新型コロナウイルスへの対応を迫られるいま、未来の出版を考える

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 新型コロナウイルス(COVID-19)により、出版産業がどう変わりつつあるのか、未来はどうなるのかを考察した記事をロサンゼルス・タイムズが載せている。

 アメリカの出版産業の中心地であるニューヨークで感染規模が急激に拡大しており(オーバーシュートとは言わない)、出版は不要不急の産業とされ、多くの編集者やエージェントが休職か自宅勤務となっている。

 だが、都市閉鎖で自宅に閉じこもらざるを得ない読者が大勢いることを考えれば、これは好機ではないのか? Eブックやオーディオブックの売り上げが伸びており、アマゾンなどが宅配を続ける限り紙の本も売れる。

 短期的に懸念されるのはインディペンデント書店の先行きで、多くがレイオフや閉店を余儀なくされているものの、ニューヨークのストランド書店のオーナー、ナンシー・バスは「私たちは今こそ世界で求められているリソースを提供しているのだ」と発信した。

 取次業は「エッセンシャル(不可欠な)」サービスとして営業を続けているので、書店が電話やオンラインで注文を受け、配送手配をすることはできるが、今のところ「売り上げが伸びた」という報告は聞かない。

 全米書店協会(ABA)はロビイストとして政府に全国の書店を救済するよう嘆願する一方で、オンラインで本を買うことによって地元の書店を応援できるよう、再ローンチした Bookshop.org へのアクセスが急増しているという。アマゾンがコロナウイルス対策の商品を優先し、本の発送を後回しにしていることも追い風となっているようだ。

 楽天Koboのマイケル・タンブリンCEOによれば、Eブックやオーディオブックがクリスマス商戦並みの数字を見せているという。これは他のデジタル・リテーラーもおなじだろう。全米の図書館も、閉館しているところはEブックの貸し出しにリソースを振り分け始めた。

 課題はこれからどのように本を出版していくか、だ。アメリカの書籍出版産業は入稿から刊行まで時間がかかる分、今語られるべきコンテンツが出遅れるという問題を抱えている。その一方で、自宅で過ごす時間が増えた分、本を書く人が増えるだろうことも容易に想像できる。

 だがこの騒ぎでいちばん得をする「出版社」は、アマゾンだろうとこの記事は締めくくっている。

参考リンク

ロサンゼルス・タイムズの記事

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著者について

About 大原ケイ 289 Articles
NPO法人HON.jpファウンダー。日米で育ち、バイリンガルとして日本とアメリカで本に親しんできたバックグランドから、講談社のアメリカ法人やランダムハウスと講談社の提携事業に関わる。2008年に版権業務を代行するエージェントとして独立。主に日本の著作を欧米の編集者の元に持ち込む仕事をしていたところ、グーグルのブックスキャンプロジェクトやアマゾンのキンドル発売をきっかけに、アメリカの出版業界事情を日本に向けてレポートするようになった。著作に『ルポ 電子書籍大国アメリカ』(2010年、アスキー新書)、それをアップデートしたEブックなどがある。
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