出版業界関連の気になるニュースまとめ #323(2018年5月14日~20日)

まとめ

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 先週は「柔軟な権利制限の改正著作権法成立」「海賊版サイトブロッキング、総務省が事前に直接要請していた」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年5月14日~20日分です。

海賊版サイトを大手出版社告訴 「漫画村は著作権侵害」〈朝日新聞デジタル(2018年5月14日)〉

海賊版サイト:「漫画村」捜査に着手 著作権侵害容疑 福岡県警など〈毎日新聞(2018年5月14日)〉

 朝日新聞には「告訴したのは講談社で、他の大手出版社も告訴の準備をしている」とありますが、毎日新聞には「著作権を持つ漫画家から委任を受けた形で講談社など4社は昨年、漫画村に著作権を侵害されたとして、容疑者不詳で福岡県警や大分県警などに刑事告訴した」とあり、どっちが正しいのか。あと、「委任を受けた」というのはなぜなのか。2015年1月施行の改正著作権法で、電子出版権を設定できるようになっている(つまり出版社もデジタル海賊版の紛争当事者になれる)はずなのですが。不思議。委任を受けて告訴できるなら、改正必要なかったのでは?

「漫画村」20代男性関与か 海賊版サイト、関連に形跡〈朝日新聞デジタル(2018年5月15日)〉

 「朝日新聞社がネット専門家の協力を得て調べたところ」以下が微妙な言い回しなのですが、「セーシェル共和国の企業の名義で登録」などの情報は昨年8月時点ですでにCheena(ちーな)氏の「無能ブログ」で公開されていた情報と思われます。

ゴマブックスの電子書籍・コミックが、配信5年で累計1,680万ダウンロードを突破! 全8,500作品以上の中から最も多く読まれたタイトルは「星の王子さま」(著:サン=テグジュペリ)〈ゴマブックス(2018年5月16日)〉

 ゴマブックスは異様にプレスリリースが多いわりにニュースになることが少ないのですが、これはピックアップしておきましょう。5年間で累計8500点、1680万ダウンロード。平均すると1点あたり約2000ダウンロードです。これは立派な数字と言っていいのでは。書籍が1350万ダウンロードなのに対し、コミックは330万ダウンロードというのは興味深い。公式サイトをざっと調べたところ、コミックの配信点数は1450点くらいのようです。

カドカワ川上量生社長が語る、サイトブロッキングの必要性〈日経 xTECH(2018年5月16日)〉

 NTT鵜浦社長が「NTTを訴えていいかと相談があった」と言っていた件、相談をしたのはカドカワ川上量生社長でした。3ページ目の「記者の視点」がわかりやすくまとまっていて良いです。電気通信事業法上の「通信の秘密」を守る法益が、直感的に理解しにくくなっている点は、確かにその通り。

「漫画村」に対して、講談社はなにをしてきたのか?〈BuzzFeed(2018年5月17日)〉

 講談社・広報室室長 乾智之氏による回答。サイトブロッキングが唯一の手段とは思っていないとのこと。この1年で削除要請は17万件以上出しているそうです。と同時に、収入源への対処が充分でなかったことも認めており、恐らく今後、広告主・代理店・広告ネットワークへの対策が強化されるものと思われます。

 法整備の要望については、「リーチサイト規制」はともかく、「ダウンロード違法化の漫画への適用」は、漫画だけでいいの? と言いたくなります。「(違法アップロードである)事実を知りながら行う場合」の要件を満たすためには、違法アップロードかどうかをユーザーが判別できるようになっている必要も。まず、正規版を見分けられる手段の提供を、早期に実現してください。

書籍全文をデータ化、検索容易に 改正法成立、著作権者の許諾不要〈共同通信(2018年5月18日)〉

 「柔軟な権利制限」として議論が続けられてきた著作権法改正が、ついに成立。文科省による概要と新旧対照表などはこちら

 ちなみに改正案が閣議決定されたとき、読売を除く新聞各社と時事通信は「デジタル教科書」だけをピックアップしているのに対し、共同通信は「書籍の全文検索サービス」をメインでとりあげ、NHKは「人工知能の学習のため」がメインになっていました。読売は報道なし。

 共同通信は今回も同じで、毎日は共同のまま、産経は「書籍の全文検索サービス」と「教育ICT」対応の2本、NHKはやはりAI利用が中心でした。そして読売・朝日・時事は現時点で報道なし(※いずれもウェブ上でチェックしたので、紙面には載っているかもしれません)。なんなんだこのスタンスの違いは。

海賊版サイトのブロッキング、総務省が政府決定前に通信3社に実施要請〈日経 xTECH(2018年5月18日)〉

 自主的な取り組みであって「要請はしていない」というスタンスだったはずなのに、実は事前に直接訪問して要請していた事実が発覚。「サイトブロッキングを実施しても行政指導することはなく、通信の秘密の侵害で訴えられても政府が責任を負う旨を説明し、対応を求めた」そうです。憲法21条違反。

 中村伊知哉氏が当初「政府は法的リスクを負い、ゴーサインを出す」と言っていたのに、

 NTTがブロッキングの方針を打ち出したあとに「現時点でのブロッキングは緊急避難の要件を満たしそうにない」とトーンダウンしたのを思い出します。

TPP11の承認案 今国会で成立へ〈日本経済新聞(2018年5月18日)〉

 これで著作権保護期間延長が確定……のはずなのですが、トランプ大統領がTPP復帰を検討という報道もあり、TPP11がご破算になる可能性も微レ存?

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著者について

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HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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