業績以上に、資料が伝えること ~ トーハン日販の中間決算資料から見えた発信力の差

日販グループホールディングスとトーハンの上期中間決算報告資料
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 日販グループホールディングスとトーハンの上期中間決算報告資料について、出版ジャーナリストの成相裕幸氏にコラムを寄稿いただきました。


 11月20日、出版取次大手の日販グループホールディングスとトーハンの、2019年上期中間決算が発表された。すでに報じられているように、日販は前年同期比で半減したものの、純利益1億3800万円(前年同期は3億7300万円の黒字)を確保。いっぽう、トーハンは2000年以来中間以来となる最終赤字で、純損失2億0500万円(同8600万円の黒字)となった。物流費の高騰や、ドライバーの確保ができず出版輸送の維持が困難になり、地方によっては店着(商品が書店店頭に着く日)が首都圏よりも2日遅れとなるなど、「出版流通のインフラ」は危機から抜け出せない状況にある。今回の決算はそれを如実に反映している。

 だが私が気になったのは、その数字以上に、発信する情報の量と質だ。トーハンの決算資料を一読して思わず「これだけ?」と声が出てしまった。全部で8頁。日販は倍以上の17頁。頁数だけを比べることに意味はあまりないが、よく読みこむと明らかに、この決算書で業績以上に何を伝えようとしているか、明確な差があった。

「痒い所に手が届かない」トーハン決算資料

 トーハンの決算資料は、むろん、一般的な決算書の体裁は整っている。売上高から中間純利益まで前年同期比との比較があり、書籍、雑誌、コミック、MM(マルチメディア)商品の商品別売上金額、返品率の推移とその増減の説明は、ある。今期から新たに連結対象、持分法適応対象となる書店を、一覧にもしている。が、必要最低限のポイントのみの記載で、比較できる実績数字が少なく、記者からすると「痒い所に手が届かない」決算資料だ。

 例えば、出版卸以外の不動産、フィットネス、介護の各事業セグメントの収支の記載がない。事業規模からすると本業の出版卸と比べるほどではないのかもしれないが、介護は参入からすでに5年経っている。当然毎年、収支の増減はあるだろう。本業とは全く異なる業種ゆえ、その経営がどうなっているのか気になるところだが、その現状をうかがうことはできない。

 他にも、物流系子会社と書店系子会社への言及はあるが、文章の中で数値の実績が書いてあるのは、後者の出閉退店推移と現在の店舗数のみ。新文化オンラインには、物流系子会社4社のうち3社が赤字、書店系子会社では13社のうち9社が赤字とあるが、これは記者レクのなかで出てきた数字だろう。連結貸借対照表から子会社全体の実績をおおよそ推計することはできるが、近年書店を傘下におさめる事例が目立つゆえに、記載がないことは不十分と感じる。

 また、同社の中期経営計画「REBORN」についてもそれは言える。「進捗」とあるのに、具体的にいつの時点からどれほど進捗したのかの、定量的に比較できる数字が記されていない。文章末尾も「検討している」「予定している」「事業拡大を図る」「次段階への計画を策定する」などぼんやり。総じて簡素という印象をもつ。

何に注力したかの説明を尽くしている日販

 いっぽう日販は、個々の事業セグメントの売上高、営業利益、経常利益、その理由を短くても4行、その他は15行近くつかって説明している。商品や施設の写真、折れ線グラフも入れていて、視覚的につかみやすい。補足資料で4期前までの主要経営指標を載せ、近年の推移もつかみやすい。トーハンは直近の前期のみだ。

 昨今、業界内で最も話題となっている出版輸配送問題についても対照的だ。日販は運賃高騰の原因や対応について「店着までのリードタイム」「搬入タイミング」「業量の平準化」などのキーワードで解説。さらに、冊あたりの運賃/平均定価前年比、平均日別搬入数のグラフ入れて4頁にわたって載せている。

 さらに「出版流通は崩壊状態」、出版社への運賃協力金の交渉経過を「2019年度上半期には新たに、雑誌で34、書籍で37の出版社にご理解・ご協力をいただきました」と記す念の入れようで、現状に対し自社が今期何に注力したかの説明を尽くしていることがわかる。

 対してトーハンは出版輸配送についての言及は8行程度。そのうち日販との物流協業について2行が割かれているにすぎない。トーハン、日販の協業検討の発表がちょうど1年前の2018年11月。2019年4月により具体的な方向性は示されたものの、今回の決算資料の文章とほぼ変わるところがない。厳しい見方をすれば、このリリースが出てからの半年間、いま出版社と書店が最も関心をもっている問題について公表できるだけの進捗がなかった、と言っているに等しい。

 「新文化」10月31日発行号「社長室」には、トーハントップが書店経営者の会合で「過去に捉われた発想の延長線上に出版流通の未来はない」と発言したと書かれている。しかし、少なくとも、決算資料からはその発言の「切迫度」が伝わってこない。業界以外の人ならば、なおさらだろう。

 決算書は第一に、株主に対して説明責任を果たすものとしてある。次に誰にむけて伝えるかは、どのステークホルダーを重視するかによって変わるだろう。そのうえで両社の決算資料を読み比べると、数字の開示以上に、どちらが外に開かれているのかは一目瞭然だ。

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著者について

About 成相裕幸 20 Articles
1984年いわき市生。明治大学文学部卒業。地方紙営業、出版業界紙「新文化」記者、「週刊エコノミスト」編集部を経てフリーランス。会社四季報記者として出版社、書店を担当。
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