[献本先着5名] Summer Time

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湊 令子さんから「Summer Time」の献本です。
湊さんからの献本は2回目です。今回は短編小説を先着5名の方へ向けて献本です。

Summer Time
Summer Time

湊 令子さんからコメント

「SummerTime」湊令子(短編小説=純文学系統 横書き 400字換算70枚)銀杏散りやまない初冬の午後、降りしきる時雨が並木の梢を揺すって、雨を含んだ黄色い葉を舗道一面に散りしいた。アルフは、片手に差した小さな傘の中で、もう一方の腕を守るようにタオコの肩にまわした。「ああ、大空を自由に翔びたい。わかるかい、君に」タオコは閉じていた目をあけ彼を見上げた。吹きつのる風が木々を騒がせ、横なぐりの冷たい雨が小さな赤い傘に身を寄せる二人の背を濡らした。……故国には、この痩せた一人の男の居場所すらないのか。
 6月の雨は、ここ数週間やむことなく南部の丘陵地帯を湿らしつづけている。「まるで、梅雨みたい」そう、例年ならアメリカ東南部のこの地方は、さわやかな好天がつづいていいはずなのだが。書斎のマックは飽きもせず、トースターを飛ばしつづけている。<トースターが飛んでいても故障ではありません> 警句は、なにを告げたいんだろう。いったいこの家には、いくつの世界が共存しているのだろうか。世界人といえば、格好はつくだろうが、本当は故郷喪失者の寄り合い所帯にすぎないのではないか、いつまでたっても自分が何国人であるのか、いまだに納得できないでいる中年の東洋系アメリカ女と、もろに国を追われた中近東の難民と、その国籍の異なる子どもたち。どんな糊を使ったって貼り合わせることなど不可能な家族という共同体の幻想。「だれもが平和を求めているのに、平和はなぜこないのでしょうか」……アルフは祖国を捨てたのではなかったのか タオコはコーヒーを運びながら、夫の沈痛な表情を不思議なもののように見やった。夏時間の遅い夕暮れが、ようやく窓外にしのびよってきた。(1995作 改稿)

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