プラットフォームは果たして何を寡占しているのか? ~握られる5つのリソース~

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骨董通り法律事務所 for the Arts
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 本稿は、クリエイティブ・コモンズ 表示-非営利-改変禁止 4.0国際(CC BY-NC-ND 4.0)ライセンスに基づき、骨董通り法律事務所 for the Arts 弁護士 福井健策氏のコラムを転載しています。


プラットフォーム寡占の影響とその歯止めをめぐる議論が熱い。意欲的な有識者会議の中間整理に合わせて読売新聞は連載「岐路 巨大IT」を開始し(6日~)、第1回では筆者もコメントした。取材の際に「プラットフォーム寡占というが、一体彼らは何を寡占しているのか」を改めて考えたので、メモ的にまとめておきたい。

各種報道や検討では、個人情報など膨大なデータが集まっている点がまずは挙げられる。これは全くその通りで、加えていうと、お金も明らかに集まっている。図は、もはや見慣れた感もある企業時価の世界ランキング。2018年第3四半期終了時のものだ 。

1 アップル 1,091,000
2 アマゾン 976,650
3 マイクロソフト 877,400
4 アルファベット(グーグル) 839,740
5 バークシャー・ハサウェイ 523,520
6 フェイスブック 473,850
7 アリババ 423,600
8 テンセント 388,080
42 トヨタ自動車 180,925
(単位:100万米ドル)

ご覧の通り、世界の上位8位までをほぼプラットフォーム勢が独占している。1位は不動のアップル。2位に躍進を続けるアマゾンが入り、以下マイクロソフト、グーグル、5位はしばらくフェイスブックの指定席だったがご存知の通りちょっと不調で(それでも時価総額は昨年同期より20%も高い)6位に落ち、代わりにバークシャー・ハサウェイ。これは久々の非IT企業のトップ5返り咲きだが、機関投資家なので性格が他と異なるだろう。そして中国勢のアリババとテンセント。トップ5プラットフォームは全て米国西海岸発だ。

「そんなものはすぐ入れ替わるよ」とも言われたが、最近はまさにネットワーク効果で、かなり上位固定性が強い。日本のトップはといえばトヨタ自動車で、42位。不調のフェイスブックのだいたい4割以下の企業価値だと、どうやら世界の機関投資家たちは見ている。

なかなか涎が出る、じゃなくて目を見張る事態だが、「富の寡占」は結果であって原因ではない。

では、彼らがもともと寡占に成功したものとは、何だろうか。

①第一には「人々のアクセスと滞留時間」である。世界中のウェブサイトでアクセス数の不動の1位はグーグル、2位はその子会社のYouTubeだが、両者を合わせると月間アクセスはのべ664億5000万人(9月SimilarWeb調べ)。後者だけで一昨年、視聴時間は1日10億時間を超えている。

もうね、数の感覚が「こち亀」の大金持の回並みにおかしい。従来、長いものの例としてはテレビの接触時間があったが、YouTubeだけでも日本の全テレビ局の総接触時間を合わせた3倍以上ある。それだけの人々が彼らのプラットフォーム上に滞在し、そこでコンテンツを見たりおしゃべりしたり物を買ったり移動履歴を残したり「いいね」したりしている。この滞留時間を今、世界のコンテンツホルダーたちが奪い合っているのだから、その覇者はグーグルであるとは言えそうだ。

②そしてここに寡占されるものの第二、「データ/コンテンツ」が集まって来る。ユーザーの視聴・購買・移動履歴やツイートやメールや「いいね」が、全て貴重なビッグデータである。これを活用して、滞在中の彼らにターゲティング広告をぶつければ、色々なものを買わせることも出来るだろう。視聴の好みに応じて新作ドラマの広告をぶつけ、移動履歴に応じて飲食店や旅行先の広告をぶつけ、見た健康系のページに応じて人間ドッグと保険と宗教団体の広告をぶつけるという、いつもたとえ話に出て来るアレである。

また、それだけの人々の惹きつけるためにプラットフォームは多くのコンテンツを集めようとする。ご覧頂いているのは世界最大の映像アーカイブ・YouTubeにおいて、史上もっとも見られた動画「Despacito(デスパシート)」だ。

昨年現れるやまたたく間に世界一に駆け上った。総再生回数はどれくらいか。なんと56億回を超え世界人口に迫っている。日本ではピコ太郎の「PPAP」が1億回を超えた際に話題になったが、実は世界では再生10億回超えの「ビリオン・クラブ動画」だけで既に100本以上ある 。(恐らく、ピコ太郎がすごかったのは再生回数よりも、「自分もやってみた動画」を彼らが許しそれが一気に世界に拡大した点だろう。)

筆者は先週、某新聞社での講演で堂々と「再生1位は『See You Again』」なんて紹介したが、調べたらとっくに抜き去られていた。もう、腹をかっさばいてお詫びしたい。

だが、本当に印象的なのはこうした再生回数以上に、集まっている動画の数だろう。一体何本あるのか。これはYouTube自身発表していない(「年に2億時間超のペースで増加中」という、頭がクラクラする説明だけだ)。数年前に20億本というシンクタンク推計を見たが、恐らく今はそれより多いだろう。YouTubeだけではない、「グーグルニュース」は無数の数のニュース見出しと抜粋を集め、「グーグルブックス」は世界3000万冊の書籍を電子化して全文検索を提供する。ヤフー傘下のFlickrには画像100億点以上が集まる。

もはやメガではない、文字通り「ギガコンテンツ」の時代に我々は生きているのだ。集まるユーザー自身も動画・写真・ツイートと膨大なコンテンツを発信し、またその大量のユーザーを目当てにコンテンツ事業者はプラットフォームに集まらざるを得ない。

③これが第三の寡占、「アルゴリズム/AI」につながる。今やコンテンツ/データはあまりに膨大なので、我々は本屋さんのように端から全部見て回って欲しい情報を探すことはできない。アルゴリズムに頼る。典型例が検索結果のランキングだ。だいたい1ページあたり10点程度の検索結果が並ぶ時、2ページ目まで行って何かをクリックするユーザーは全体のどの程度とお考えだろうか。少ないことは間違いなさそうだが、8%程度というデータもある。つまり9割以上の人は、現実には上位10位までしか見ない。上位3位によるクリック寡占率は更に高く、60~70%とされる。

悪く言えば、下位は存在しないのと一緒なのだ。リコメンドも基本的に同じだろう。そもそも検索する時にも、予想候補ワードを使うユーザーは相当多いはずだ。「福井健策」と入力して「福井健策 ピアス」と候補が出れば、どう考えてもどうでも良いのについクリックしてしまうパターンだ。

これは、果たして誰が「そう選んだ」ことになるのだろう。表示される候補ワードで調べ、リコメンドされた上位3つからどれかを選び、そしてその先の情報に恐らくはかなり影響されて、買う本や行くお店や留学すべき大学や投資すべき会社や投票すべき政策を決める。うん、確かに素晴しく便利だ。ない生活は難しい。

では我々の思考をずい分肩代わりしてくれている、この「お勧め」はどう決まるのか。アルゴリズム/AIで自動的に。しかも幾分パーソナライズされて。そこまではわかっている。アルゴリズムの開発にはビッグデータが必要で、よって膨大なデータを握るプラットフォームがAIの開発面もリードする。これも指摘されて久しい。

ではどんなアルゴリズムか。ブラックボックスだ。そこは決して開示されない。営利企業なので、アクセスが増え利潤が上がるようにはしているだろう。そこに様々な懸念が生まれる。いわば、「これは価値ある情報」「これはそうでもない」という「知の序列化の決定権」を、少数・域外の民間企業に握られてしまう懸念。その圧倒的な文化的・経済的影響力。恐らくこれがプラットフォーム対策に乗り出したEUの根源的な動機だ。ジャンヌネーが『グーグルとの闘い』で表明した危機感と言えるだろう。

④そして以上が、4番目の「情報のルール」の議論へと我々を導く。そもそもこうしたプラットフォームを利用するには彼らのアカウントを作らなければならない。その際には「利用規約」に同意する。規約は運営者が作り、通常は相当に一方的で、嫌だといえばサービスは使えない。営利事業である以上、ある程度は当然だ。

だが、ルールはこれだけではない。その現実の執行は多くの場合、アルゴリズムの形で自動化されている。漫画に裸体らしきものが書かれておりアダルトだと判別されれば、その画像は削除される。ことによるとアカウントが凍結される

かつて米New Yorker誌のFacebookページ閉鎖のもとになった漫画
かつて米New Yorker誌のFacebookページ閉鎖のもとになった漫画

アルゴリズムは情報社会の「法律」そのものだ。こうした「法律」を作るのはプラットフォームである。その内容は、規約として一部は公開されるが、それ以外の内規やアルゴリズムは公開もされない。実行も彼らが担い、しばしば自動処理される。異議申し立ての手続は一応存在するが、最終判断は彼らが行い、アカウントの削除も裁量で自由とある。不満でプラットフォームを訴えたい場合、通常、規約では彼らの本拠地があるカリフォルニアのどこかの郡の裁判所が指定される。(情報は当時だが、プラットフォーム規約全般の比較はこちらも参照)

これは何か。三権分立がないのである。立法・行政・司法が一元的に握られているのに近い。そして、当のプラットフォーム自体は特定国の法律には極めて縛られにくい存在だ。少なくとも、従来はそうだった。本国である米国での法律には気を遣うだろうが、IT企業の海外での行動を強く縛る意図が米国政府側に薄い。国益にかなうので当然だろう。対抗する歯止めとしてはジャーナリズム、そしてユーザー達の声だが十分からはなお遠い。この「超国家」の壁に何とか風穴を開けようとしているのがEUであり、今回の日本政府の動きと言えようか。

まとめたい。恐らくプラットフォームに寡占されるのは「①ユーザーのアクセスと滞留時間」「②データ/コンテンツ」「③アルゴリズム/AI」「④情報のルールメイク」「⑤結果としての富」であり、これらは相互に重複し表裏の関係にありそうだ。漏れや的外れな点はぜひご指摘いただくとして、そのどこに、どう切り込んで、どう自由と規制の最適バランスを探るのか。しかもマルチユーザー間では一方にとっての自由は他方にとっての規制になるという、情報社会では最近見慣れた光景の、そんなプラットフォーム達の秋である。

以上

転載元:著しく短縮して語る著作権延長問題の歴史と、これからどうなり、何をしていくのか 福井健策|コラム | 骨董通り法律事務所 For the Arts

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