出版業界関連の気になるニュースまとめ #329(2018年6月25日~7月1日)

まとめ

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 先週は「TPP11関連法成立で、著作権の非親告罪化と保護期間延長が確定」「漫画家個人がCloudflareに漫画村運営者の情報開示請求提訴」などが話題に。毎週月曜恒例の、出版業界関連気になるニュースまとめ、2018年6月25日~7月1日分です。

出版界は「軽減税率適用」のために「表現の自由」を手放すのか?〈Yahoo!ニュース個人(2018年6月27日)〉

安易な「有害図書排除」が与党に忖度した報道につながる理由〈Yahoo!ニュース個人(2018年6月28日)〉

出版物の軽減税率適用と「自主規制」 言論表現機関としての出版社は生き残るか?〈Yahoo!ニュース個人(2018年6月29日)〉

 植村八潮氏、怒りの3連投。政府が軽減税率をエサにして「有害図書」の排除を目論んでいるのに対し、やすやすと乗ってしまった出版業界に対する痛烈な批判です。軽減税率ってある意味、買収工作なのですよね。それで表現の自由が守れるのか? と。植村氏は出版学会の現会長でもあるので、こういう立場の方がこうやって声を上げてくれるのは非常に心強いです。

リクルートの校閲AIが驚異的な効果 検出率は人を超え数秒で完了〈日経クロストレンド(2018年6月29日)〉

 「校閲」という言葉を使っていますが、事実確認までやっているわけではないから、そこは「校正」と表記したほうがいいような気がします(校正/校閲という言葉の意味する範囲が人によって違ったり曖昧だったりするので、断定はできませんが)。ところで、校正支援ツールはジャストシステムの「Just Right!」や、講談社×NECの「SmartSourceEditor」とそれをベースに開発された出版デジタル機構「Picassol」の機能の一部として提供されているなど、すでにいろいろなものが世の中には出ているのですが、それらと比べてどうなのでしょうか?

TPP11関連法が成立 国内手続き完了、年内にも発効〈日本経済新聞(2018年6月29日)〉

 とうとう成立。内閣官房から出ている概要資料を確認したのですが、著作権関連では「保護期間が死後50年間から70年後へ延長」と「非親告罪化」が盛り込まれています。とくに保護期間延長は、アメリカ離脱に伴う凍結項目に入っているのですが、構わず前倒しで改正した格好です。今後、アメリカと交渉する際のカードを1枚、みすみす捨ててしまったことに。

 施行はTPP12と同じく「発効時」ですが、3月に署名した11カ国のうち6カ国が国内手続きを完了すれば60日後に発効なので、アメリカが離脱して発効しなかった前回のようなミラクルは、恐らくもう起きないでしょう。

 保護期間は、正確には亡くなった翌年の1月1日から起算されるため、年内発効すれば1968年(昭和43年)没から70年間へ伸びることに。たとえば『赤毛のアン』などの翻訳者である村岡花子氏は、1968年没なので2019年1月1日にPD予定でした。青空文庫では現時点ですでに33作品がスタンバイしていますが、2039年1月1日まで公開が延びることに。

 ……意気消沈していても、なにも始まりません。決まってしまったことを覆すのは難しいので、私はこの記事の最後に書いた“保護期間の延長によって今後ますます増えていくことが予想される、権利者不明の「孤児著作物(オーファンワークス)」対策がどの程度行われ、どの程度機能するか”に注力していきたいと思います。

 また、青空文庫はボランティアが自ら希望した作品がテキストデータ化されるので、公開されるのは人気作家に偏りがちという特徴があります。すでにPDになっている方々の作品でも、青空文庫に収録されていないものはまだたくさんあるのです。

「もう緊急避難に当たらない」どうなる海賊版サイト対策 中村伊知哉座長の胸中〈BuzzFeed(2018年6月30日)〉

 中村伊知哉氏へのインタビュー。以前のまとめでも指摘してますが、中村氏はすでに4月末時点で「政府は通信・ISPの動きは把握しておらず、要請もしておらず」「名指し3サイトは事実上死んでおり、現時点でのブロッキングは緊急避難の要件を満たしそうにない」と、今回と同じような発言をしています。ある意味フラットというか、変わり身が素早いというか。「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」はもう1人の座長が村井純氏なので、川上氏がブロッキング必要論を説いても、簡単には動かないのではないかと思われます。

漫画村問題でCloudflareを漫画家が提訴 国内でCloudflareについて争われるのは初〈ねとらぼ(2018年6月30日)〉

 出版社ではなく、漫画家個人による運営者情報の開示請求提訴。出版広報センターの言う「私たちは長年、海賊版サイトに対してできうる限りの対策を施してまいりました」という言い分に、CDNを訴えることは含まれていなかったようです。管轄は東京地方裁判所で、訴状は4月16日付で受理されているとのこと。現時点で、リーチサイトが権利侵害になり得るかどうかを、司法に判断してもらうという目的もあるそうです。先週のまとめでもピックアップしましたが、すでにインラインリンク(画像直リンク)は著作権の幇助侵害という判断が出ており、リーチサイトについても同様の判断になるものと思われます。第1回公判は9月予定。遅い……。

出版状況クロニクル122(2018年6月1日~6月30日)〈出版・読書メモランダム(2018年7月1日)〉

 毎月楽しみな、小田光雄氏の出版状況クロニクル。重箱の隅で申し訳ないのですが、「3. 大阪屋栗田」の件で気になる記述が。「実際に大阪屋栗田が発足したのは16年4月だから、結果としてわずか2年で講談社を始めとする大手出版社はギブアップし、楽天へ丸投げしてしまったことになる」とありますが、楽天のリリースによれば講談社、集英社、小学館、KADOKAWA、大日本印刷もまだそれぞれ9.5%ずつ出資しており、取締役や監査役にも人を出していますので、「丸投げ」というのは若干語弊があるような。また、その続きに「しかしさらに問題なのは、出資額は非公表だが、大阪屋栗田が楽天の完全な子会社となってしまったという事実であろう」という記述がありますが、会社法上「完全子会社」は100%出資のこと。楽天の出資比率は51.0%です。文脈的に、ミスリードを誘う書き方ではないかと思うのですが。

hon.jp DayWatchの事業継続を祝す〈マガジン航[(2018年7月1日)〉

 毎月楽しみな、仲俣暁生氏のEditor’s Note。今月は、NPO法人日本独立作家同盟による「hon.jp DayWatch」運営再開について触れていただきました。これから海外ニュースを担当いただく大原ケイ氏はもちろんですが、仲俣氏、まつもとあつし氏、竹元かつみ氏、藤井創氏にも、準備段階からいろいろご助力をいただきました。ありがとうございます。本格運用へ向け、きばっていきます。

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著者について

About 鷹野凌 789 Articles
HON.jp News Blog 編集長 / NPO法人HON.jp 理事長 / 日本電子出版協会 理事 / 日本出版学会理事 / 明星大学 デジタル編集論 非常勤講師 / 二松学舍大学 エディティング・リテラシー演習 非常勤講師 / デジタルアーカイブ学会 会員 / 著書『クリエイターが知っておくべき権利や法律を教わってきました。著作権のことをきちんと知りたい人のための本』(2015年・インプレス)など
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