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2024年1月28日~2月3日は「NHK記事閲覧も要費用?」「Threads日本の利用者1000万人超」「ドラマ化マンガの作者急逝」などが話題に。広い意味での出版に関連する最新ニュースから編集長 鷹野が気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントしてあります(ISSN 2436-8237)。
【目次】
政治
「AI規制はイノベーションを阻害する」は本当か? ChatGPTが変える世界とは 佐藤一郎教授に聞く〈弁護士ドットコム(2024年1月28日)〉
生成AIと規制を巡る現状についてよくまとまっている記事――なのですが、タイトルにある「AI規制はイノベーションを阻害する」は本当か? については疑問を感じました。先週も書いたように、生成AIは2022年に突然発生したわけではなく、もう何年も前から多くの方がその技術の恩恵を享受している状態です。いま問題視されている生成AIだけを狙い撃ちで規制強化するのは大変困難で、たとえば「Google翻訳」や音声からの自動文字起こしなど、AIを活用した別の既存サービスまで巻き込まれてしまいます。それはまさに「イノベーションの阻害」そのものではないでしょうか。
NHKネット配信は「受信契約の対象。相応の費用負担をお願いする」〈AV Watch(2024年2月1日)〉
ネットサービスの必須業務化に伴い、閲覧には費用負担(受信料)が必要という方向性が示されました。「NHK NEWS WEBなどの報道サイト等も対象」とのことです。既契約者は追加費用なしで利用可能なのであれば、妥当だと感じました。少なくとも、テキストニュースの配信を縮小する方向性より、ずっとマシ。
もしこの形で決まれば、価値ある情報の多くはペイウォールの向こう側にある状態に拍車がかかることになるのかも――と思ったのですが、記事の後半に「いわゆるペイウォールのような、料金を支払う事で初めて利用できるかたちとは異なる方法で実施する想定」とあり、どういう実装になるかはまだ見えません。
仮に「いわゆるペイウォールのような」実装なら、これまで無料で誰もが閲覧できていた良質な情報がウォールド・ガーデンに閉じ込められることになります。そのぶんは、恐らく他のメディアがある程度は代替していくことになるでしょう。NHKに食われていたトラフィックを取り戻すことができるわけで、日本新聞協会は「してやったり」なのでしょうけど……どういう実装になるんだろう?
社会
「紙の書籍」音読サービスが挑む「読書バリアフリー」な世界 漢字の読み間違いなど苦労重ね〈弁護士ドットコム(2024年1月29日)〉
JEPA電子出版アワード2023大賞を受賞した読書支援サービス「ユアアイズ」関係者へのインタビューです。想隆社の山本幸太郎氏がコメントしています。HON.jp News Blogで記事化した2020年11月のサービス発表時はポニーキャニオンによる運営で、サービス名もアルファベットの「YourEyes」でした。それを、開発を行なってきたスプリュームが2022年5月に事業を引き継ぎ、カタカナ「ユアアイズ」へ改称、リトルスタジオインクおよび想隆社と連携してサービスを展開しているという経緯があります。
また、ポニーキャニオン時代には「著作権法第37条第3項に立脚しない」という説明が少し物議を醸していましたが、現在は、どのような方を「読書が困難な方」としているかは「図書館の障害者サービスにおける著作権法第37条第3項に基づく著作物の複製等に関するガイドライン」別表2の「利用登録確認項目リスト」に準じているという説明が成されるようになっています。
漫画家・芦原妃名子さんが死亡 「セクシー田中さん」など連載〈日テレNEWS NNN(2024年1月29日)〉
最悪の事態が起きてしまいました。亡くなられた芦原妃名子氏に心から哀悼の意を捧げます。急な訃報に接し心がざわついた方は、いのち支える自殺対策推進センター「こころのオンライン避難所」にアクセスしてみてください。
こちらの団体や厚生労働省からの呼びかけもあってか、私が見た範囲のマスメディア(主にウェブ)ではこのように相談窓口などに関する情報を合わせて掲載しているケースが大半であったように思います。少なくとも以前とはだいぶ変化が感じられました。
そのいっぽうで、SNSは酷い有様でしたが……。
原作をリメイクする場合に「改変」はどこまで許されるのか?〈シュッパン前夜 編集部(2024年2月2日)〉
関連で。タイトルを読んで「改変がどこまで許されるのか? は、原作者次第でしょ……」と思いつつ読み始めたら、本文は実に真っ当な意見でした。今回の件は、私も「コミュニケーションの欠如」が根本的な問題であると思います。タイトルがズレているのが惜しい。
『セクシー田中さん』“改変”問題に漫画協会理事長「里中満智子氏」が緊急提言 「脅してくるような人にだまされないで」〈AERA dot.(2024年2月3日)〉
もう一つ関連で。4ページ目の「著作権法で、原作者の権利はきちんと保障されています」以下が最重要でしょう。原作者は決して弱い立場ではありません。以前、「出版社に著作隣接権を」という主張が成されていたとき、反対派の漫画家・赤松健氏(現・参議院議員)が「日本では作者最強」と仰っていたのを思い出しました。
「日本では作者最強」です。出版社だって、独占出版権を3年くらい作者にもらっているだけの存在なのです(双方が何も言わなければ自動更新)。特に漫画はページ全体が作者の元に戻ってくるので、何度でも同じ本を出すことが出来ます。著作権の売却でもしない限りは、延々と「最強の生物」なのです。
— 赤松 健 ⋈(参議院議員・全国比例) (@KenAkamatsu) October 29, 2011
2011年……このときからもう12年以上経ってるのか!
ニールセン、デジタルコンテンツ視聴率のMonthly Totalレポートによる ソーシャルメディアジャンルの利用状況を発表 | ニュースリリース〈ニールセン デジタル株式会社(2024年1月30日)〉
説明から抜けていますが、利用者数が最も多いのが「LINE」であることから分かるように、「日本における」ソーシャルメディアの利用状況です。特筆すべきは「Threads」の利用者数がすでに1000万人超であること。サービス開始が2023年7月ですから、たった半年でここまで成長したことになります。
とはいえまだ「X(旧Twitter)」や「Instagram」の6分の1なので、「いますぐ代替できる」状態とまでは言えません。ただ、数年後を見据えたとき有力なのは確かです。ちょっと手間かもしれませんが、いまのうちから「Threads」を含めた複数のSNSを並行運用しておくほうが良いでしょう。
書店・図書館等関係者における対話の場の開催について | トピックス〈一般財団法人 出版文化産業振興財団(2024年2月2日)〉
昨年10月に公開で開催された「書店・図書館等関係者における対話の場」の資料が公開されています。2回目以降は非公開で開催されているのでどうなっているか気になっていたのですが、このお知らせの末尾に、第2回以降の資料は日本図書館協会の公式サイトで公開されていることが記されていました。
書店・図書館等関係者における対話の場〈日本図書館協会〉
こちら、第3回の議事要旨がまだ「準備中」なのですが、第2回の議事要旨(案)を読む限り、作家・出版社・書店側からよく声の挙がる「複本問題」は、おかしな方向には進んでいないようです。むしろ「公共図書館との連携事例の共有」や「書店在庫情報プロジェクト」など、前向きで建設的な議論が行われている様子が伺えます。安心しました。
経済
英国の「ガーディアン」が米国でも記録的な寄付を集める、その成功の背景〈Media Innovation(2024年1月27日)〉
これはすごい。寄付型モデルの成功事例であるイギリス「ガーディアン」紙が、アメリカでの寄付キャンペーンでも大成功しているそうです。HON.jp News Blogもあやかりたい。「広告のない読書(閲覧)」は、うちも無料会員登録だけで可能になっているんですけどね。思ったほど登録は伸びていないのが現状です。悔しい。
JPO 独立系書店の出版物情報取得を支援 「BooksPRO」利用可能に〈文化通信デジタル(2024年1月30日)〉
HON.jpは出版者記号を取得しているので、出版物情報を入力するほうの「JPRO」は利用できます。しかし、書店が利用する「BooksPRO」は利用できません。リリースを見て「もしかしてネットショップをやっていれば登録可能?」と思ったのですが、「実店舗で営業」という条件がありました。残念。
独立系すなわち「既存の出版流通システムに頼らない」というのは、二次卸や直接取引が想定されているようですね。「共有書店マスタ」に登録されるので、店舗数推移などのデータにも大きな影響がありそう。まあ、もちろん区別できるようにはすると思いますが。
noteで1年間に数千万円の収益!『近代麻雀』が活路を見出した有料記事のサブスク販売とは〈note編集部(2024年1月30日)〉
これもすごい。アイキャッチに書かれた「noteのおかげで生き延びています」という編集長の言葉が目にしみます。麻雀漫画誌というニッチな領域でも、サブスクが成り立つのですね。いや、ニッチな領域だからこそでしょうか。麻雀漫画の読者層でも「端末で読む」ことへの抵抗感や、決済手段のハードルを容易に乗り越えられるようになってきている、ということなのでしょう。素晴らしい。
TikTokフォトモードで漫画の売上3.5倍に!“漫画好き”を増やす、出版社の新たな試みとは?〈TikTok Japan【公式】ティックトック(2024年2月2日)〉
これもすごい。コアミックスの成功事例です。TikTokに動画ではなく「フォトモード」という機能があるのを知りませんでした。漫画を「端末で読む」ことが当たり前になってきたからこそ、という気もしますが、紙の売上にも波及しているそうです。素晴らしい。
技術
2024年1月31日 『小学館世界J文学館』:紙+デジタルで、子どもに「世界名作」を届ける〈日本電子出版協会(2024年1月31日)〉
JEPA電子出版アワード2023「スーパー・コンテンツ賞」を受賞した『小学館 世界J文学館』を作った方々のセミナーです。動画と資料が公開されています。
私はこの本、買ってはいるのですが未開封のまま書棚に置いてあるため、実は未体験でした。そのため、実はビューアに「Bibi」が使われていることを知らず、登壇者に開発者の松島智氏の名前を見つけて驚きました。過去3回の受賞歴のうち「今回が一番うれしい」とのこと。おめでとうございます。
ルビの3段階切りかえ機能の実装方法と、音声自動読み上げで発生する誤読を減らす方法について、説明を聞いて「うわぁ……」と思ったのは私だけじゃないはず。でも他にもっと良い方法があるか? と言われると、たぶん「ない」んですよね。クオリティを上げるには手間をかけるしかない。力技です。脱帽。
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日刊出版ニュースまとめ
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雑記
先週、SNSが酷い状態になることが容易に予想できてしまったため、少しのあいだ距離を置きました。業務上、まったく見ないわけにはいかないため、閲覧は最小限とし、とにかく48時間は発信を控える、というやり方です。誰かに傷つけられることより、誰かを傷つけてしまうほうが怖かった(鷹野)
※本稿はクリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 4.0 国際(CC BY-NC-SA 4.0)ライセンスのもとに提供されています。営利目的で利用される場合はご一報ください。