HON.jp メールマガジン #330 2025年6月23日版 Subject: HON.jp メールマガジン #330 2025年6月23日版 From: HON.jp編集部 Date: 2025/06/23 6:01 To: honjp@aiajp.org 📕週刊出版ニュースまとめ&コラムやHON.jpからのお知らせなどをお届けします。 HON.jpロゴ HON.jp メールマガジン #330 2025年6月23日版 【自社広告】 2025年上半期の出版ニュースを振り返る恒例の番組開催! 前半はどなたでも無料でご覧いただけます。もっと深く突っ込んだ話が聞きたい(したい)場合は、後半まで参加できる有料チケットをお求めください。 https://honjp-newscasting-special2025fh.peatix.com/view 週刊出版ニュースまとめ&コラム #670(2025年6月15日~21日) 【写真】ブックファースト アトレ吉祥寺店  編集長の鷹野が、広い意味での出版に関連する最新ニュースから気になるものをピックアップし、独自の視点でコメントします。同じ内容を HON.jp News Blog のウェブサイトでも公開していますので、SNSでシェアいただく場合や、リンクを貼っていただく場合は、こちらのURLをご利用ください。 https://hon.jp/news/1.0/0/55894   【お知らせ】   ◆ HON.jp Podcasting「#36 悪文と読み手/ICタグで返品抑制?(2025年6月17日版)」を配信しました https://open.spotify.com/episode/1jtLLcTHP5pvCYFDQggMg1?si=ahGOyegJT4K0RRweAER6Jg    今回のテーマは2つです。悪文を出題して「読解力崩壊」と主張するのはおかしい、という話と、ICタグ装着で返品率を改善するには責任販売制も導入して正味を下げる(書店の粗利率を上げる)って議論をすべきですよね、という話です。「週刊まとめ(メルマガ)」に書いたことより、もうちょっと掘り下げてます。    この番組ではみなさまからのお便りをお待ちしています。番組の感想や「こんなトピックスを取り上げて欲しい」「最近こんなことが気になっているが、どう思うか?」「こんな本が面白かった」など、本に関わることならなんでも構いません。こちらのページから気軽にお送りください。   【政治】   ◆ 著作権保護とAI開発のバランスは?英国の識者に聞く裁判のポイント〈朝日新聞(2025年6月16日)〉 https://www.asahi.com/articles/AST6G3K4QT6GUHBI02ZM.html    英国の識者に聞いてもいいんですが、それがそのまま日本には当てはめられないことは指摘しておきましょう。ベルヌ条約の加盟国は、その範囲内であれば著作権法に独自の規定が設けられます。つまり、著作権法は国によってけっこう違いがあります。イギリスとアメリカは判例法主義の英米法、日本は成文法主義を基本とするドイツやフランスなどに近い大陸法と呼ばれる体系です。    つまりこの記事は、あくまでイギリスの話として読む必要があります。イギリスの著作権法にはAI学習なら著作権者に無断でできる権利制限規定がありますが、「非営利の研究目的であれば」という条件があります。    いっぽう、日本の著作権法(第30条の4)には、AI学習時の権利制限に「非営利」とか「研究目的」といった条件はありません。「著作権者の利益を不当に害することとなる場合を除く」という規定なので、仮に営利目的でも著作権者の利益を不当に害さないなら、無断学習しても問題はありません。単純に営利か非営利かだけでは、切り分けられないわけです。   ◆ ウェブトゥーン業界に朗報、韓国国会が「不正競争法」改正で動いた…アイデア盗んだら刑事罰へ〈AFPBB News(2025年6月16日)〉 https://www.afpbb.com/articles/-/3583447    タイトルを見てちょっと「ん?」と思ったのですが、不正競争(防止)法の話です。韓国でも、アイデアに著作権は発生しません。不正競争(防止)法は昨年にも「技術奪取の場合は最大5倍の懲罰賠償」という改正が行われているのですが、それでも足らないから刑事罰を科すことになったようです。厳しい。    その昨年の改正時に出ていたJETROの解説記事によると「事業提案、入札、公募など技術取引の過程におけるアイデア奪取行為、有名人の氏名・肖像などを無断使用するパブリシティ権の侵害など、不正競争行為」が該当するようです。日本と違い、パブリシティ権が明文化されているんですね。興味深い。   ◆ 小学館と光文社、フリーランス法違反で初勧告 報酬を期日内に払わず〈朝日新聞(2025年6月17日)〉 https://www.asahi.com/articles/AST6K1RGMT6KUTIL02FM.html    フリーランス法違反で初めての勧告は、出版業界でした。私はここでずっと注意喚起してきましたが、届いてなかったようで残念です。まあ、予想はしていましたけど。なさけない。「怒られたら改める」みたいな遵法精神でいいのでしょうか?   ◆ The Politics of Printing Comics in China(中国における漫画印刷の政治)〈Publishers Weekly(2025年6月20日)〉 https://www.publishersweekly.com/pw/by-topic/industry-news/publisher-news/article/98068-the-politics-of-printing-comics-in-china.html    前提を少し補足しておくと、アメリカの出版社はとくに絵入りの出版物(もちろん英語版)の多くを中国で印刷・製本して輸入しています(統計はこのあたりに)。中国国内で販売するわけではないのに、中华人民共和国新闻出版总署(GAPP:General Administration of Press and Publication)による検閲で差し止められてしまう場合がある、という記事です。    もちろん基本的には出版社の側も、政治的に中国で印刷したらヤバイような内容の本の傾向はわかってるんだけど、イレギュラーで引っかかってしまうことがあるそうです。書籍はトランプ関税の影響をあまり大きくは受けていないはずですが、iPhoneなどと同様、中長期的にはサプライチェーンを中国から他国に移していくという方向性になるかもしれません。   【社会】   ◆ AI誤回答の「ファクトチェック」や過去の動画拡散、LAデモはフェイク情報でいかに誇張されているか〈新聞紙学的(2025年6月16日)〉 https://kaztaira.wordpress.com/2025/06/16/la-protest-is-exaggerated-by-disinformation/    ロス抗議デモで、AI出力による捏造や誇張が氾濫しているそうです。そんなの生成AIが一般化する前から……とも思うのですが、量や質が段違いなのでしょう。   混乱の高まりの中で、「デモ参加者に報酬」という情報がネット上で拡散していた。    この引用箇所については「ニュース女子」事件を思い出しました。沖縄の米軍基地反対運動に対し、DHCテレビジョンが「反対派は弁当付きで、日当が支払われている」という虚偽情報を流した事件でした。そういうのが、今後はもっと巧妙になるんでしょうね。私自身も「いつ騙されてもおかしくない」と思っておかねば。   ◆ 日本で進む「読書離れ」外国人はどう見る?(TOKYO MX)〈Yahoo!ニュース(2025年6月16日)〉 https://news.yahoo.co.jp/articles/2c61850a65d5f8ab5c2ffc5e201ec0fdd65b4c39    また文化庁の令和5年度「国語に関する世論調査(PDF)」を安直に使ってミスリードする記事が出てきました。こういう記事に対しては何度でも言いますが、そもそも文化庁の資料には「調査方法の変更のため、令和元(2019)年度以前の調査結果は参考値となり、比較には注意が必要」ってしっかり書いてあります。なぜそれをすっ飛ばして過去の数字と単純比較しちゃうのか。バッカじゃねーの?   ◆ ChatGPT“ジブリ化”で問われている生成AI時代の著作権(3) カリフォルニア南北戦争と著作権の“神殺し” - 生成AIストリーム〈窓の杜(2025年6月18日)〉 https://forest.watch.impress.co.jp/docs/serial/aistream/2023376.html   著作権のシシガミの首(CCにおけるNC)をとってもAI時代の著作権を平和的に解決できるわけではないのに、今まで豊穣なIPを生み出してきた著作権の森に火をつけることで、制御権を奪おうとしています。    えーっと、なんというか……「CC神(シシガミ)」ってダシャレを使おうとするあまり、ロジックがおかしなことになってる感があります。    まず、クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CC)は、著作権者自らが任意に「こういう条件なら自由で使って良いよ」と宣言する事前許諾のライセンスです。法律ではありません。だからもちろん、CC発祥の地アメリカでも、すべての著作権者がCCを使っているわけではありません。    これに対し、フェアユースはアメリカの著作権法独自の規定で、 All rights reserved な著作物であっても一定の範囲なら自由に使えるという法理です。たとえば、ソニーのVTRは営利目的で販売された商品ですが、著作権侵害で訴えられた裁判では、家庭内録画はフェアユースに該当すると判断されています。    だから仮に、CC BY-NCが宣言されている著作物が営利目的で無断利用されても、裁判では「オリジナル作品の市場を減少させない」としてフェアユースが認められる可能性もあるわけです。単純に営利か非営利かだけでは、切り分けられないのですよね。    で、この記事の言う「シシガミの首(CCにおけるNC)」を“とる”というのが、どういう比喩なのか正直謎です。仮にNCを外して(とって)CC BYやCC BY-SAなどにした場合、「営利目的でも自由に使って良いよ」と事前許諾しているライセンスになります。そういう話?   ◆ ネット配信サービスは「NHK ONE」へ 新名称をワンワンとPR〈朝日新聞(2025年6月18日)〉 https://www.asahi.com/articles/AST6L25WWT6LUCVL04CM.html    ああ……結局、ずっと懸念していたとおりの動きに。放送以外の独自情報を配信していた「政治マガジン」「事件記者取材note」「国際ニュースナビ」「サクサク経済Q&A」「サイカル」「アスリート×ことば」の6サイトが2024年3月末に更新を停止して「NHK NEWS Web」に統合、それ以降は、放送素材をふんだんに使った特集記事が増えている印象がありました。   放送番組の内容を超える情報量の文字ニュースなどを無料で提供してきたが、改正法に基づくサービスをするために、これを廃止する。    つまり、NHKはこれまでウェブでは無料で文字ニュースを配信してきたわけですが、本業化に伴い「価値ある情報がペイウォールの向こう側」へ行ってしまうことになります。まあ、いちおう完全なペイウォールではなく、契約を促す「誤受信防止措置」で閲覧を邪魔する形になるようですが。あ、もしかしてそれって一般ウェブメディアの全画面広告と大差ないのかな?   【経済】   ◆ セブンネットとhonto連携 コンビニ受取と電子書籍一本化〈Impress Watch(2025年6月16日)〉 https://www.watch.impress.co.jp/docs/news/2023012.html    先週、ダイヤモンド・オンラインで「セブンが定期購読雑誌の店頭受け渡しと電子書籍のネット販売から撤退へ」というスクープ(独自)記事が出ていたのは把握していたのですが、大半がペイウォールの向こう側で「外部サイトへの引き継ぎ」がどこなのかわからなかったため、あえてスルーしていました。そのうち確報が出るだろうと思い。結局、相手は「honto」だったことが判明しました。最近「honto」は落ち穂を拾うような動きを活発にしていますね。良いことだと思います。   ◆ 『薬屋』日向夏、『リゼロ』長月達平の新作も メディアミックスの新形態「ラノベアニメ」の可能性〈Real Sound|リアルサウンド ブック(2025年6月18日)〉 https://realsound.jp/book/2025/06/post-2058111.html    縦型で5分間くらいのショート動画です。観てみましたが、アニメ調の3Dモデルを動かす&声を当てる人形劇みたいな感じ。提供側としては安価に製造できますが、受け手としては「安っぽい」印象が拭えないというのが正直なところ。それでも動画と声で提供したほうが、文字だけで提供するよりターゲットに届きやすいのかもしれませんが。   ◆ AIが促す脱キーワード検索 ウェブメディアの「今そこにある危機」〈日本経済新聞(2025年6月19日)〉 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCD093QP0Z00C25A6000000/    おおおおお、私とほぼ同意見です。流入が減ると、広告依存型モデルは危機ですが、商品・サービスを売るならコンバージョン率が高ければ問題なわけです。他方、「AIは嘘をつきます」という表示義務の検討については……うーん、人間も嘘つくけど「人間は嘘をつきます」って表示は義務じゃないですよね。   ◆ 「アメリカのMANGA市場」で成長を続けるスクウェア・エニックスの知られざる「3本柱」戦略(飯田 一史)〈現代ビジネス | 講談社(2025年6月20日)〉 https://gendai.media/articles/-/153028   ◇ ユーザーからの評価が★1.9から★4.4へ急上昇…スクエニ『Manga UP!』北米での逆転劇をもたらした秘策(飯田 一史)〈現代ビジネス | 講談社(2025年6月20日)〉 https://gendai.media/articles/-/153029    おお、すばらしいインタビュー。個人的にはとくに後編「Manga UP!」(つまり電子)の戦略が非常に興味深いです。とくに「アプリのセンサーシップ対応」という話。アプリ版で黒塗り加工されている箇所が、ウェブ版では黒塗りがない、という差別化戦略をとっているそうです。強かだ。    これを読んで、2013年に日本で「iBooks Store(現Apple Books)」が始まった直後に『To LOVEる ダークネス』などが配信停止された事件などを思い出しました。集英社はその後、Appleにそういう対応をされたときは「ブラウザ版でお楽しみください」と誘導を図っていました。強か。   【技術】   ◆ 「生成AIは巨大なコピー機」という主張は正しいのか? AIが“著作権コンテンツ”をどれくらい再現できるのか検証(生成AIクローズアップ)〈テクノエッジ TechnoEdge(2025年6月16日)〉 https://www.techno-edge.net/article/2025/06/16/4422.html    海賊版書籍データが混ざっていると悪名高い「Books3」で学習していることが明らかになっているMetaの「Llama 3.1 70Bモデル」が、ハリポタなどの著名作品をほぼ完全に記憶していたという検証結果が出たそうです。「91%以上の部分から元のテキストを正確に抽出できる」とのこと。ただ、膨大な試行が必要な場合もあるし、同じやり方でもほとんど抽出できない本もあるようです。アメリカの裁判所はこれをどう判断するだろう?   ◆ AIはプロのライターになれるのか? 「Copilot」にインタビュー記事を書かせてみた - 使ってわかるCopilot+ PC〈窓の杜(2025年6月20日)〉 https://forest.watch.impress.co.jp/docs/serial/usecopilotpc/2024377.html    正確には、プロのライターが「ChatGPT」にインタビューするという体裁の出力をさせてみた、といったところでしょうか。筆者は体裁を整えただけで、約1800字の本文には1文字も手を加えていないそうです。とはいえ一発で出力できたわけではなく、10分くらいはやり取りを重ねた出力なのですね。    しかし私は読者の立場だと、事前にAI出力だとわかっている文章はやはり目が滑って読めないです。読む気がしないと言ったほうが正しいか。編集者として読まざるを得ない場合は完全にモードを切り替え、嘘出力がないかどうか神経を尖らせる感じになります。最近でも、自分がよく知ってる分野だとしれっと嘘が混ざっていることに気づくことがあるので、気が抜けないです。そのまま使うなんて怖い。 よかったらこの記事をシェアしてください! Xでシェア Facebookでシェア Mastodonでシェア Blueskyでシェア 【雑記】  先週ここで「すっかり梅雨空に」と書いたばかりなのですが、今週はすっかり夏空に。こんなの6月の気候じゃねぇ。太陽から殺人光線が降り注いでます。人体に危険な季節。駅から大学の校舎まで歩くだけでライフがガリガリ減っていきます。(鷹野) 本稿は CC BY-NC-SA 4.0でライセンスされています。転送歓迎。ウェブなどへ転載する際は、HON.jp メールマガジンが出典であることを表記するのと同時に、HON.jp News Blogへのリンクを張っていただけると嬉しいです。 https://creativecommons.org/licenses/by-nc-sa/4.0/deed.ja NPO法人HON.jpは、本(HON)のつくり手をエンパワーする非営利団体です。「HON.jp News Blog」などのメディア事業、「HON.jp Books」などの出版事業、セミナー・カンファレンス・出版創作イベント「NovelJam」などのイベント事業を行っています。   事業収入だけでこれらの活動を継続するのは難しく、会費や寄付などみなさまのご支援が不可欠です。会員は随時募集中でさまざまな特典もご用意しています。さらなるご支援をお願いいたします。   ◆ 入会案内 https://www.aiajp.org/application ◆ 寄付のご案内 https://www.aiajp.org/donation ◆ 広告掲載のご案内 https://hon.jp/news/ad 発行人:NPO法人HON.jp 編集人:HON.jp News Blog編集長 鷹野凌 mail: honjp@aiajp.org 配信数:2565通 このメールマガジンは、HON.jp からのお知らせや、HON.jp News Blog 編集長 鷹野凌による「週刊ニュースまとめ&コラム」などを、原則、毎週月曜日の朝に配信しています。配信対象は、HON.jp News Blog から購読を申し込まれた方々と、これまで HON.jp とご縁があった方々です。   配信には Benchmark Email を利用しています。メール内のリンクはすべて bmetrack.com のサブドメインに自動変換されています。これは、Benchmark Email のシステムが開封率やクリック率などを計測しているためです。計測後、本来のURLへ自動転送されます。   不要な場合はお手数ですが、末尾の「配信停止」からお手続きください。 フォローして最新情報をチェック! 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