
クレカ表現規制か DNPなどの海外向けマンガ配信、オンラインサービスを終了へ〈ITmedia NEWS(2025年10月3日)〉
あれまあ……お疲れさまでした。少し調べてみたら、StripeのアカウントがBANされるのでPayPalへの切り替えを推奨するという趣旨のお知らせが2025年1月の時点で出ていました。StripeもPayPalもどちらも決済処理は簡単なんだけど、エロには厳しいことでわりと有名だと思うのですが。なぜ他の手段を使わなかったんだろう?
出版のオーバーラップHDが東証グロース上場 永田勝治社長「IP創出、効率よく」〈日本経済新聞(2025年10月3日)〉
対株主向けの発言なんでしょうけど、IPの創出が「効率よく」できるんでしょうかね? 小学館、集英社、講談社はもちろん、上場しているKADOKAWAでさえ、とにかく愚直に「裾野広ければ頂き高し」を徹底しているように思うのですが。
技術
生成AIによるヤフトピの記事要約機能の提供を開始しました〈news HACK by Yahoo!ニュース(2025年9月30日)〉
OpenAIのAPIを使った自動記事要約機能。とりあえず現時点では、ヤフトピに載った記事だけ対象になるようです。こういう3行まとめって、ライブドアニュースの「ざっくり言うと」が元祖でしょうか。いつからやってたっけ……と思い調べてみたら、2012年からでした。その調査の副産物で、2023年からはライブドアニュースの要約もAIで自動生成するようになっていたことを知りました。そういう時代か。
そういえばインプレスは、Watchで一時期提供していた「AI要約」機能をやめてしまいましたよね。ヤフトピみたいな場所だと、またちょっとニーズが違うのかしら。ユーザー行動にどんな変容が起きるか、少し興味があります。これら国産サービスと比較すると、Google検索の「AI Overviews」は無駄に長い気がしてきました。3行くらいだと、出典記事への誘導が促進されるかも?
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雑記
土曜日、お昼を食べたあと眠気に誘われ、1時間だけ仮眠することに。ところが起きたら真っ暗。21時になっていました。目覚まし時計はセットしてあって解除もされていないのに、ちゃんと鳴らなかったようです。壊れちゃったのかな。買い替えねば。午後にやろうと思っていたことが吹っ飛びましたが、いい休息になったと思うことにします。(鷹野)